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本当の答えとは?

時刻は18時半。日没からまだ一時間だ。

「駅までお送りしますね」

青島さんの車で、駅まで送ってもらうことにした。もっと長い話し合いになると思っていたのに、今日中に帰れそうだ。


「疲れましたね」とお互いの口から出た。

この一か月考え抜いた結論の結果の、本音だ。


「要するに、狐を助けたお礼という事だったんですね」


「どうでしょうな。狐も恩義を忘れず人の姿となり先祖に仕えていたそうですから、助けられた子ぎつねがよほど恩を感じて代々受け継いでくれたんでしょうな」


「それにしても、約束は反故にできるという文言だけ伝承されなかったのはなぜでしょうね。」


「やはり、有益になるという約束だけを信じていたのでしょうな。しかし、あの御老体の狐はよく細部にわたって記憶していたものですな。私など最近では物忘れも激しいというのに」


「本当ですね。よく覚えていらっしゃいましたね」


・・・もしかして

・・・そんなはずないよな。でもそれなら矛盾も生じない。


「あの御老体の狐は・・・・」そう言いかけると


「駅に着きましたよ」と青島さんに話の続きを遮られた。もしかしたら、同じことを考えていたのかもしれない。


「これでお別れですな。私も肩の荷が下りました。あなたもこの一か月大変だったでしょう。

老人から一言言わせていただけるなら、あなたの人生はまだまだ始まったばかりです。

どうか、600年前強い信念のもと自分の意思を貫いた両家の子孫として、恥じない生き方をしてください」


「はい。分かりました。狐の縁で僕のルーツに辿り着いて本当に良い経験でした。青島さんもどうかお元気で」


握手をして、車を降りた。

車の中の青島さんに大きく手を振り、僕は駅へ向かった。


母に、「ちょっと買い物で遅くなったけれど、22時頃には帰るから」とLINEを送る。

「分かったわ。気を付けて帰ってくるのよ」


僕にとっては大仕事を成し遂げた後なのだが、誰にも告げるつもりはない。

あの御老体の狐が話す鮮明な記憶が、僕を躊躇させていた。

もしかして。僕の推測でしかないが、あの狐は助けられた子ぎつねなのではないだろうか?

そうでないと、申合せは反故出来るという人間が忘れた話を、伝承出来るのだろうか。

あの狐の一族は、今はバラバラに暮らしていると言ったが、確かに昔は僕や青島さんの家に仕えた者もいたとも言った。

僕らに伝える時間がなかっただけで、本当は最初の約束のあとの両家の悲嘆にくれる様子などをみてきたのではないだろうか。

だから、今回も僕に手紙を寄越したのではないのだろうか。

それは約束の遂行というより、申合せの施行人という重要な役割を背負っているからだ。

反故にしたことを後悔はしていない。

手紙の差出人欄に押された、判子の謎も解けなかったな。もう終わったから、考えても無駄なことなのか。


今の時代、狐が化けた医者に診てもらうより、人間の医者の方が信用がおけるし。

でも、医者として仕えていたということは、僕ももしかしたら狐が化けた医者に診てもらったことがあるのか??


もう考えるのはやめにしよう。

この一か月、僕は少しだけ成長したのかもしれない。

子供だと思い込むことで、母や祖母の気持ちを顧みたこともなかった。

しかし、今は少しだけ母や祖母と向き合って話せるようになったと思うんだ。


母が以前のような笑顔を取り戻すのには時間は必要だろう。僕が出来る事は、おばあちゃんが言うように一緒に食事をとることくらいなのかもしれない。

でもその時間を大切にしていこう。

おばあちゃんも、気丈にふるまっているが、息子の死という辛さで泣いていることもあるだろう。

時々LINE送ってみようかな。


そのとき、マナーモードにしていたスマホが鳴った。

おばあちゃんからのLINEの着信だ。

「今日の夕日もいつも通り綺麗だったよ」

写真も添えられていた。

おばあちゃん、いつの間に画像送付覚えたんだろう。僕に見せたくて送ってくれた気持ちが嬉しかった。


「本当に綺麗だね。ありがとう」

それだけ、返信した。


清々しい気持ちで、いっぱいだった。

もう僕は申合せ施行人じゃない。


来月からはただの社会人だ。

いつかは、親父みたいに家族を支えられる器の大きい人間になるからな。

東へ向かう車窓の明かりが、多くなってきた。

帰ってきたんだ。


何事もなかったように、家に入ろう。そして「夕飯温めなおして食べなさいね」なんて嫌みの一つも言われながら父がいたときとは違う我が家の味にも、少しずつ慣れていこう。


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