表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/101

Area《1-1》

 男、新海 竜(しんかいたつ)はネットゲーマーである。


 それ以上でもそれ以下でもないというより、それ以外の表現方法がほぼ見当たらなかった。

 近年急速に発達した物流を駆使し1年のうち365日を家の中で過ごし、そのうちのほとんどをネットゲームに費やしている。

 彼をここまで――「ゲームは1日28時間」を信条とするほどに――仕上げてしまったのは、ネットワークMMORPG「ファンタジア」。

 今月でサービス開始10年を迎えたこのゲームに、彼は文字通り住みついていた。

細部にいたるまで調整可能なキャラメイク、どこまでもやり込めるゲーム性、プレイヤーのセンスが濃く反映されるゲームシステム、エトセトラ……その全てを、彼は愛していた。


 彼は今日も、4枚設けられた大型ディスプレイの前に座って、思考で操作する脳波キーボードを叩いていた。

「いよっすリリさん」

 活動拠点のユニオンホームにログインすると、すぐに画面の中の男性アバターが手を上げて挨拶をしてくる。彼の所属するユニオン《しおひがり》の仲間である。

「おう、おはようガリアさん」

 竜が脳波キーボードで文字を出力すると、lillyshiaと頭上に表示された自身の女性アバターから女性の音声が発せられる。

「リリさんほんといつもいますよね、って声変えたんすか?」

「くくく、聞いて驚けこれはあの人気声優『日向碧』のボイスユニットよ!」

「マジすかひなたんの? 公式のリストに載ってないってことは本人オーダーメイドかよ!いくらかかってんすか」

「30数万だったかな、いい買い物だったぜ」

 ファンタジアでは出力した文字列を音声変換する機能があり(この機能自体は近年のMMORPGによく見られる)、

 さらにゲーム運営経由でリアルマネーで依頼して、任意の声優のボイスユニットを製作してもらうことができる。本人の音声情報を収録する必要があるため、その価格は数万から数十万円になることもよくある。


 ガリアはひとしきり感心したあと、

「そういやリリさん今上げてる技能スキルなんかあります?」

「んー、今は特にないかな、完全修得マスターが120個になったから一旦吟味タイムかな」

「120って……まあいいや、暇だったら付き合ってもらえません?《釣り:大型》取ったんすけど一人じゃ退屈で退屈で」

「《釣り:大型》かあ、アレたしかに待ち時間長すぎてつらいよなあ……俺もまだ8割だ。適当な海出て上げるか」


 その後、釣り竿や釣り特化装備、釣り場の海について話しあったりしつつ、ユニオンが所持している大型船を借りて近場の海へ出る。

 10年のサービス内で3度描画システムを入れ替え、強化されたファンタジアのグラフィックはMMORPG最高峰との呼び声が高い。その能力を存分に発揮して描画される水面は本物と遜色ない美しさだ。……竜はここ10年以上本物の海を見ていなかったが。


「……最近のVR系ゲームには勝てないとも言われてるけど、俺は画面とにらめっこのこっちのが好きなんだよな」

「VRMMOは人を選びますし、まだ出始めっすからね。もしファンタジアのVR版とか出たら触ってみたいですけど」

 そうだなあ、などと返しつつ船の上で竿を保持しつつ、彼はゲーム内雑誌をめくっている。


 メインモニタにプレイ画面、サブモニタ三枚にそれぞれイベントリやキャラステータス、ゲーム内雑誌等の閲覧情報、自作攻略メモや大手攻略サイトを広げてプレイするのが竜のスタイルである。

 VRMMOPRGソフトは去年あたりからハードと共に大々的に売りだされているが、現実感を持たせないための規制が厳しかったりといろいろ制限を課されており、彼らの望むゲーム体験には今一歩届いていないのが現状なのだ。

「3時間連続でプレイすると落とされたり、性的表現は少年誌レベルでもNGだし、触覚もほとんど持たされてないってんじゃなんのためのVR技術なのかって感じだよなあ」


 そんな話をしていると、リリーシアの竿がピクリと震える。

「お、俺が先に当たりかな?」

 雑誌を読んでいた操作をゲームに戻し、竿を握り直す。すると画面上に釣り技能特有のマーカーが流れてくる。

揺れとともに流れてくるマーカーに合わせてキーを叩くと獲物が釣れるという、いわゆる音ゲーのようなイメージである。


 彼は慣れた感覚でマーカーを叩き始める。開始2分程度は順調だったのだが、

「おいガリア、なんか途中から感触がおかしいんだが、つーかマーカーがひっきりなしに流れてくるぞ!」

 マーカーは際限なく増していき、太鼓ゲームよろしく反射神経だけでキーを連打し続けると、次第に画面にノイズが走り始める。

「リリさん大丈夫っすか、ってリリさんなんかアバターにノイズ入ってますよ、ログアウトしたほうがいいんじゃ!?」


 その声を聞きつつマーカーを叩くことを放棄し、ログアウトボタンを探すのだがすでに画面はノイズまみれ、タスクがバグっているのか操作を全く受け付けない――


「な、視界がぼけて、くそ、意識が……!」


 ――そして、新海竜とリリーシアはこの世界から消滅した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ