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申合せを破棄しよう

居間のコタツの上で鳴った、スマホを手に取る。

やはり、青島さんからだった。


「高田様

 例の件、お考えいただけたでしょうか。我が家のこれからの発展のためにも妙齢な娘を一族で探したのですが、該当する娘がおりませんでした。狐に嫁入りをするという話は伏せて話をしたのですが、どこの誰とも分からない相手と結婚などという話は全て拒否されました。

今では、私は困った年寄りという扱いです。

 高田様は、当該の女性を嫁に出せるでしょうか?その場合は、我が家で嫁入り道具一式用意させていただきますので、御心配なく」


青島さんのメールを読んでほっとした。

年齢に関係なく、どこの誰に嫁ぐということに抵抗がある方が当たり前なのだ。

ましてや、狐に嫁入りするなどと話したら、青島さんは病院にでも連れて行かれるかもしれない。


僕は、迷わず返信した。

「我が家も、嫁に出せる人間はおりません。青島様も同様であれば、この奇妙な風習をやめませんか?」


決意をした僕にもう迷いはなかった。

祖母、母、二人とも若くして連れ合いを亡くしている。僕は二人とも支える事はまだ出来ないけれど、壊れそうなほど辛い気持ちが伝わってくる。

親父、おじいちゃん、二人とも不幸な人生だったのか?

いや、僕にはそうは思えなかった。

祖母も、母もそれぞれの悪口など言ったことないのだから。

僕に聞かせる話だから、まだ言えないこともあるのかもしれない。

だが、仕事ぶりや、いかに家族を愛していたのか、そんな話を聞かせてくる。


愛されていたんだから、親父もおじいちゃんもそれで充分だよな。

僕が愛なんて語るなんて、まだまだ恥ずかしい。

でも、これでいいんだ。


ほどなくして、青島さんからメールが届いた。

「高田様

 メールの件、承知致しました。申合せの施行人として、我々は狐との約束を破る事となります。

どのような結末になるかは、分かりません。

お覚悟されたし。

3月3日、施行場所に来てください。

我が家からすぐの、小さな神社が施行場所として伝えられています。時間は日暮れの時。

お待ちしております」


あと3週間か。

スマホで、3月3日の日没時間を調べる。17時35分。

僕にはどんな運命が起きるのだろうか。考えても仕方ない。一度も経験したことがないんだから。

手紙一つも残っていないんだから。


台所から、ふんわりとおばあちゃんの料理している匂いがしてきた。

魚の煮つけかな。

父を亡くして、料理も出来なくなっている母を思いながら、その匂いに心地よく包まれていた。

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