Act06:天使の仲間
白い輝きが、周囲の澱んだ魔力を駆逐していく。
天属性の魔力が有する浄化の性質は、僕の未熟な魔力であっても、その性質を確実に現していた。
白い光の中に巨人の姿は消え去り、その体を構成していた肉塊も、無数の怨嗟も、分解されるように消滅していく。
爆発的な光は天へと駆け上り、そのまま天壌に吸い込まれるように消滅して――その中から一つ、紫色の結晶が僕の手の中に落下してきた。
「これは……」
信じがたいほどの力を感じる結晶体に、僕は思わず首を傾げる。
これが一体何なのか、分からずに持ち上げながら眺め――その瞬間、この広間に声が響き渡っていた。
「素晴らしい、実に素晴らしい。先ほどは無駄と言ったが、訂正しよう、伯爵。彼は実に良い働きをしてくれた。こうして、私と君の出会いを作ってくれたのだから」
「ッ……!?」
耳に届いた声に目を見開き、僕はすぐさま戻ってきた槍を取り出して構える。
その方向へと視線を向ければ――驚くほど近くに、空中に立つ白い仮面の姿があった。
歪んだ笑みのような、白い仮面。その隙間から覗く真紅の瞳に、僕は思わず息を飲んでいた。
敵意は無い。悪意も無い。僅かに覗く瞳にも、その言葉の中にも――僕は、ただ歓喜以外の感情を読み取ることは出来なかった。
「初めまして、最終天使殿。私にはいくつもの名前があるため、名乗ることは難しいが……せめてもの誠意として、ネームレスと名乗ることとしよう」
「名無し? ふざけているんですか」
「ふざけてなどいないとも。私はただ、君との出会いに感激しているだけだよ」
堂々と名前が無いことを宣言する。それが誠意だと言われても、僕には理解することは出来ない。
僕は警戒を怠らぬようにしながら、いつでも動くことが出来る体勢を保ちつつ、仮面の男――ネームレスへと声を上げた。
「貴方は、人造天使のことを……」
「無論、知っているとも。人造天使計画……大戦期、魔人の侵攻を食い止めるために作り出された人型兵器。君はその終期型。開発コード『アイリス』……違うかな、イリス君」
否定は出来ない。それどころか、ネームレスは僕以上に僕の情報を有している様子であった。
粘つくような視線と、芝居がかった言葉。不快感を感じずにはいられないが、僅かにすら動ける隙を見つけることが出来ない。
クレイグさんとクラリッサさんを片手間に一蹴してしまうほどの相手なのだ、僕がこの距離で出来ることなど何も無いかもしれない。
それでも僕は彼の瞳を睨み返しながら、その気配を振り払うように強く声を上げた。
「だったら、何だって言うんですか!」
「事実の確認だよ、イリス君。私は以前から、君の存在を知っていた。君の兄や姉たちは、随分と君のことを気にかけていたようだったからね」
「……ッ!?」
やはり、この男は知っている。僕の兄と姉達を。
あの研究所で生まれた、他の人造天使達を。
思わず目を見開く僕に、ネームレスはくつくつと笑い声を零していた。
「ああ、惜しい。私の手で目覚めさせ、私の手で染め上げたかったが……どうやら君は、既に明確な自我を有しているようだね」
「な……!?」
「だが、それも一興というものだろう。こうして目の前に姿を現してくれたのだ、あても無く探すよりも遥かに楽だし、君の姿をこうして眺めていることができる。実に美しい姿だ、見惚れてしまうよ」
思わず背筋に怖気が走るけど、生憎と逃げられるほどの隙も無い。
攻撃も撤退も出来ず、僕が身動きをとれずにいたその時――目の前に、ネームレスの姿が現れた。
僕の頬に手を当て、まるで口付けをするように顎を持ち上げてくる男。
触れてきた手と、その気配のおぞましさに、僕は思わず顔を顰めていた。
「素晴らしき技術を持っていた、彼らの造り上げた集大成……嗚呼、実に見事だ。心躍らずにはいられない。君は未だ未熟であるが故に、何者にもなれる可能性を秘めている」
「何、を……!」
「提案だ、イリス君。君は、私の元に来る気は無いかね?」
その言葉に、僕は目を見開き――次の瞬間、突如として発生した風の刃が、ネームレスへと向けて放たれていた。
彼は軽く体を仰け反らせただけでその攻撃を回避してしまったが、その隙に僕はすぐさま後退し、そして僕とネームレスの間には飛行してきたアイが割り込んでいた。
これまでに無いほどの敵意を露にするアイは、ネームレスへと向けて絶叫に近い声を上げる。
「汚らわしい手で、私のイリスちゃんに触るなッ! イリスちゃんは、お前のものになんかならないのです!」
「サポートフェアリー……この自我の出来具合も、流石といった所か。しかし、どうやら嫌われてしまったようだ」
アイの憎悪すら篭った視線も、僕の不快感を全開にした視線も、まるで応えていないかのようにネームレスはそう呟く。
何者なのか、何のつもりなのか。理解できず――けれど、何とか離脱できる距離まで下がれたことを自覚する。
「ふむ、そうだな。簡単に手に入ってしまったのでは面白味に欠けるか……では、こうするとしよう」
ネームレスはそう呟くと、唐突に僕たちの方から視線を外し、地上にいるクレイグさんたちへとむけて声を上げた。
「武家の諸君。君達が私を追ってきた理由は、おおよそ把握している。だが生憎と、君達の目的とするものは、今私は持ち合わせていない」
「貴様ッ!」
「答えなさい、アレを何処にやったと言うの!?」
「本来ならば答える義理は無いが……方針を変えよう。私は、イリス君の成長を楽しみにしている。故に――君達が彼女を連れてその回収に向かうと言うのであれば、それを明け渡そうではないか」
その言葉に、クレイグさんたちは目を見開いて僕へと視線を向ける。
一体何のつもりなのか、本当に言葉通りの意味なのか――分からないが、少なくとも何らかの事件に巻き込まれてしまったことは間違いないようだ。
「ゲームだ。そこには試練がある。君達とイリス君がそれを乗り越えることが出来たのならば……君達の求めるものも、回収できよう」
「何を、考えている……!」
「言っただろう。私は、イリス君の成長を楽しみにしていると。無限の可能性を秘めた彼女が行き着く先を目にし――そして、改めて彼女を我が物とする。尤も、彼女を置いていくと言うのであれば、直接私の手で染め上げるしかない訳だが」
「ふ、ふざけるなです! お前なんかにイリスちゃんは渡さないのですよ!」
アイの威嚇も何処吹く風で、ネームレスは続ける。
芝居がかったその調子が、僕にとってはひたすらに不快だった。
「では諸君。君達の求めるものの、その縁の地へ行くがいい。そこにある試練の果てに、見事取り戻して見せるがいい」
そう言い放った瞬間、ネームレスは虚空を蹴り、後方へと跳躍する。
まるで、影の中に沈み込んでいくかのように、その姿は消え去っていき――
「――君の成長を、君を手折るその時を楽しみにしているよ、イリス君」
――その言葉を残して、ネームレスは立ち去っていた。
* * * * *
あの後――僕たちは、あの施設を脱出して『湖面の三日月亭』へと戻っていた。
後のことはクラリッサさんが、正確に言うとエメラさんが手配してくれていたらしい。
まあ、証拠品は色々と押収したし、既に敵対する意志のある者もいない。
ドライ・オークスならば問題はないだろうというのが、クレイグさんの弁であった。
とりあえず、僕はそのあたりのことはよく分からないし、おまけに疲れていたから任せてきたけど。
「……はぁ」
「さあ、洗いましょう! あの変態仮面に触られたところを洗うのですイリスちゃん!」
「いや、流石にそこまで気にしなくていいから……手袋つけてたし」
素手で触られてたら、本当に洗いたいと思っていたかもしれない。
何と言うかもう、本当に疲れた……戦いもそうだけど、あのネームレスに全部持っていかれた気分だ。
何と言うか、本当に厄介な奴に目を付けられてしまった。
「……流石に、逃げられないよねぇ」
「う……それは、言いづらいですけど、そうだと思うのです。あの男、クレイグさんが霞んで見えるほどの変態でしたが、実力は無茶苦茶でした……戦闘モードのイリスちゃんが反応し切れなかったなんて、信じられないのです」
「となると、言われたとおりにするしかないか……」
クレイグさん達に同行し、僕自身が強くなること。
強くなった果てにもネームレスは現れるつもりのようだけど、今のまま相対するよりはよほどマシだろう。
……強くなるつもりはあったけど、かなり危機感が出てきた感じだ。
「……頑張るしか、無いか。ここでこうしていても仕方ないしね」
このまま寝転がっていたら、そのまま朝になってしまいそうだ。
少し、気分転換をしないと――
1.下の酒場には誰かいるかな?
2.少し、空でも飛んで気を紛らわせよう。
>3.得物の手入れをする
4.あな を ほる
5.他の仲間の就寝時の様子を探りにいく
6.ん? デッキが落ちてる
「……一応、整備しておこうか」
とりあえず翼を展開し、収納されている《神槍》を取り出す。
元々僕の体に接続されているような《天翼》や《光輪》と違い、《神槍》はこれ自体が独立した武器だ。
自己修復の機能がない訳ではないけれど、他の二つに比べればチェックは欠かせない武器でもある。
まあ、攻撃に用いる分乱暴に扱わないといけないから、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
「でも、傷一つ無いよなぁ……それどころか、汚れもない」
「あんな肉の塊貫いた程度じゃ、《神槍》がダメージを受けるはずが無いのです。それに、汚れに関してはイリスちゃんの魔力で浄化されたと思うのですよ」
「ああ、そっか。《天槍撃》で消えなかったのはあの結晶ぐらいだもんね」
ネームレスがあの巨人を造り上げる際に使用した紫の結晶。
あれこそが、かつてエルセリアから奪い去られた力の結晶。
あの中から感じた膨大な力こそが、エルセリアの力そのものだという。
ネームレスが去り、地上に戻った僕からあの結晶を受け取ったエルセリアは、喜び勇んであの力を取り込んでいた。
まあ、見た目は幼女のまま変わらなかったけど、本人曰く魔力容量がある程度回復したとのことだった。
『まだまだこんなものじゃありません! あの仮面を追い詰めて、もっと私の力を取り戻しましょう!』
――と、本人は薄い胸を張って叫んでいたけど、彼女は気付いているのだろうか。
結局魔力の回復機能は復活していないのだから、以前より多めに補給してもらう必要が出てきてしまったということを。
……たぶん気づいてないんだろうなぁ。ただ喜んでただけだったし。
その様子を見つめるクレイグさんは実に楽しそうな笑みを浮かべていた。うん、本当に楽しそうだった。
「ネームレス……あの男が、エルセリアから力を奪ったってことかな」
「詳しくは聞いてないですけど、そうなんでしょうねぇ。面倒な奴に目を付けられているのです」
「人のことは言えないけどね、本当に」
《神槍》に魔力を通し、各種機能をチェックしながら、僕は思わず嘆息を零す。
その面倒な奴に、今最も注目されているのが僕なのだから。
あのねっとりとした口調からは、何を考えているのかが今一読み取りづらかったけど……貞操の危険も感じなきゃいけないんだろうなぁ、表現がいちいちアレだったし。
「……よし、とりあえず異常は無し、と。むしろ、調子はよくなってる感じかな?」
「イリスちゃんの魔力に馴染んできたみたいなのです。使っていれば、もっと魔力を込めた攻撃の威力も上がっていくのですよ」
「へぇ、なるほど。そういえば、あの魔力をレーザーみたいに吐き出す攻撃も使えてたけど……」
「あー、アレはあんまり制御できてない感じだったのですよ。まあ、施設にいた頃は暴発しただけだったのですが……本当なら、もっと細かく操れるはずなのです」
「その辺は、要練習って所だね」
僕は強くならなければいけない。ネームレスの用意した試練以外でも、その機会があるならば、貪欲に強さを求めていかなければ。
槍も、魔法も、様々な技能も……僕にはまだまだ、力が足りない。
「……アイ」
「はいです、どうかしましたか?」
「ううん……一緒に、頑張ろうね」
「はい、勿論なのです!」
この体を、アイリスの体を、あんな男に渡してなるものか。
女性として生きることについては、まだ色々と考えることもあるけれど……少なくとも、あんな男だけは絶対に御免である。
強くならなければ。何者にも負けないような、強さを。
「明日から、忙しくなるよ、アイ」
「ええ。アイも頑張るのです」
僕達は、明日この国の首都へと向けて出発する。
クレイグさんもクラリッサさんも、あのネームレスの言葉について報告しなければならないことがあるそうだ。
恐らく、僕もその場に居合わせる必要があるのだろう。
ネームレスが指名してきたのは、他でもない僕なのだから。
「うん……頑張るよ」
小さく呟いた言葉は――僕自身に、言い聞かせるもののようでもあった。
* * * * *
朝になり、身支度を整えて下の食堂へと顔を出す。
そこには、既にクレイグさんやクラリッサさん達の姿があった。
少しだけ驚いたのは、そこにエメラさんの姿があったことだ。
まだ、体の所々に包帯を巻いているものの、特に痛みを感じているような様子もなく、クラリッサさんの後ろでシルフィさんと一緒に控えている。
「おはようございます……エメラさん、怪我のほうは大丈夫なんですか?」
「おはようございます、イリスさん。ええ、戦闘行動はまだ難しいですが、動く程度ならば問題ありません。とにかく自己修復に努めていましたから」
どうやら、エメラさんは色々と特殊な技能を使えるらしい。
まあ、起き上がれるようになったと言うのならばいいことだろう。
助けてきた身としても、元気な姿を見れたほうが嬉しいしね。
……まあ、この場には一人、元気じゃない人がいるのだけど。
「……で、エルセリアはどうしたんですか?」
「アレですか、色々とやられて腰が痛いという奴ですか。流石なのです」
何が流石なのか。
まあ、クレイグさんとエルセリアからは殆ど同じ匂いが漂ってくる。
あれだけ派手に魔法を使って魔力も枯渇していたようだったし、お疲れなのも仕方ないだろう。
そう思っていたのだけど、クラリッサさんは苦笑交じりに首を横に振って否定していた。
「どちらかと言うと、自己嫌悪のようだけどね。彼女、酔うと甘え上戸だったのよ」
「うああああああっ! 言わないで、言わないで下さい! 一生の不覚です!」
「……お前、割としょっちゅう同じことを言ってるよな。まあ、俺としては嬉しい限りだが」
「甘えられていた時の貴方の表情、獣そのものだったわよ」
突っ伏しながら頭を抱えているエルセリアと、すっきりと満足気な表情のクレイグさん。
そんな二人の様子に、クラリッサさんは半眼で嘆息する。
犬も食わない、と言うことだろうか。まあ、変に突っつくと面倒な反応が返ってきそうだし、特に気にしないことにしておこう。
幸い、防音結界は張ってくれていたようだったし。
いつか忘れて音が聞こえてきたらどうしようかと思いつつ、僕は他のみんなと同じように、適当に朝食のメニューを注文する。
「さて、全員集まったわけだが……今後の話をするってことで、問題ないな?」
全員を見回しながらクレイグさんが言った言葉に、僕達は頷く。
何はともあれ、落ち着いて話をする必要があるのは事実だ。
アイが風の魔法によって軽く遮音の領域を作り出すと共に、クレイグさんはクラリッサさんの方へと視線を向けて問いかける。
「とりあえず、この街の後始末についてからだが……それは、そっちに任せていいんだったな?」
「ええ。エメラの護衛として呼ぶ際、色々と人員を追加しておいたから。私の要件こそ極秘ではあったけど、今回の件は秘密裏に処理できる限界を超えているわ。新しい領主を選出する必要もあるから」
「……まあ、任せられるというなら任せるさ。流石に、そっちには口出しできないからな」
「口出しできない、ねぇ……まあいいけど」
クラリッサさんが嘆息交じりに呟いた言葉に、僕は思わず首を傾げる。
クレイグさんの素性はさっぱり知らないけど、クラリッサさんは何か知っているんだろうか。
「ともあれ、後始末が問題ないのであれば、後は俺たちの都合だ」
クレイグさんがその言葉を口にし――それと同時に、皆の視線が僕の方へと向けられる。
まあ、言いたいことは分かる。あのネームレスの話からしても、僕の存在がクレイグさん達の目的と密接に関わるようになってしまったのは確かなのだから。
「……ここまで巻き込んでしまった以上、あまり隠し立てするのも悪いし、概要程度は説明する。まあ、詳しく話せないのは勘弁して欲しい」
「あ、はい。大丈夫です」
「感謝する。だが、ある程度は想像がついているだろう……あの仮面の男、確かネームレスと名乗ったんだったか。奴は、俺たちの所から重要な物品を盗み出した。俺たちの仕事は、それを回収することだ」
「かなり危険な品物でね。あんな男の元に置いておく訳にはいかないのよ。まあ……どうも悪用する気満々のようだったけど」
憂鬱そうな表情で、クラリッサさんは嘆息する。
ネームレスが盗み出したのは何かしら危険な道具で、奴はそのアイテムを関連する場所へ持って行くと言っていた。
そこに、僕を成長させるための試練があると。
「……その、取られたものって言うのはいくつあるんですか?」
「エルセリアの力を除けば、俺たちだけで三つだ。だが、他にも同じ被害が出ている可能性は否定できないだろうな」
最低でも三つ。エルセリアの力の欠片を加えれば四つ以上。
まあ、エルセリアのほうは縁の地と言うものがあるのか分からないし、現状分かりやすいのはその三つと言うことだろう。
了解して頷いた僕に、クレイグさんも首肯を返すが、その後若干視線を細めて僕に問いかけていた。
「一応聞いておくが……やるつもりはあるか?」
「そりゃあやりますよ。やらなかったらあの変態に何をされるか……貞操の危機も感じましたし」
「冗談じゃないわね、本当に」
当事者じゃないにもかかわらず、クラリッサさんも本気で嫌そうな表情をしている。
クラリッサさんでさえそれなのだ、僕の感じているものは嫌とかそんなレベルの話ではない。
いくら女性の体を持っているといっても、僕は二十年近く男だったのだ。
あんな手つきで触れられるだけでも嫌なのに、その先など想像もしたくない。
……まあ、ちょくちょく女性的な感性になっている部分を感じることがあるが、それとこれとは話が別だ。
「とにかく、僕も自分の身がかかってるので、協力……と言っていいのかどうかは分かりませんが、ちゃんと戦います」
「ああ、助かる。とは言え、いきなり行く訳じゃない。一度、首都に戻って報告しなきゃならないからな」
「報告、ですか?」
「ああ、状況が動いたからな。一度、話を通しておくべきだろう。一緒に来てくれるか?」
「はい、それはまあ」
ここで分かれる意味はない。
僕は、クレイグさんたちについていくつもりだ。
その方が、強くなれる気がするしね。
「となると、移動手段が必要だな」
「転送便はしばらく使えないわよ。緊急だったから使ってしまったし、魔力が溜まるまでしばらくかかるもの」
転送便、転送ゲート的なものらしいけど、これは魔力が溜まっている状態じゃないと使用できず、しかも溜まるまでにしばらくかかるそうだ。
使用するにも、かなり面倒な手続きが必要らしく、これで移動するのは難しいだろう。
「ま、方法としてはコントラクターの依頼でキャラバンの護衛でも引き受けるか、普通に移動するかのどちらかだな。どちらにしろコントラクターの登録はして貰うつもりだが、どうする?」
つまり、移動商隊の護衛として移動するか、普通に旅をするかのどちらかと言うことだろうか。
前者なら、恐らくそれなりに快適な旅が出来るだろう。
ただ、他の人も結構いるだろうし、ある程度は束縛されてしまうことが予想できる。
逆に後者は、完全に自分達のみで色々と揃えなければならない分、割と自由は利くはずだ。
さて、どうしようか――
>1.キャラバンの護衛
2.普通に移動する
今後コントラクターとして活動するなら、その仕事を覚えておいたほうがいいだろう。
お金は稼ぐ必要があるわけだしね。
「僕としては、キャラバンの護衛をやってみたいです。何事も経験ですし」
「ま、それが妥当だろうな。あっちの方が楽できるし」
「いいですけど、今回は色々絡まれそうですね、クレイグ」
「……ま、覚悟しておくさ」
エルセリアの言葉の意味がよく分からず、僕は首を傾げる。
僕が加わるせいで、クレイグさんに余計な迷惑をかけてしまうということだろうか。
そんな表情が出ていたのだろう。クレイグさんは、苦笑しつつ首を横に振って声を上げた。
「このメンバーで行くとなると、俺以外の全員が女だからな。やっかみを受けることは覚悟しておくってことだよ」
「あ、あー……それはその、ごめんなさい」
「別に、お前が悪いわけじゃないだろ」
頭を下げる僕に、クレイグさんは笑いながらそう答える。
クレイグさんは今までエルセリアと二人きりだったけど、今回はこうしてパーティを組むことになるのだ。
自分で言うのもなんだけど、美少女ばっかりである。クレイグさんに嫉妬の視線が行くのも仕方ないだろう。
「その辺、そっちにも何か面倒が行くかもしれないが……心配する必要はないか。単純な筋力だけなら、お前さんは俺よりも強そうだ」
「あはは……」
まあ、それは確かに。下手な薬も効かないし、僕を拘束しようとするのは至難の業だろう。
僕が本格的に身の危険を感じるとしたら、それはあの変態仮面ぐらいだろう。
「それじゃあ、その方針で行くとするか。後は俺とクラリッサの話だが……」
「ん、何かしら?」
「大した話じゃない。俺とお前さん、どちらの目的を達成するにしても、その後も協力するかどうかってことだ。俺のほうはどうせ他にやることもないし、エルセリアの力が絡んでくる可能性もあるからな。問題はないが――」
「ああ。それなら私も問題ないわ。ちょうどいい修行になりそうだもの。それに……あの仮面の男には、借りを返さないといけないわ」
闘志を滾らせつつ、クラリッサさんはそう答える。
ということは、とりあえずその三つのアイテムを回収しきるまでは、このメンバーで動けるということだろう。
少しだけ安堵して、僕はほっと息を吐き出す。
何だかんだで、このメンバーでいるのが楽しいと思い始めていたのだ。
「なら、とりあえずはこの面子で行くとしよう。これからしばらく、よろしく頼む」
「正直な所、人造天使にはあんまりいい思い出はありませんが……イリスちゃんはいい子ですからね。共に頑張りましょう」
「期待してるわよ、イリス。一緒に、あの仮面をぶちのめしてやるとしましょうか」
「アイはいつでもイリスちゃんと一緒なのです! 張り切っていくのですよ!」
皆の言葉に、僕は少しだけ圧倒されながらも、口元には自然と笑みが浮かんでいた。
突然、訳も分からずに投げ出された世界だけど――こうして、仲間を見つけることが出来た。
思いがけず困難に直面してしまったけれど、彼らと一緒ならば勇気を持って立ち向かうことが出来る。
だから――
「はいっ! よろしくお願いします!」
――僕は、笑顔でそう答えていた。
【Act06:天使の仲間――End】
NAME:イリス
種族:人造天使(古代兵器)
クラス:「遺物使い(レリックユーザー)」
属性:天
STR:8(固定)
CON:8(固定)
AGI:6(固定)
INT:7(固定)
LUK:4(固定)
装備
『天翼』
背中に展開される三対の翼。上から順に攻撃、防御、移動を司る。
普段は三対目の翼のみを展開するが、戦闘時には全ての翼を解放する。
『光輪』
頭部に展開される光のラインで形作られた輪。
周囲の魔力素を収集し、翼に溜め込む性質を有している。
『神槍』
普段は翼に収納されている槍。溜め込んだ魔力を解放し、操るための制御棒。
投げ放つと、直進した後に翼の中に転送される。
特徴
《人造天使》
古の時代に兵器として作られた人造天使の体を有している。
【遺物兵装に干渉、制御することが可能。】
《異界転生者》
異なる世界にて命を落とし、生まれ変わった存在。
【兵器としての思想に囚われない。】
使用可能スキル
《槍術》Lv.2/10
槍を扱える。戦いの中で基本動作を活かすことができる。
《魔法:天》Lv.1/10
天属性の魔法を扱える。とりあえず基本的な魔法を使用可能。
《飛行》
三枚目の翼の力によって飛行することが可能。
時間制限などは特にない。
《魔力充填》
物体に魔力を込める。魔導器なら動作させることが可能。
魔力を込めると言う動作を習熟しており、特に意識せずに使用することが可能。
《共鳴》
契約しているサポートフェアリー『アイ』と、一部の意識を共有することが可能。
互いがどこにいるのかを把握でき、ある程度の魔力を共有する。
《戦闘用思考》
人造天使としての戦術的な思考パターンを有している。
緊急時でも冷静に状況を判断することが可能。
《鷹の目》
遥か彼方を見通すことが出来る視力を有している。
高い高度を飛行中でも、距離次第で地上の様子を把握することが可能。
《鋭敏感覚》
非常に鋭敏な感覚を有している。
ある程度の距離までは、近づいてくる気配などを察知することが可能。
称号
《上位有翼種》
翼を隠せる存在は希少な有翼種であるとされており、とりあえずそう誤魔化している。