申合せの終了のとき
先頭にいた、狐が急に3回回ってみせたら、黒縁メガネをしたスーツ姿の男になった。
「この姿の方が話しやすいでしょう。狐の姿じゃ話も混乱しますしね。
ところで、嫁入りは辞めにするということですが、我々の600年の約束を反故にするということですよね?600年前の約束をお忘れでしょうか?
嫁入りさせた家系が、長生きできるという約束ですよ。青島さんは300年前の嫁入りによって恩恵を受けて長生きされてるではないでしょうか。高田家は、先代も、先々代も短命で終わっていますよね。
これで、本当にいいのですか?」
感情のない冷たい言い方に僕は心に何か刺さったような気がした。
「もう止めなさい」
今度は、別の狐がしわくちゃな老人の姿になって現れた。
「青島さん、高田さん、こちらは了承いたしました。
そちらの決意をお聞きし、安心いたしました。600年前の約束で両家には文章には残してはならぬ。口頭のみで伝承していくことといたしましたので、肝心なことが抜け落ちてしまっているのです。
300年という時を経た時に、忘れ去られると思われたのですが、両家とも伝承して約束を果たされた。
その後、私たち一族の中でも間違った伝承において、今回そちらに手紙を届けるという不届きものもおりました。お詫びいたします。」
「え?どういうことですか?」
僕は、思わず聞き返した。
「600年前のことからお話ししないとなりませんな。
あの当時は、現在と違い医学もまだ発達しておらず、疫病が蔓延しておりました。
薬もなく、現代でいう民間療法を行っておりました。
しかし、残念ながら、若くして命を落とすものが沢山いたのです。
そして、あの日青島さん、高田さんのご先祖がこの神社に来たことから、この話は始まったのです」
「その前に、なぜ両家を選んだことから話さないとなりませんね。
この神社には大勢の方がお参りに来られていたのですから。
この辺りには、そのころ大きな狐塚がありました。狐というのは元来家族単位で暮らす生き物で、
他の家族と暮らすなどということは、ありません。今日来ている狐達も普段はバラバラで暮らしています。」
「父上、話を早く進めないと日没になります」
スーツ姿に姿を変えた狐が、老人に姿を変えた狐に話しかけた。
「そうじゃな。日没までに終わるように話を早めよう。
600年前、大雪が降って、狐塚に住んでいた狐達は食料に困っておったのだ。
50世帯くらいが住んでいたと言われる。そこに青島さんの御子息、高田さんのお嬢様がおいでになったのだ。弱っている子ぎつねを暖かい青島さんの納屋に連れて行ってくれて、介抱してくれたのだ。
そして、弱った子ぎつねが元気になり、その子ぎつねと共に両家に保存されていた鹿の肉を我々の狐塚に運んでくれたのだ。
我々は、その恩義を忘れないと誓った。
しかし、当時の高田家、青島家は反りが合わないというのか、いつもいがみ合っていた。
そこで、我々は長寿を約束するということと引き換えに、両家の御子息とお嬢様が結婚出来る方法を考えたのだ。
当時、青島家には息子しかおらず、高田家が嫁を出すということは分かっていた。
そこで、高田家のお嬢様を嫁入りさせて、青島家の御子息と婚姻できるように手配したのだ。」
「でもそれって、ばれるんじゃないんですか?」
「いや、両家とも疑うものはいなかった。二人は今の和歌山県に移り住んだのだ。
高田さんの家系は、和歌山におるじゃろう。その家系だからだ。」
600年前の岡山と和歌山。。。
今でも遠いな。青島家とは遠い親戚ということか。
「狐に嫁入りをさせた高田家は、確かに長生きをした。そして青島家は息子が一人いなくなったことで嫁に出さなかったためなのかもしれないと、思い込むようになった」
「おっと、日没の時間だ。
両家とも『申合せは終了します』と太陽様に3回唱えてください」
山に沈む夕日を見ながら、心の中で言われたように3回唱えた。




