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人造天使の歩む道  作者: Allen
1章:始まりの古都
3/17

Act03:天使の出会い












 古都フリオール――助けた女性の示した先にあった都市は、そう呼ばれていた。

 古にあった都市を元に作られた場所であり、古い建造物が今なお形を残している場所がある。

 まあ、その辺りは、拘束された騎士団の詰め所で世間話程度に聞かされたのだけど。


 怪我をしている彼女を街の前まで運んだ際、僕はこの騎士団に拘束されていた。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ないだろう。僕は身分を証明できるようなものは持っていないし、重傷を負った怪我人を運んできたのだから。

 幸い、あの女性がある程度事情を話してくれたのか、詰問されるようなことは無く。

 僕はあっさりと釈放され、このフリオールの街に足を踏み出していた。



「いやぁ、波乱万丈でしたねぇ」

「そうだね。ホント、どうしてこうなったんだか」



 僕の胸元に隠れながら周囲をうかがうアイは、上機嫌な様子で呟いている。

 正直、素肌に触れている状態でもぞもぞしないで欲しいんだけど、まあアイを露見させるよりはマシだろう。

 契約妖精はかなり希少な存在らしく、目を付けられてしまう可能性が無きにしも非ずなのだ。

 まあ、僕たちは互いの状態を把握できるし、例え誘拐されても一瞬で場所を割り出せるのだけれども。


 ちなみに、僕があっさりと釈放された背景には、このアイの存在も影響している。

 妖精は、悪人には懐かないのだ。悪人でも契約を結ぶことは出来るが、それは無理矢理に結ばれたものであり、妖精の自意識は殆どなくなってしまう。

 これほど明るく、天真爛漫なアイと契約できている僕が、悪人であるはずが無い――ということらしい。

 本当に、アイにはお世話になりっぱなしだ。



「さて、アイ。こうやって街についたはいいけど、一つ問題があるね」

「む、何でしょうか、イリスさん?」

「……お金、無いよね」

「……無いですねぇ」



 丸出しの背中に集まる視線から逃れるように歩きながら、僕は小さく嘆息を零していた。

 僕たちが持っているアイテムは、皆あの施設から持ち出したもの。

 あんな地層に埋まっていたほど昔のものは、当然全て希少極まりないものだ。

 そうとは知らず、これを換金できるかと尋ねた相手の騎士が仰天して倒れてしまったのは記憶に新しい。

 とてもじゃないが、この街の古物商では換金できる代物ではないのだそうだ。

 話したのが実直そうな騎士一人だけだったのは不幸中の幸いだろう。

 しかし――



「一番大したこと無さそうな道具であの反応だったからなぁ……」

「他のやつとか、とてもじゃないけど値がつきませんよねぇ」

「まあ、食事も睡眠も必要としない体だけど、やっぱりゆっくり休みたいからね」



 魔力さえ供給されていれば、この身体はいつでも万全の状態を維持できる。

 やろうと思えば不眠不休で働けるけど、精神が疲弊しないかどうかはまた別の話だ。

 何とかして拠点は確保したい。それに――



「色々、美味しそうなものもあるし」

「うう、減らないはずのお腹が刺激されるのですよ」



 あくまでも必要がないだけで、物を食べることも睡眠を取ることも可能だ。

 前世では久しく血管からしか栄養を取れていなかった身としては、色々なものを食べて回りたいのである。

 しかし、先立つものが無ければどうしようもない。



「うーん、何か日雇いでもいいから仕事して稼がないと……」

「世知辛い世の中なのです」

「まあ、仕事しろとは言わないけどさ……アイも何か手伝ってよ?」

「勿論なのです」



 僕の胸元でご満悦のアイの様子に、僕は思わず嘆息する。

 色々と都合のいい性格してるからなぁ、この子は。

 そんな部分に助かっている所もあるし、文句は言えないけど。



「さて、どこか飲食店の仕事とかなら、賄とか貰えないかな――」



 ぐるりと周囲を見渡し、良さそうな店を探す。

 と――そんな僕の視線が、一つの店に向かった瞬間だった。



「うわああああああああああんっ! もう嫌です、嫌ですよこの変態!」



 ――そんな叫び声を上げながら、一人の女の子が扉を蹴破るような勢いで現れたのは。

 目立つのは、頭に被った巨大な帽子。魔女の被るようなそれを押さえながら現れた彼女は、少々大きめに思えるローブを靡かせながら、泣き喚きつつ僕のほうへと向かってくる。

 どうやら、帽子を目深に被りすぎて前が見えていないらしい。



「おっ、と」



 避けるのも簡単だけど、それでは彼女が可哀想だ。

 突っ込んできた彼女を鎧の無いお腹の部分で受け止めるようにしながら、僕は彼女を抱きとめる。

 目に付いたのは銀色の髪、そして褐色の肌。特徴的な見た目をした彼女は、驚いた様子でばっと僕の姿を見上げる。

 紅い瞳と、視線が合い――ふと、漂ってきた匂いに僕は眉根を寄せた。

 子供の体臭に混じって届く、少し生臭いような臭い。

 ちょっと前、どこかで全く同じ臭いを感じ取ったような――



「あ、ご、ごめんなさいです」

「ううん、大丈夫ですよ」



 これは、何処だったか……そう、ここに来る少し前。

 臭いをかぎ分けていたときと言えば、あの連中を探し始める少し前の――



「あ……あの森にあった泉の……」

「ッ……!?」



 ぽつりと僕が呟いた言葉。

 その言葉が耳に届いた瞬間、彼女は衝撃を受けたかのようにふらりと僕から離れ、顔を俯かせていた。

 プルプルと、小さな肩が何やら不気味に揺れている。



「え、えっと……」

「……んですか」

「え? 今、何て――」

「見ていたんですか、見ていたんですね!? 昨日の、あの泉のこと!」



 顔を上げた彼女は、怒りだかなんなのだか、褐色の肌が明らかに変色していると分かるほどに真っ赤な顔をしていた。

 そのまま、彼女は錯乱した様子で喚き始める。



「よりによって! よりによって外ですよ畜生! いくら魔除け使ったからって外でやりますかこのやろう!」

「え、いや、ちょっと、僕が着いたのは今日の昼前――」

「あの様子を覗いていたんですねそうなんですね!? 分かりますか分からないでしょう、実際に『ひぎぃ』とか『らめぇ』とか言わされる側の気持ちなんて! でも、こんないたいけな幼女がヤられまくって気絶するような場面を黙って見過ごした貴方も変態なのですよあははははははははは!」



 いや、うん……何かもう、聞くに堪えないというか申し訳なくなってくるというか、大丈夫なんだろうかこの子。

 って言うか、普通に聞き捨てならないことを言っていたような。



「くそう、あの男に付いて行ったのが運の尽きだったんです! あの変態鬼畜幼女趣味! もげろ、もげてしまえばいいんですッ!! はぁ、はぁ……」

「ごめん、その、盛り上がってるところ申し訳ないんだけど……僕、森の泉に着いたのは昼前ぐらいなんです」

「はぁ、はぁ……は?」

「いや、さっきのは君の匂いがそこに残っていたから、ちょっと気になっただけで……その、何て言うか、ごめんなさい」



 僕が早めに止めていれば、彼女が無駄なカミングアウトをすることも無かった……この真昼間の人通りの多い道の上で。

 ひそひそと囁かれる声の中、彼女は再び俯いてプルプルと震え始める。

 いい加減心配になって、僕は彼女の方へと手を伸ばし――急激に高まった魔力に、思わず背筋を凍らせていた。



「あ、ああああ、貴方を殺して私も死にますぅぅぅうううううッ!」

「ッ……!?」


【――《戦闘用思考》――《魔法・天:輝きの防壁》――《魔力充填》――】



 とんでもない魔力量に、僕は反射的に防御魔法を展開しようと魔力を込める。

 けど、防ぎきれるかどうか。最悪、《天翼セラフ》を展開しないと――そう思った、瞬間だった。



「――俺への暴言だけならまだしも、人様に危害を加えようとは……また『お仕置き』がお望みか?」

「ぴっ」



 響いた声に反応し、女の子は背筋に棒が入ったかのように直立不動で硬直する。

 いつの間にか彼女の背後に、一人の男性が現れていたのだ。

 腰に剣を佩いた、精悍な顔つきの茶髪の青年。

 丈夫そうな靴やジャケットを纏っており、剣も含めて非常に『慣れた』印象を受ける。

 そんな彼は、だらだらと脂汗を流す少女の肩に手を置いて、彼女の耳元で小さく何事かを囁いていた。



「――はふっ」



 そして、その瞬間――まるで糸が切れたかのように、白目を剥いた少女はこてんと卒倒していた。

 倒れる彼女を抱きとめた青年は、深々と疲れた様子で嘆息し、僕のほうへと視線を向ける。

 周囲からは『あいつが例の』だの『本物だよ』とか何とも言いがたい囁き声が聞こえているけれども、彼は全て無視して僕へと深々と頭を下げつつ声をかけてきた。



「申し訳ない、本当に迷惑をかけた」

「あ、いえ、大丈夫ですけど……」



 思った以上に普通、というか誠意すら感じる対応に、思わず僕は面食らっていた。

 先ほどの様子からして、あの少女を色々と言うかえろえろな目に遭わせたのは彼のようだけど……対応はとても普通だ。



「とりあえず、誤解を解いておきたい。食事でも奢るから、少し説明させてもらえないか」

「え? あ、うーん……」



 とりあえず、何が何でも説明はしたいという気迫は伝わってくるけど、どうしようか――



>1.折角だし、話を聞こう。

2.騎士団に通報した方がいいんじゃ……

3.どちら側に非もしくは悪意があることなのか、大まかにでも読み取るスキルあったっけ?



 ……まあ、色々と怪しいんだけど、食事を取りたいのも事実。

 店で奢ってくれると言うのならば、変なものを盛られる心配も無いだろうし、多少付き合っても大丈夫だろう。

 それに――少し、気になることもある。



「分かりました、お話を聞かせてください」

「ああ、助かる……ここ数日で何回か通報されてるから、穏便に済ませられるならなんだっていいさ」



 深々と嘆息した青年は、倒れた女の子をひょいと抱え上げて、先ほど出てきた店の方へと向かっていった。

 肩越しに促すような視線を向けてくる彼に頷き、僕も彼に続く。

 見せは所謂定食屋か……漂ってくる匂いは、どうやら煮込み料理のお店らしい。

 何か、お米が食べたくなってくる匂いだけど、周りの人たちを見る限り、付け合せはパンしかないらしい。残念。


 座席の一角には食べかけの料理が置かれている。どうやら、二人はそこから飛び出してきたらしい。

 既に出されている料理の側に座った彼は、隣に気絶したままの女の子を下ろすと、僕に対して席を促しながら問いかけてきた。



「料理はどうする? 一応、ここのお勧めはあの煮込み料理だが」

「何の煮込みなんですか?」

「ランドホーンだな。ああ、安心してくれ。普通に食ったら筋張ってて微妙だが、ここは長時間煮込んでるからな。ちょうどいい硬さだよ」



 正直そのランドホーンとやらがどんな生物なのかさっぱりだけど、まあ肉の煮込みということは理解できた。

 周りの人もおいしそうに食べてるし、とりあえず問題は無いだろう。

 それじゃあ同じものを、と彼に告げて、僕は向かい合うように席に座る。

 胸元からはアイが隠れながら警戒するような視線を向けて――一瞬でその視線に気付いた彼は、苦笑交じりに声を上げていた。



「まあ、そういう反応をされるのも仕方ないとは思ってるさ。説明はする、敵視するかはその後で決めて欲しい」

「はぁ……って言うか、良く気付きましたね」

「そうも視線を向けられたらな。ああ、妖精も傍に置いておくならそこまで気にする必要はないと思うぞ。珍しいが、皆無って訳じゃない」

「かっこつけてますけど、イリスさんの胸に視線を向けたに決まってるのです! 油断しちゃ駄目なのですよ!」



 僕の胸元から這い出してきたアイの台詞に肩をすくめた青年は、木製のコップに注がれていた飲み物で喉を潤す。

 そうして一息ついた彼は、改めて僕たちへと向けて声を上げた。



「改めて、自己紹介だ。俺はクレイグ。こっちのちびっ子はエルセリアだ。流れのコントラクターをやっている」

「あ、はい。僕はイリス、この子はアイです。コントラクターって言うのは?」

「……あ? いや、知らないのか?」

「え? えーと、その……」



 やばい、常識の範囲内だったらしい。

 僕がどう答えたものか迷っていると、軽く肩をすくめた青年――クレイグさんは、変わらぬ調子で続けてきた。



「ま、何かしら訳ありって言うんなら追求はしない。そういうもんだからな。で、イリス。色々と言いたいことはあると思うが、とりあえず最後まで聞いてくれることを約束して欲しい。それから、一部は他言無用ってことも」

「いやまぁ、あんな話を他言するつもりはありませんけど……その、恥ずかしいですし」

「あ、ああ、いや悪い、今のは俺が悪かった。そういうことじゃないんだ……で、頼み込んでる立場で悪いんだが、約束してもらえないか?」

「……厄介なことに巻き込まないなら」

「ああ、約束しよう」



 正直、既にどう足掻いても厄介事のような気はしないでもない。

 この二人が、何故昨晩あの泉にいたのか――それは、聞きだしておかないと。



「話を戻すが、俺たちはコントラクター……所謂、仕事請負人だ。ギルドに登録し、仕事を斡旋してもらって日金を稼ぐ、ごく潰しみたいな連中だよ」

「あー、なるほど、あれですか」

「何だ、知ってたのか? さっきの反応は良く分からんが……」



 俗に言う、冒険者って奴らしい。

 どう違いがあるのかは良く分からないけど、おおよそ間違ってはいないだろう。



「で、だ……ここからが話の本題なんだが……このちびっ子が言っていたことは、まあ俺がやったことに関しては紛れも無く事実だ」

「うわ……」

「……その反応も慣れたもんだよ、本当にな」



 僕がどん引きしていると、なにやら複雑そうな表情でがっくりと項垂れる。

 でもまぁ、誰だって同じ反応するだろう。彼女、エルセリアは本当にまだ幼い子供だ。

 そんな相手にあんなことをしているとなれば、そんな反応をされるのも当然だろう。



「とにかく! 事実ではあるんだが、理由があるんだ。聞いて欲しいのはそこだよ」

「理由、ですか? 約束ですし、一応聞きますけど」



 正当性が無かったらすぐにでも騎士団に駆け込もう、うん。

 僕がそんな風に考えているのはお見通しなのか、或いは今まで話した相手全員に同じような反応をされているのか、クレイグさんは半眼を浮かべつつ続ける。



「理由は一つ、魔力供給だ。こいつ、こんなナリだが魔人族でな、自称だが千年生きている大魔法使いらしい」

「は? え……千年? 盛りすぎでしょう? 百分の一ぐらいじゃないんですか?」

「泣くから言わないでやってくれ。本当ならそれに相応しいだけの肉体も精神も持っていた、というのが本人の弁だ」



 ちらりとエルセリアのほうに視線を向ける。

 白目を剥いたままうわ言を呟いている彼女は、とてもじゃないがそんな魔法使いには思えない。

 魔人族は非常に長命な種で、実際にそれだけの年月を生きることも不可能ではない。

 だけど、彼女はどう見ても子供にしか見えなかった――いや、けど。



「……確かにあの時、僕に向かって使おうとしていた魔法は凄まじく強力なものでした。彼女は、あれだけの魔法を完全に制御出来るんですか?」

「ああ、出来る。だが、こいつは魔法使いとして致命的な欠陥を抱えている状態だ」

「欠陥?」

「こいつは、自分自身で魔力を回復させることが出来ないんだ。だから、外部から魔力を供給する必要があるんだよ」



 それは――致命的にも程がある、それどころか生物としても破綻している欠陥だろう。

 魔力は、空気中にある魔力素を取り込むことによって生成される。

 僕の《光輪ハイロゥ》はそれを強力にしたものだけど、この機能はどんな生き物だって有しているはずなのだ。

 それを持っていないなんて、どう考えてもおかしい。



「正確に言うなら、奪われたってことらしい。《冥星》のエルセリアと言えば、魔人族の中でも名の通った存在だったらしいが……力の大半を奪い取られ、今じゃこの状態って訳だ」

「……! イリスさん、ちょっと耳を」

「アイ?」



 クレイグさんの言葉に反応したアイが、僕の方まで飛び上がる。

 そのまま彼女は、僕の耳元で囁くように声を上げた。



「《冥星》のエルセリア、施設の記録にも残っていた魔人なのです。実物かどうかは知りませんが、今まで生き残っていたとしても不思議じゃない実力者なのですよ」

「ってことは、人造天使エンジェドールが活動していた頃から生きている魔人族なのか……力を奪い取られて、魔力回復が出来なくなるなんて有り得る?」

「同じ状態を作り上げることは可能なのです。恐らく、回復機能が機能不全を起こしているのですよ」



 ある程度、信憑性はある話でもある。

 まあ、それほどの実力者が力を奪われるなんて、一体どんな状況なのかと言いたいけど。



「……続けても大丈夫か、お二人さん?」

「あ、はい。どうぞ」

「ああ。ま、話は大体終わったんだがな。こいつは現在、そんな欠陥魔法使いの状態で、そのくせ燃費の悪い魔法をバカスカ撃つせいですぐに魔力不足に陥るんだ。魔力容量だけはトンでもないから、普通の魔力譲渡じゃとてもじゃないから追いつかないんで……」

「……あんな行為をしている、と」

「……一応言っとくが、最初に襲ってきたのはこいつだからな? 俺はそれまで効率のいい魔力譲渡の方法なんて知らなかったし、わざわざ外聞が最悪の方法を公言しようとも思わないさ」



 どことなく黄昏ている彼の様子に若干同情の念を覚えつつも、僕は納得して小さく頷いていた。

 とりあえず、話の筋は合う。全部鵜呑みにする訳にも行かないけど、ある程度信憑性のある話だと僕は判断した。

 ……エルセリアに対しては少し興味も湧いてきたしね。

 でも、その前に聞いておかないといけないことがある。



「あの、クレイグさん」

「ああ、何か質問か?」

「ああいえ、先ほどまでの話は了解しました。それとは別の質問なんですが……昨日の夜は、どうしてあの森に?」

「普通に、コントラクターとしての依頼だぞ? 魔物の素材収集だったんだが、こいつが無駄に強力な魔法を撃った所為で素材が飛び散った上に、すっからかんになって動けなくなりやがったんだよ」



 それであの場で行為に及んでいた、と。一応後でこの子にも事実関係を聞いておきたいところだけど、それよりも。



「あの森の中に小屋があることは知っていますか?」

「大体のコントラクターは知ってるんじゃないか? そう深い場所にあるわけでもないし」



 クレイグさんに、動揺の色は無い。

 純粋に、疑問に答えているようにしか見えない。

 ……突っ込んで聞いてみるしか、ないか。



「……あの泉で、人が殺されていました」

「何?」



 すっと、クレイグさんの瞳が鋭く細められる。

 動揺ではなく、真偽を問うかのような視線。僕は、それを真っ向から受け止めながら首肯する。



「殺された、ってことは人の手によるものってことか……いつだ?」

「今日の昼に、僕が発見しました。少なくとも、それよりも前です」

「……ってことは、夜も含まれるって訳か。はぁ、ったく……今日は厄日か」



 頭を抱え、クレイグさんは呻く。

 先ほどの鋭い気配はいくらか軟化したけれども、それでもどこか鋭い視線は保ったまま、彼は声を上げた。



「まあ、あんたが俺を疑うのは仕方ないだろうな。状況が状況だ……生存者はいたのか?」

「……教えられると思いますか?」

「いや、その反応で大体分かった。つまりこのちびっ子は、俺たちは容疑者ですと白日の下で堂々と宣言しちまった訳だ」



 椅子の背もたれに体重を預けたクレイグさんは、天を見上げて嘆くようにそう呟く。

 生存者がいる以上、そこから情報を得た者が、泉の周辺について調べるのは当然だろう。

 そして、昨晩そこにいた人物となれば、疑いの目が向くのは当然だ。



「まあ、スルーしてくれるなら助かるが、何かしら厄介ごとは舞い込んでくるだろうな……なあ、あんた」

「はい、何ですか?」

「俺は連れて行かなくてもいい。その生存者の所で、俺が関与していたかどうかを確かめてくれないか。報酬は払う……なんなら、コイツを質にしてもいい」



 言って、クレイグさんは腰に佩いた剣を外し、こちらへと向けて差し出していた。

 思わず反射的に受け取り――そして、理解する。

 これは魔導器、今で言う遺物だ。計り知れないほどの価値がある、古代の兵装。

 機能としては非常に単純だけれども、それでも十分すぎる値打ち物だろう。



「俺が関与していないと分かったら、返してくれ。もしも関与していたら、好きにしてくれて構わない」

「でも、これは……」

「俺なりの誠意の証であり、俺の命の代わりだ。あんたは俺の話をしっかりと聞いてくれたし、魔法を向けたエルセリアにも怒りを向けなかった。人殺しの疑いがある相手をだ……そんなあんたに、頼みたい」



 そういって、クレイグさんは深く頭を下げる。

 そんな彼に、僕は――



1.分かりました、今回は信じます。

2.これは受け取れません。

3.報酬、多めに貰いますからね?

>4.金より情報くれ

5.こっそり返しておこう

6.いえ、武器は受け取れません。これは単なる憶測ですが、もし万が一今回の件に相当強力なバックがついていて、そいつらが何らかの形でエルセリアさんを狙った場合、彼女を守るためにクレイグさんの力が要ります。



「……わかりました。一応、預からせていただきます。でも、お金は特にいりません」

「何? だが、タダ働きさせる訳には行かないぞ?」

「はい。なので、少しお願いを聞いてもらいたいな、と」



 運ばれてくる気配のある料理を待ちながら、僕は彼に対してそう告げる。

 《冥星》のエルセリア――彼女が本物であるかどうかは分からないが、彼女の話は是非とも聞いてみたい。

 彼女の持っているであろう情報は、僕にとっては何よりも価値のあるものだ。



「お願い、と言うと?」

「まあ、今日の宿代とか、食事代とか、コントラクターの登録の仕方を教えて欲しいなー、とか」

「……は、ははっ! あんた、金無いのにそんな提案をしてきたのか?」

「勿論、それだけじゃないですよ。僕は、彼女と話をしてみたいだけですから」

「うちのちびっ子とか……成程、そいつは高くついたもんだ」



 くつくつと、クレイグさんは笑う。

 どうやら、彼は彼なりに、エルセリアのことを大切に思っているらしい。

 個人的な印象ではあるけれど、僕は彼のことを悪い人間ではないと思っていた。

 状況が状況だし、そんな直感だけで信じるわけには行かないけれど、今の所彼が犯人の一味である可能性は非常に低いと考えている。

 まあ、その辺も、あの助けた人と話をすればはっきりするだろう。



「それじゃあ、ご馳走になったら行ってきますね」

「ああ、頼む。俺たちは、『湖面の三日月亭』って宿で部屋を取ってる……この通りにある宿だ。女将には話を通しておくから、分かったら尋ねてくれ」

「はい、分かりました」

「全く、イリスさんはお人好し過ぎるのです」

「相応のリスクはこちらも背負ってるんだ、勘弁してくれ」



 ぼやくようなアイの言葉に、クレイグさんは苦笑交じりにそんな言葉を返していたのだった。











 * * * * *











 食事処でクレイグさんと別れ、僕はフリオールの街を飛行しながら移動する。

 後からつけられるのを避けるために、そうした方がいいと判断したのだ。

 まあ、クレイグさんは何もしていないと思っているけど、念のために。



「しかし、結局エルセリアは目を覚まさなかったね」

「あれで大魔法使いとか言われても信じられないのですよ」

「確かに、僕もそれは思ったけどさ……仕草とか、まるっきり子供だったし」



 一体どんな経緯で、ああなってしまったと言うのか。

 正直、嘘だと言われた方が納得できる気もするけれど、やっぱり彼女の使おうとしていた魔法は子供に制御できるものじゃないと思う。

 僕では到底及ばないような高度な魔法を、殆ど反射的に繰り出そうとしていたのだ。

 しかもそれを、一切のリスク無しに破棄することに成功している。魔法の知識はまだまだ浅い僕だけど、それが神業であることは理解できていた。



「まあ、本物なら是非とも他の人造天使エンジェドールの話を聞いてみたいしね。期待しておくことにするよ」

「アイたちの目的、他には特に無いですもんねー。ま、危なかったら逃げましょう。イリスさんなら余裕なのです」

「あははは」



 まあ、空を飛んでしまえば簡単に逃げられるしね。

 ともあれ、僕はクレイグさんの剣を片手に、あの時の女性が連れて行かれた治療院へと向かっていた。

 結局それほど時間は経っていないし、目を覚ましてくれているといいんだけど。



「っと、あそこかな?」

「あのとんがり屋根が目印って言ってましたもんね、きっとそうなのです」



 目的の建物を発見し、僕たちは地上へと降り立つ。

 その際に、周りからぎょっとした目で見られていたけど、まあ今更と言えば今更だ。

 飛び立つ時だって同じような視線をクレイグさんにも向けられていたのだし。

 翼を仕舞いつつ、僕はアイに対して問いかけていた。



「上位有翼種ってそんなに珍しいの?」

「まあ、上位って付くぐらいですしね。珍しいと思うのですよ」



 その辺は、アイもしっかりとは分かっていないらしい。

 まあ、厄介事になったら逃げればいいだろうと軽い気持ちで考えつつ、僕は目の前の治療院へと向かっていた。

 と――その瞬間。唐突に扉が凄まじい勢いで蹴り開けられ、中から一人の女の子が飛び出してきた。



「何か今日はやたら飛び出してくる人がいるなぁ」



 とは言え、今回は小さな女の子って程でもないし、それなりに距離も開いている。

 余裕を持って道を譲りながら、僕は彼女の姿を観察していた。

 身なりの整っている、凛々しい感じの美少女だ。けれど、その身を包んでいる装備から、彼女が戦える人間であることが伺える。

 主に目立つ装備は手甲と脚甲。少し仰々しく見えるほどのそれは、それ自体が武器であることを思わせる。

 下もスカートではなくショートパンツで、とにかく動きやすさを優先したような様相をしていた。

 燃えるような赤い髪をバレッタで纏めた彼女は、僕のことなど見向きもせずに通りのほうへと走っていく。

 と――



「お嬢様! お待ちください、お嬢様っ!」



 彼女を追って、どこか見覚えのある服装をした見慣れない女の子が、先ほどの彼女を追って治療院から飛び出してきた。

 まだ見える背を負い、そんな彼女もまた通りへと向けて走っていく。

 そのまま走り去っていく二人の姿を見送って、僕は思わず呆然と呟いていた。



「……何だったんだろうね?」

「さあ、良く分からないのです。とりあえず、要件を優先しましょう」

「おっと、そうだったね……お土産でも持ってきたほうが良かったかな?」

「無一文ですけどねー」

「あ、そうだったね。あははははは、はー」



 最後に少しだけ嘆息して、治療院の中へと足を踏み入れる。

 イメージとしては、小さな個人診療所と言った所だろうか。

 けれど、これでも大きさとしては結構大きな施設らしい。


 治療院は、治癒魔法を使える魔法使いが働く、街でも重要施設の一つに数えられるような建物だ。

 お金を払って、治療を行ってもらう。割高な分だけ効果的で、医者に掛かるよりよっぽど効率的で効果も高い。

 治癒魔法を使えるのは水属性と天属性だけ……僕も扱える天属性を始め、冥属性と海属性は非常に希少な魔法属性なので、治癒魔法の使い手は引く手数多だ。

 魔法を覚えてここで働くのもいいかもしれないけど、病院って仕事が忙しいイメージしかないから、あんまり乗り気ではない。

 とりあえず、中に入って受付を発見した僕は、そこに立っていた職員の人に声をかけていた。



「すみません、今日の昼前辺り、ここに運び込まれてきた人を街まで運んできた者なんですが、面会は出来ますでしょうか?」

「はい? あの、すみません。流石にそれは――」

『――いえ、構いません。入ってもらってください』

「って、ああもうエメラさん!? 大人しく寝てて下さいと……はぁ、仕方ない。どうぞ、こちらです」



 奥から聞こえた、少しだけ聞き覚えのある声。

 どうやら、彼女も僕のことを覚えていてくれたらしい。

 職員の人に続いて少し奥にある仕切りの向こうへと顔を出せば、そこでは見覚えのある女性が、ベッドで上半身を起こしたまま僕たちのほうを見つめていた。

 彼女――先ほどの話を聞くに、エメラさんというのだろうか。

 エメラさんは、僕の姿を確認すると、薄っすらと柔らかな笑みを浮かべていた。



「やはり、貴方でしたか。先ほどは助けていただき、本当にありがとうございました」

「ああいえ、貴方もご無事で何よりです。でも、寝てなくて大丈夫なんですか?」

「これしき、どうということはありません。どの道、治療院のベッドは長く占領できるものではありませんから」

「そりゃ、少ししたら別の病院に移っていただきますけど、貴方重傷だったんですよ? 分かってます?」

「ええ、分かっていますとも。自分自身の体の制御は得意ですから」



 今でも痛みは残っているだろうに、それでも涼しい顔を崩さぬまま、エメラさんはそう告げる。

 所々に巻かれた包帯は痛々しいが、少なくとも危険な状況は脱しているようであった。

 と、そんな僕の視線に気付いたのか、僅かに隠すように腕を動かしながらエメラさんは声を上げる。



「さて、改めまして……私はエメラ・フィンクスと申します。以後、お見知りおきを」

「あ、はい。僕はイリス、そしてこの子がアイです。よろしくお願いします、エメラさん」

「はい、よろしくお願いします。さて……お見舞いに来てくださったのならば嬉しいのですが、何か事情がお有りのようですね、イリスさん?」

「……はい、その通りです」



 エメラさんの言葉に、こくりと頷く。

 クレイグさんが関わっていないかどうかを確かめること――その為に、僕はここに来たのだから。



「お聞きしたいことがあってきました。エメラさん、貴方を襲った者たちの中に、この剣を使っている人はいませんでしたか?」

「剣? 少し、拝見しても?」

「あ、借り物なので、少しだけでお願いします」

「ええ、承知しております……おや、これは」



 僕からクレイグさんの剣を受け取ったエメラさんは、少しだけ鞘から刀身を覗かせ、その目を見開いていた。

 ファイアパターンのような模様が描かれた平たい刀身。

 一目見て、エメラさんはそれが遺物であることに気付いたようだった。



「『巨人の燐寸』ですか……さすがに、こんなものを使っていた者はいませんでしたね。しかし、何故そのようなことを?」

「昨日、あの森で依頼を遂行していたコントラクターの方がいまして……」

「成程、疑いの対象になってしまったから、事実関係を確かめにきたわけですか。ならば、少し情報を提供しましょう」



 何と言うか、話の展開が早い人だ。

 先を呼んで言葉を紡いで来るというか、非常に要領のいい人、という印象を受ける。

 まあ、僕としても手っ取り早くて助かるのだけど。



「私達が襲撃を受けたのは昼より少し前の時間帯、と言った所です。襲撃場所は泉の近辺でしたね。それと、この剣の持ち主ですが……あの子供を連れたコントラクターですか?」

「あ、はい、その通りです」



 さすがクレイグさん、何か悪い意味で有名な感じだ。

 まあ、あんな騒ぎを毎回起こしているんだったら、悪評が広まっても仕方ないとは思うけど。

 そんな僕の微妙な気分を知ってか知らずか、エメラさんはすまし顔のまま声を上げた。



「彼でしたら、我々の襲撃には加担していないでしょう。彼がいたら、もっと容易く制圧されていたでしょうから」

「そうなんですか?」

「ええ。実際に戦っている場面を見たことがある訳ではありませんが、彼の実力は私よりも高いと思います。彼ほどの戦力を遊ばせておいたとは思いがたい」



 物的証拠とは言わないけれど、状況証拠は大丈夫そうだ。

 それに、クレイグさんたちが出発した時間を確かめられれば、あの二人の疑いも晴らせられるだろう。

 安堵の吐息を零しつつ、僕はクレイグさんの剣を返してもらう。



「ありがとうございます、エメラさん。助かりました」

「いえ、貴方がいなければ、私もお嬢様もただでは済まなかったでしょう。命の恩人である貴方には、まだまだ返し足りないところです……けれど、恥を忍んで一つ、お願いしたいことがあります」

「お願い、ですか?」



 僕が首を傾げると、エメラさんは申し訳無さそうな表情のまま声を上げた。



「先ほど、赤い髪の女性とすれ違いませんでしたか?」

「あ、はい。この建物の入り口で」

「あの方が、我らの主人であられるお方です。あの方は、今回の件で心を痛めておられます……もしも知り合うようなことがあれば、気にかけていただきたいのです」



 成程、使用人を一人失い、もう一人は怪我で入院。

 どうやらあの女の子は、心優しい主人のようだ。



「そのぐらいだったら、お安い御用です。会えるかは分かりませんけど」

「いえ、それで十分です。ありがとうございます、イリスさん」

「こちらこそ、ありがとうございました。それでは、お大事に」



 ぺこりと頭を下げ、僕たちはエメラさんの病室を後にする。

 やれやれと世話を焼いている職員の人にも頭を下げ、僕は治療院から外へと出ていた。

 とりあえず、目標は達成できたと考えていいだろう。

 さて――



1.クレイグさんの所に、報告に戻ろう。

2.あの女の子のことが、少し気になるかな。

>3.アイ、クレイグさんにこの件を伝えておいて。僕はあの人を追う



「……アイ、クレイグさんにこの件を伝えておいて貰える?」

「はい、別に構わないのですけども……さっきのあの人のこと、追いかけるのですか?」

「うん。一応、頼まれちゃったからね」

「会えたらって話だったのに、イリスさんは相変わらずなのです」

「あはは……まあ、少し声をかける程度だよ」



 実際、彼女の事情に入れ込むつもりは無い。

 けど、あそこでエメラさんを助けた以上、目を逸らしたままでいるのも収まりが悪い。

 僕たちがあの施設を漁っていなければ、なんてことは流石に思わないけど……それでも、助けられた可能性はあったのだから。



「じゃあアイ、お願いできる?」

「了解なのですよ……うう、あのロリコンにアイも襲われてしまうかもしれないのですね」

「いや、流石に無理じゃないかなそれは……」



 クレイグさんには確かにロリコンの気があるような気はするけど、流石に掌サイズの妖精に欲情するような人ではないだろう。

 何かあったら契約を使って呼ぶようにと言い含めてから、僕はアイをクレイグさんのところへと向かって出発させる。

 空に向かって消えて行く小さな背中を見送って、僕も同じく翼を出現させる。

 正直、あんまり街中で飛び回ってると怒られるかもしれないけど、流石に普通に探していたんじゃ効率が悪すぎる。

 幸い、あの子は結構目立つ格好をしていたし、髪の色も印象的だった。

 上空からなら、いくらか探しやすいだろう。



「うーむ……けど、こっちはちょっと気になるなぁ」



 手に持ったままのクレイグさんの剣に、僕は小さく嘆息を零す。

 彼にとっては大切なものだろうけど、流石にアイではこれを持ち運ぶことは出来ない。

 ある程度時間を決めて、見つからなかったら切り上げて戻るべきだろう。

 持ち逃げされたと思われるのも嫌だしね。



「さて、と」



 僕を見上げて驚いている様子の人がちょくちょくいるのを観察しながら、僕はフリオールの空を駆ける。

 人造天使エンジェドールの視力は、更に高く上ればこの街の端から端までを見通すことが出来るだろう。

 けど、さっきからそれほど時間は経っていない。まだ、それほど遠くまでは行っていない筈だ。

 ――僕には、彼女を見つけられるだけの瞳がある。


【――《鷹の目》――】



「……いた、あそこだ」



 僕の瞳が、バレッタによって纏められた紅の髪を捉える。

 見つけてしまえば後は簡単だ、翼を使い、彼女の所まで辿り着けばいい。

 人通りが多い所為で、やたらと目立ってしまうから、彼女の方も僕の姿に気付いたようだったけれども。


 ふわりと地面に着地し、背中の翼を収納する。

 人通りが多い場所では、体を包めるほどの翼は邪魔にしかならない。

 軽く腰を触り、きちんと収納できたことを確かめると、僕は改めて視線を前に向けていた。

 そこにいるのは、先ほどすれ違った件のお嬢様。

 何やら慌てている様子の使用人らしき女の子を背中に庇った彼女は、訝しげな視線と共に僕に対して声をかける。



「何か、私に用でもあるのかしら? 私のことを見ていたみたいだけど」

「あ、はい。エメラさんから話を聞きまして、追いかけてきました」

「エメラから? 上位有翼種……そう、貴方がエメラを助けてくれた人だったのね」



 納得した様子で、お嬢様は警戒した様子から一段階ぐらい警戒度を下げる。

 おかしいな、そこまで警戒させるようなことはしてないはずなんだけど。

 そんな考えが表情に出ていたのか、彼女は若干呆れたような表情と共に声を上げていた。



「あのね、片手に剣を持った奴が空から降りてきたら、そりゃあ警戒するに決まっているでしょう?」

「あ。あー……これ、借り物なので、きちんと装着する所がなかっただけなんです」

「ああはい、まあいいわ。それで、何か用かしら?」

「う、ええと、その……特に、用って訳じゃないんですけど……」



 しまった、探すことばかり考えていて、その後の言い訳を考えてなかった。

 思わずあたふたしている僕の様子に、お嬢様の視線は段々半眼へと変化していく。



「……全く、エメラね? 変に気を回すんだから」

「あ、あはは」

「貴方も貴方よ。大方、私に気を使ってほしいとか言われたんでしょうけど、だからってそのまま追いかけてくる人がいますか」

「ご、ごめんなさい」



 うーむ、何故僕が説教されているのだろうか。

 でも、思ったほどショックを受けている様子ではない。

 エメラさんの思い違いってことは無いだろうけど……少なくとも、追い詰められていると言う様子ではなかった。



「ま、悪い人じゃ無さそうだけど。私はクラリッサ・ドライ・オークス。こっちは、私の使用人のシルフィよ。それで、貴方は?」

「僕は、イリスと言います。よろしくお願いします、クラリッサさん……それに、シルフィさんも」

「ええ、よろしく。まあ、挨拶した所悪いけど、ちょっと忙しいのよ。ミリーの仇は、とらないといけない」



 言って、彼女、クラリッサさんは歩き出す。

 多少余裕はあるみたいだったけど、それでも気にしていないはずが無い。

 ミリー、恐らくあの泉で亡くなっていた使用人の名前だろう。

 ……でも、仇っていうのは。



「仇って言うと、あのエメラさん達を襲った連中ですか?」

「連中も許しはしない。まあ、主犯格は貴方が潰したようだけど……っと、そうだったわ。貴方に聞かなきゃいけないことがあったんだった」



 クラリッサさんの背中を追って駆け出そうとしたところで、当の彼女がくるりと振り返る。

 鋭い視線と、威圧感。その瞳の奥には、底知れぬ怒りが湛えられている。

 例えその矛先が僕でなかったとしても、思わず息を飲んでしまうほどに。



「あの連中から、情報を聞き出してはいないかしら? 情報、お金で買わせて貰うわよ」

「……」



 お金は、まあ欲しい。一文無しだし。

 それに、あの情報は、今僕たちがもっているだけじゃ意味の無いものだろう。

 役立てたいと思っている人に、渡した方がまだいいはずだ。



「あの人たちは、仮面の男に雇われたと言っていました」

「……仮面?」



 ぴくりと、クラリッサさんの肩が跳ねる。

 そして同時に――彼女の内側で燃える怒りが、そのボルテージを一気に高めたようだった。



「そう、仮面。白い、嗤っているような笑みの仮面ね?」

「え、あ、はい」

「そう、そうか……やはり、そいつなのね……ッ! つくづく、コケにしてくれるッ!」



 苛立ち混じりに叫び、クラリッサさんは地面を思い切り蹴りつける。

 砕け散りながらすり鉢上に陥没した地面には、彼女の怒りが叩きつけられたようであった。

 その、殺意すら篭った声に、僕は思わず息を飲む。



「……ありがとう、情報提供感謝するわ。取っときなさい」

「あ、わっ!?」

「お、お嬢様! お待ちください!」



 彼女が投げ渡してきた巾着袋ぐらいの皮袋には、ずっしりと重く僕の手の中に納まる。

 僅かに覗いている口からは、ぎっしりと詰まった銀貨が見て取れた。

 明らかに、貰いすぎである。シルフィさんが慌てているのも理解できた。



「あの、ちょっと、これ!?」

「一度渡したものを受け取るのは、私の流儀に反するわ。それより、今は行かなきゃならない所があるの」

「い、行かなきゃならない所?」

「ええ、昨日森に入ったコントラクターの中に、最低な男がいるって聞いたわ。そいつも仮面の一味である可能性が高い!」



 あ、これ嫌な予感がする。

 って言うか、もう確定じゃないかなこれ?



「いたいけな幼子を手篭めにし、ふしだらな行為にふける男など、言語道断! 例え関係があろうとなかろうと、オークスの名の下に放置しておくわけには行かないわ!」

「お、お嬢様? ですから、あまり無茶なことは――」



 ごめん、クレイグさん。あんまり否定は出来ない。

 でも、流石にこのままだと拙いだろう。

 彼は、少なくともあの襲撃には関係ないはずなのだ。

 何とか、説得しないと……もう一つの理由については無理かもしれないけど。

 と、とりあえず――



1.そ、その人の居場所は知ってます!

2.彼の潔白をもう少しで証明できそうなんです。

>3.ペド死すべし、慈悲はない

4.その人には既に接触してます。けど、その人は一味とは無関係です。エメラさんに確認しました。(行為に関しては否定しない)



 クレイグさんは、別に悪い人じゃないんだ。

 あの行為だって、ちゃんと理由があってのことだし、合意の上で――



「……あれ? 合意の上じゃないような気も」

「――貴方、イリスッ!」

「は、はいっ!?」



 思わずぽつりと呟いた僕の言葉に、クラリッサさんは瞬時に反応して振り返り、手甲の付いたその手で僕の両肩を捕まえていた。

 かなり力が篭っているけれど、幸い僕の耐久度なら痛みも感じない。

 が、やたら近い顔から感じる圧迫感はまた別の話だ。



「貴方、その男のことを知っているのね?」

「え、いや、今の聞いただけでそんな――」

「知っているのね!?」

「あっはい」



 駄目だ、勢いに押される。何か余計な口とか挟んでいる余裕が無い。

 思わず人形のようにこくこくと頷く僕に、クラリッサさんはがっしと拳を握って快哉の声を上げる。



「よし、今日の私はついているわ! 案内しなさい、イリス!」

「えっと、そのですね。あの人は――」

「さあ、行くわよ!」



 駄目だ、話聞かないこの人。

 何とかして落ち着かせる方法は無いかと考えるけれども、頭を悩ませる僕の視界の端ではシルフィさんが申し訳無さそうに深々と頭を下げている。

 何か、この人も慣れているというか、いつもこんな感じなんだろうか。



「と、とりあえず……付いて来てください」



 何とか、本人と一緒に説得するしかないか……お嬢さまって言われてる割にはやたら強いみたいだし、力ずくで止めようとすると妙な誤解を与えてしまう気がする。

 クラリッサさんも悪い人じゃないんだけど、これはどうしたものか。



「……何で二日でこんなことになってるんだろう」



 アイと共に、波乱万丈だねーと笑い合っていた時が昔のように感じられる。

 僕はクラリッサさんに気付かれぬように、小さく嘆息を零していた。











 * * * * *











 何だかんだありつつも、僕は結局クラリッサさんを連れて『湖面の三日月亭』に到着してしまっていた。

 一応、道中で出来る限り説明はしたのだけれども、正直あんまり聞いてはもらえなかったと思う。

 というか、彼女は自分で見聞きしたものだけを信用する性質なんだろう。

 貴族のお嬢様らしからぬ、アグレッシブな性格だ。



「ふむ、ここね。味があっていい宿じゃない」

「お嬢様、仮にもオークス家の人間が……」

「お父様やお母様だって、魔物狩りのときは野宿でテント寝なんだから、安宿の評価ぐらいで文句を言わないで、シルフィ。ベッドで寝れるだけ天国だって、お父様もお母様も言ってたじゃない」



 ……なんだろう、僕の考える貴族のイメージとは540度ぐらい異なる発言が飛び出していた気がする。

 貴族ってもうちょっとこう、豪華絢爛な暮らしをしているものだと思うんだけど。

 正直、こっちのほうが身近でとっつきやすい気はするけれど、もうちょっと人の話は聞いて欲しい。

 まあ、とりあえず。



「ちょ、ちょっと待っててください。今、いるかどうか確かめてきますから」

「む? そんなもの、私が直接――」

「ああお嬢様、ここはやはり、満を持して登場した方がいいですから、ね!」



 僕の考えを察してくれたのか、シルフィさんがクラリッサさんを説得に掛かる。

 まあ、それできっちり聞いてくれるかどうかは分からないけど、少なくとも話している間ぐらいは止まってくれるはずだ。

 シルフィさんには軽く頭を下げつつ、僕は『湖面の三日月亭』へと足を踏み入れる。

 まず目に入ったのは、正面にあるカウンターのような場所。

 周囲は酒場のようになっている――と言うか、酒場兼宿屋と言った風情だろうか。

 奥には火の付いていない暖炉と、テーブル席で集まって談笑している人々。

 そんな建物内の一角に、見覚えのある姿を発見した。



「こら、離せ、離しなさい! 帽子を弄らないで!」

「ふふん、悔しかったらここまで来るのですよロリ魔人! アイとキャラが被ってて生意気なのです!」

「言わせておけば……ッ! 私だって、魔力を取り戻せば飛べるんですからね! というか、撃ち落としますよ!?」

「宿の中でやるなよ、宿の中で……っと、アイ。ご主人様のご到着だぞ」

「お? イリスさん、お帰りなさいなのです!」



 エルセリアの帽子の頂上付近を掴んで揺らしていたアイが、僕の姿に気付き、ひらりと飛び上がって僕の肩へと着地する。

 どうも、彼女を弄って遊んでいたようだけども、何故にこんなにも仲が悪くなっているのか。



「もう、アイ? 人に意地悪しない。ごめんなさい、エルセリア」

「ふぅ……別に構いませんけど、妖精の躾はちゃんとしないと駄目ですよ。飼い主が低く見られてしまいますから」

「誰がペットですか、貴方こそペットみたいなもんでしょう」

「言うに事欠いてペットとはなんですかこのちんちくりん! 私はこの男の飼い犬に成り下がったつもりはないです!」



 何と言うか、根本的に相性が悪いらしい。

 まあ、お互い軽口のレベルではあるみたいだし、アイも帽子の周辺をひらひら飛んでいるだけに留めている様子。

 エルセリアのほうも、どうやら本気で魔法を使うつもりはないようだった。

 とりあえずは危険も無いだろうと判断し、嘆息しつつクレイグさんに向き直る。

 彼は、苦笑しつつ僕の視線を受け止めながら、先立つように声を上げた。



「うちのが迷惑かけるな」

「いえ、僕の方も同じようなものですから」

「まあ、こいつも話すのはいつも俺ぐらいだったからな、あれでそれなりに楽しんでると思うから、勘弁してやって欲しい。それで、例の件はどうだった?」

「あ、はい。とりあえずは大丈夫だと思います。あの人たちが襲われたの、昼より前だったって言ってましたし」

「成程、それなら問題ないな。ギルドに問い合わせれば受注時刻を確認できる」



 僕が差し出した剣を、クレイグさんは頷きながら受け取る。

 どうやら、二人が仕事を受けたのは午後以降の話だったらしい。

 まあ、そうじゃなきゃあの近場で夜になるまで粘るようなことは無いだろう。

 アリバイを成立する手段があるなら、とりあえず彼らの疑いは晴れたと見て問題は無い筈だ。

 けど、それで話が通じるかどうかわからない相手が来てるんだよなぁ。



「あの、それでですね……その話に関して、ちょっと厄介なことが」

「何? もう聞きつけてきた奴がいるのか? 流石に早すぎると思うが」

「はい、その……勢いに押されて連れてきちゃって、本当に申し訳ないんですけど」

「いやまあ、変に庇い立てしていると思われるよりはいいだろう。で、それは何て奴だ?」

「確かクラリッサ・ドライ・オークスっていう名前のお嬢様で――」

「ドライ・オークス?」



 僕の継げたその名前に、クレイグさんは何とも微妙な表情を浮かべていた。

 面倒くさそうな部分が半分と、若干の納得、そして残りは疑問か――そんな感情を交えた声音で、クレイグさんは呟いていた。



「何だって第三武家の『鉄拳候女』がこんな所に。まさか……おい、エルセリア」

「はぁ、はぁ……な、何ですか? 魔法は使ってないですよ?」

「それは分かってるから。ちょっと出るぞ、面倒な手合いがやってきた」

「面倒、ですか。正直なところ、貴方関連で面倒じゃなかった相手なんて殆どいない気がしますけど」

「お前含めてな。とりあえず、話を聞いてみるとしようか」



 立ち上がったクレイグさんは、剣を剣帯に装着しながら外へと向かって歩き出す。

 どうやら、彼はクラリッサさんのことを知っているらしい。

 『鉄拳候女』とはまた、随分とぴったりな二つ名のようだけど。

 とりあえず、外に出て行くクレイグさんと、彼の背を追ったエルセリアに続き、僕も宿の外へと足を踏み出す。

 そこでは、先ほどと変わらず仁王立ちした姿のクラリッサさんの姿があった。



「出てきたわね。貴方が昨日森に入ったとか言う男かしら? しかも、幼い子供を手篭めにしていると言う」

「……まあ、その通りではあるな」

「そうですね、本当にロリコン鬼畜野郎です」

「そ、そっちはともかく! クラリッサさん、確認が取れました。この人は、エメラさん達を襲った犯人の一味ではありません!」



 誰も否定してくれなかったことに若干項垂れているクレイグさんだったが、そんな彼の様子には頓着せず、クラリッサさんは腕組みの仁王立ち姿勢を崩さぬまま声を上げる。



「そう。けど、それは私自身で確かめるわ。構えなさい」

「ちょっ、クラリッサさん」

「諦めろ、イリス。第三武家、ドライ・オークスはこういう家系だ」



 嘆息と共に、クレイグさんは腰に佩いた剣を抜き放つ。

 エメラさんが『巨人の燐寸』と呼称していたその剣。

 僕が解析した限り、それは機能としては非常に単純で、注ぎ込んだ魔力に応じて炎を発するだけのものだ。

 強力な機能であるとは言いがたいが、その分機構が単純であるため、非常に頑丈で斬れ味も鋭い。

 剣としては十分すぎるほどに優秀な武器であると言えた。



「相手の本質は武によって確かめる。ま、悪く言えば『とりあえず殴り倒せば分かる』って所らしいが……なら、武で示してやればいい話だ。正直、口で説明するよりもその方が気が楽だな」

「私に対しての悪事は否定出来ませんからねぇ」

「お望みとあらばじっくりやってやろうか、エルセリア。一晩かけて、じっくりと。何なら丸一日かけても――」

「そ、そこの武家! 早くこいつを殴り倒して下さい、早急に! じっくりコースは嫌です、明日起き上がれません!」



 ……この子は何で積極的に自爆しに行くんだろうか。

 って言うか、じっくりコースって一体何をするつもりなんだろう?

 まあ、聞いてても微妙な気分になるだけなので、聞かないけど。


 そんな二人のやり取りも気にしていないのか、クラリッサさんは拳を握って半身に構え、その口元に笑みを浮かべる。

 その表情は、とても楽しそうなものに思えた。



「いいわね、伝わってくる。いい武だわ」

「お褒めに預かり光栄だ。だが、来ないのか?」

「いいえ――行かせて貰うッ!」



 ずどん、と。砲弾が炸裂するような轟音と共に、クラリッサさんの体が霞む。

 瞬時にクレイグさんに肉薄したクラリッサさんが、彼に向けて放った拳の数は四度。

 人造天使エンジェドールとしての身体能力があるからこそ、その動きを見極めることが出来ている。

 けれども、その拳撃の嵐に巻き込まれ、一撃も貰わないような自信は僕には無かった。

 でも――



「重いな、流石は第三武家か」



 クレイグさんは、その場から一歩も動くことなく、拳の連続攻撃を一本の剣で受け流していた。

 剣の腹で滑らせるように、或いは刀身で絡め取るように、あらゆる攻撃を自らの体から逸らしていく。

 それは、砲弾の嵐の中で命中するものだけを弾くような、正気の沙汰とは思えない技だ。

 圧倒的な武術に対し、正面から技術で立ち向かう。今の僕には想像も出来ないほど、高度な業だった。


 涼しい顔をして受け流しているクレイグさんの様子に、このままでは無駄だと判断したのだろう。

 クラリッサさんは、一度跳躍して距離を空けていた。



「っ……油断したつもりはないけど、甘く見たわね。わたしもまだまだ未熟だわ」

「いや、事実大したもんさ。反撃する暇も無かった、このままだったらジリ貧で負けていたさ」

「剣だけで戦っていたら、の話でしょう? 色々と手札は隠しているようだけど」

「それを見たいんだったら、本気で戦わなきゃならないな」



 鋭い視線で言い放ち、クレイグさんは改めて剣を構え直す。

 その姿勢は、先ほどよりも攻撃的なものだ。

 クラリッサさんの荒れ狂うような気配とは違う、凛と澄んだ、曇りない刃のような緊張感。

 それに当てられたのだろう、後ろで控えていたシルフィさんが反射的に構え――



「――余計なことはしない方がいいですよ」



 いつの間にか彼女の横へと姿を現していたエルセリアが、手刀の先に延ばした漆黒の魔力刃を突きつけながら嘆息交じりに声を上げる。



「余計な手出しをしたほうが、怪我人が増えるでしょう。それに、もう分かったでしょう、拳のお嬢様も。そいつは、確かに幼女趣味の変態ですが、少なくとも外道の類ではありませんよ」

「……そうね。シルフィを巻き込まぬようにしてくれたこと、感謝するわ」

「お、もういいのか?」



 構えを解いたクラリッサさんに、剣を肩に乗せたクレイグさんが問いかける。

 彼の言葉に対して、クラリッサさんは苦笑交じりに肩を竦めていた。



「ええ、今回は見極めだもの。貴方との立会いは、別の機会に取っておくことにするわ。問いたいこともあるしね、貴方の太刀筋についてとか」

「げ……まぁ、仕方ねぇか」

「ええ……では改めて、ごめんなさい。貴方のような真っ直ぐな剣の持ち主を、あの仮面の一味などと考えてしまうとは……本当に、不覚だわ」



 クレイグさんが剣を降ろした所で、クラリッサさんはそう告げつつ深々と頭を下げていた。

 本当にさっぱりとした性格のようで、口調の中にも自信の至らなさに対する後悔らしきものが聞き取れる。

 そんな彼女の言葉に対し――クレイグさんは、ぽつりと声を上げていた。



「……仮面、だと?」

「え?」

「……謝罪は受け取る。だが、一つ聞かせて欲しい。その仮面と言うのは……白い、歪んだ笑みの仮面をつけた男のことか」

「っ、知っているの!?」

「ああ……俺も奴を追っている。エルセリアもだ。どうやら、この近辺にいるのは確かだったようだな……!」



 ばきんと、甲高い音が響く。

 驚いてその発生源へと視線を向けてみれば、そこには己の手にあった黒い刃を握り潰したエルセリアの姿があった。

 その表情は驚きと、幼い顔に似合わない赫怒に染まっていた。

 顔を上げた彼女は、視線に怒りが篭っているクレイグさんへと声をかける。



「クレイグ、ここは――」

「ああ、分かってる。なあ、お嬢さん。ここは共同戦線と行かないか……あの、クソ仮面を追い詰めるために。俺に対する引け目などいらない、互いに求めているのは戦力だろう」

「……ええ、そうね。少し、話し合いをするとしましょうか」



 頭を上げたクラリッサさんは、力強い笑みでクレイグさんに対して頷く。

 対するクレイグさんも頷き返し、そして僕の方へと視線を向けていた。



「イリス、感謝する」

「え……な、何で僕に?」

「結果オーライって形ではあるが、状況は少なくとも好転した。お前が関わらなかったら、もうちょっと厄介な事態になっていたかもしれないしな」

「そうね。私からも感謝しておくわ、イリス。話し合いは夜に合流してからになるでしょうけど……そうね、それまでに少しお礼をするとしましょうか」



 ……正直、状況はさっぱり理解できない。

 けど、とりあえずは二人とも、本気で激突することなく、こうして手を取り合うことが出来た。

 共通の敵を見つけたということなんだろうけど……僕自身は、この世界で知り合った二人が傷つくことなく手を取り合った現状に、深い安堵を覚えていたのだった。











 【Act03:天使の出会い――End】













NAME:イリス

種族:人造天使(古代兵器)

クラス:「遺物使い(レリックユーザー)」

属性:天


STR:8(固定)

CON:8(固定)

AGI:6(固定)

INT:7(固定)

LUK:4(固定)


装備

天翼セラフ

 背中に展開される三対の翼。上から順に攻撃、防御、移動を司る。

 普段は三対目の翼のみを展開するが、戦闘時には全ての翼を解放する。


光輪ハイロゥ

 頭部に展開される光のラインで形作られた輪。

 周囲の魔力素を収集し、翼に溜め込む性質を有している。


神槍ヴォータン

 普段は翼に収納されている槍。溜め込んだ魔力を解放し、操るための制御棒。

 投げ放つと、直進した後に翼の中に転送される。



特徴

人造天使エンジェドール

 古の時代に兵器として作られた人造天使の体を有している。

 【遺物兵装に干渉、制御することが可能。】


《異界転生者》

 異なる世界にて命を落とし、生まれ変わった存在。

 【兵器としての思想に囚われない。】



使用可能スキル

《槍術》Lv.1/10

 槍を扱える。とりあえず基本的な動作は習得している。


《魔法:天》Lv.1/10

 天属性の魔法を扱える。とりあえず基本的な魔法を使用可能。


《飛行》

 三枚目の翼の力によって飛行することが可能。

 時間制限などは特にない。


《魔力充填》

 物体に魔力を込める。魔導器なら動作させることが可能。

 魔力を込めると言う動作を習熟しており、特に意識せずに使用することが可能。


《共鳴》

 契約しているサポートフェアリー『アイ』と、一部の意識を共有することが可能。

 互いがどこにいるのかを把握でき、ある程度の魔力を共有する。


《戦闘用思考》

 人造天使エンジェドールとしての戦術的な思考パターンを有している。

 緊急時でも冷静に状況を判断することが可能。


《鷹の目》new!

 遥か彼方を見通すことが出来る視力を有している。

 高い高度を飛行中でも、距離次第で地上の様子を把握することが可能。



称号

《上位有翼種》

 翼を隠せる存在は希少な有翼種であるとされており、とりあえずそう誤魔化している。

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