表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人造天使の歩む道  作者: Allen
1章:始まりの古都
1/17

Act01:天使の目覚め

以下の点に注意してください

・この作品は某チャット内の企画作品です。

・展開をチャット内で募り、ダイスで決定して進めています。

・時々無理のある展開に進む場合があります。

・完成したら投稿するので、不定期更新です。







 ――この部屋の窓から見える空以外、外の景色を思い出せない。

 心の中でそんな事を考えて、僕は小さく苦笑する。

 尤も、既に殆ど動いてくれない僕の喉は、くぐもった雑音を零すことしかできなかったけれど。



(ああ、もう終わりかな……)



 生まれてから、おおよそ20年。僕は、人生の大半をこの病室で過ごしてきた。

 自分の身を嘆いたこともある。健康に生んでくれなかった両親を憎んだこともある。この世の全てに絶望したこともある。

 そして、それら全てを通り越して――僕の中に残っていたのは、ただ諦観だけだった。


 ――それだけだと、思っていた。



(……終わり、なんだよね)



 ずっと、待ち望んでいたはずの終焉。

 いずれは辿り着くであろうと思っていた、緩慢な最期。

 分かっていた。分かっていたはずだった。20歳まで生きられれば奇跡だと言われていたほどなのだから。

 動かない体も、痩せ細った手足も、いずれはおさらばするものだと分かっていたのだ。

 だから、もうとっくの昔に諦めたのだと……僕自身、そう思っていた。



(でも……)



 既にまともな機能を有していない耳が、僅かに小鳥達の鳴き声を聞き分ける。

 きっと、本当はもっと綺麗な音なのだろう。僕の耳には、かすかな雑音程度にしか聞こえない。

 でも、これだけは聞き間違えない自信がある。僕はずっと、これを聞いていたのだから。

 羨望だろうか、憎悪だろうか、自分でも説明のつかない複雑な感情。

 でも、今ならば分かる。僕は――



(……嫌だなぁ)



 死にたくなんて、なかったのだと。

 終わりたくなんてなかったのだと。

 何処までも自由な彼らのように、好きな場所へ飛んでいって、世界中を見て回りたかったのだと。

 最期の最後で、僕は気がつくことができた。



(こんなので終わりなんて……嫌だなぁ)



 既に動かないはずの手を伸ばす。微かに動かすことが精一杯だけれども、今の僕に可能な全霊を込めて。


 ――健康に生んであげられなくてごめんなさいと、悪くもないのに謝ってきた両親。

 ――僕のことを面倒くさそうに扱いながらも、何だかんだで世話を焼いてくれた妹。

 ――この病院で知り合い、退院して行った後も何度も顔を見せてくれた友人。

 ――いつも僕の世話をして、生きる希望を持たせようとしてくれた看護婦さん。


 様々な顔が明滅する。ずっとずっと、僕の回りには誰かがいた。

 生きる事の素晴らしさを、世界の広さを、教えようとしてくれていた。

 そしてそれは確かに、僕の中に積み重なっていたのだ。


 生きたい、生きていたい、生きていたかった。

 それが叶わぬ願いであると、知っていても――



(僕は――――)



 意識が溶ける。

 自分の境界が曖昧になる。

 動かそうとした腕だけが、感覚を残して――



(――――――)



 ベッドの端から腕が落ちた感覚だけを感じ取り、僕の意識は溶けて消えた。


 ――永遠に消える、はずだった。











 * * * * *











「……ぅ」



 ――目を開ける。

 ずっと霞んで、暗く澱んでいたはずの視界。

 けれど、今の僕の目には、確かに明かりと天井が見えていた。

 何よりも、その事実に驚いて、僕は呆然と目を見開く。



「これ、は……」



 声が出る。まずは、その事実に何よりも驚いて――そして、それが明らかに自分の声ではなかったことに、僕は改めて驚愕していた。

 勿論、自分の声なんて久しく聞いていなかったし、殆ど覚えていないことは事実だけれども。

 でも、少なくとも……僕の声は、こんな甲高いものではなかったはずだ。

 しばし呆然と、その場に佇む。僕はどうやら、寝台に寝かされているらしい。でも、この寝台は僕の記憶にある病院のベッドより、いくらか高級なもののようだ。

 少しだけ、落ち着いて……それで、ようやく理解する。


 ――どうやら、僕は動けるらしい。



「一体……どうして」



 再び、自分のものとは思えない声。

 それも気にはなったけれど、今はとりあえず、自分の体がどれだけ動かせるのかを確認したかった。


 腕は、動く。先ほどまではベッドから落とすまでが限界だった腕も、今は自分の目の前に持ってくることだってできた。

 僕の視界に入った僕の腕は、骨と皮しかなかったような不健康なものではない。

 瑞々しい肌と、柔らかな肉付き。妹のそれに、よく似ているように思えた。

 足も動く。膝を曲げて、伸ばして――自分が歩けると確信できるだけの力が込められることに、驚いた。

 最後に、お腹に力を込めて――誰かの助けが無ければ起こせなかった上体を、持ち上げる。



「動ける……生きて、いる」



 体を起こし、寝台に座った体勢のまま、僕は呆然とそう呟いていた。

 生きている。そう、確かに生きている。

 何かおかしい、違和感がある。けれど、僕は今、確かに生きてここにいる。



「は、はは……」



 ――それが、たまらなく嬉しかった。



「あははははははははははははははははははははははっ!」



 お腹がよじれるほどに、僕は笑って――涙を流しながら、喜びを噛み締めていた。











 * * * * *











「さて、と」



 一頻り笑いころげて、思考がクリアになり――ようやく僕は、状況の把握を始めていた。

 遅すぎるような気もするけれど、おかげで冷静になれたと思えば悪いことじゃないと思う。

 とりあえず……ごろごろと転がり回っているうちに、自分自身の体の異常にも気付けたのだし。



「これ……どう考えても、僕じゃないよなぁ」



 まず、背が小さい。いくら僕が寝たきりの生活だったとしても、流石にここまで小さくはなかった。

 妹とあまり変わらない程度。十代半ばぐらいの年齢だろうか。そのぐらいの体格に思える。

 そして次に、髪が白い。白髪とかではなく、若々しい艶やかな髪のまま、全てが白く染まっているらしい。

 少なくとも、普通の日本人だった僕の髪は黒かったはずだ。最後の方は抜け落ちてしまっていたかもしれないけど。


 そして、何よりも――



「……女の子だよね、これ」



 胸がある、股間のアレが無い。

 笑い転げている間に気付いていなかったら、一体どれだけの衝撃を受けていたことか。

 まあ、今でも衝撃を受けていることに変わりはないけれども。



「死んだはずなのに生きていて、しかも女の子になっている……一体、何だって言うんだろうか」



 何がどうして自分がこうなったのか、そもそもここは何処なのか。

 何もかもがさっぱり分からない。何か手がかりが無いかと周囲を見渡して――



「ん?」



 僕は、サイドボードのようなものの上に載っている二つの物体に気がついた。

 一つは、白い封筒のようなもの。見た目からでは、手紙のように思える。

 そしてもう一つは、やたら豪華に装飾された箱だった。

 サイズ的には500mlのペットボトルがすっぽりと収まる程度だろうか。


 部屋自体はあまり広くない。所謂四畳半というサイズ程度だろうか。

 ベッドとサイドボード以外には何も無く、ただ扉がついているだけだ。


 とりあえず、僕は――



>1.手紙を開いてみることにした。

2.箱を開けてみることにした。



「手紙……かな?」



 白い封筒、レターセットのようなものに入った何か。

 持ち上げてみても、厚みはそれほど無い。どうやら、普通に紙が入っているようだ。

 裏返して、眺めてみて――ふと、見慣れない文字があることに気がついた。

 見慣れない、見たことのないような文字。アルファベットじゃないし、妙な記号のようにしか思えない。

 けれど――僕は、それを確かに読むことが出来た。



「『目覚めた君へ』……僕に宛てた、手紙?」



 これが何の文字なのかも分からない。何故僕がそれを読めるのかも分からない。

 僅かな手がかりを求めて、僕はその手紙を開いていた。

 目に入ってきたのは、先ほどと同じ文字。けれど、同じように意味を理解することが出来た僕は、それをゆっくりと読み始めた。



「『目が覚めた君へ。願わくば、それが私の娘であることを願いたいが、恐らくそれは叶わぬ願いだろう――』」



 そんな言葉で始まった手紙は、僕に宛てられたものであり――同時に、僕以外の誰かに届くことを願ったものなのだろう。

 そのことを申し訳なく思いつつも、僕は手紙を読み進める。



「『君がどのような人格を宿して目を覚ましたとしても、まずは己の肉体に戸惑っていることだろう。人にあらざる肉体、人の手によって作り上げられた人形兵器、我々はそれを人造天使エンジェドールと呼んでいる』……兵器?」



 自分の――いや、自分のものになった掌を見下ろして、僕は呆然とそう呟く。

 どう見ても、年若い少女の姿をした人間にしか思えない。

 これが兵器などと言われても、誰も納得できないだろう。



「『君の肉体は、その終期型。最も完成形に近い個体だ。だが、君の完成を最後まで待つことはできなかった。戦いは、既に終わりに近付いている――我々の敗北という形で』」



 ……この手紙の主、そしてその人物が所属する場所は、何らかの存在によって壊滅に追い込まれようとしていたようだ。

 それが組織なのか、国なのか、或いは人類全体なのか――ここからでは、読み取ることは出来ないけれど。



「『起動処理にまで持ち込めなかった君が、目を覚ますのかどうかは分からない。だが、僅かな可能性のため、私はこの手紙と、君のためのサポートを遺した。君に、この言葉を伝えるために』」



 この肉体が――そして、僕が目覚めた理由は、結局分からない。

 けれど、この手紙の主は、心の底から誰ともわからぬ相手のことを案じていたらしい。

 ――だから、こんな言葉を遺したのだろう。



「『――君は君だ。例えどのような状況であったとしても、兵器としての君に縛られることは無い。君の望むままにいきなさい』」



 ――思わず、笑みを零す。泣き笑いのような、そんな笑みを。

 この人は本当に、まるで父親のように、誰かのことを案じてくれていた。

 かつて、僕に謝ってきた両親の姿が脳裏に浮かぶ。二人も、こんな風に僕のことを想ってくれていたのだろうか。

 思わず、手紙を抱きしめそうになり――ふと、小さく続きが書かれていることに気がついた。

 小さな文字、書くことすら躊躇ったような、申し訳程度の追記。



「『――我が娘、アイリス。死した、そして素体としてしまった我が娘。不甲斐ない父を、許しておくれ』」



 僕は、虚空を見上げる。

 この可能性を潰してしまったことを、僕は悔いればいいのだろうか。

 分からないけれど――それでも、僕は生きていたい。心の底から、そう願ったんだ。

 だからせめて――



「僕は、アイリスじゃない。でも、その名前を忘れようとは思いません」



 この手紙の主が、心の底から想っていた相手。

 この人の、娘の名前。僕自身が名乗ることなんてできないけれど。

 でも、僕は彼女の名前を背負い続けようと、そう思ったんだ。



「僕は、イリス。入巣翔馬だった、イリスです」



 それが僕の名前。生まれ変わった、僕の名前。

 ここが何処なのか、少なくとも僕の知っている世界ではないだろうここが何なのか。

 今の僕には、何一つ分からないけれど――それでも、それを背負っていこうと思う。



「さて、と……サポート、だったっけ?」



 ちらりと、手紙と共に置いてあった箱へ視線を向ける。

 あまり大きくは無い、でもやたら豪華な箱。

 鍵のようなものは見受けられず、ただ普通に開けられるようだ。

 オルゴールのような、そんな印象を受ける箱――



「こんな小さなものに入るサポートって、一体――」



 呟きながら、僕は箱の蓋を開く。

 その、瞬間――箱の中から、小さな何かが僕の顔面へと向けて飛び出してきた!



「う、わ!?」



 僕はそれを――



1.咄嗟に掴み取っていた。

2.反射的に叩き落としていた。

>3.うまいことふわりと抱きとめた



 ――咄嗟に、体を後ろに後退させる。

 弾丸のように飛び込んできたそれに対して、僕は余裕を持って対処することができていた。

 これが兵器としての肉体なのか、などと余裕のある思考を持ちながら、僕は顔面へ向けて飛び込んできたそれをふわりと受け止める。

 それは――ふわふわした金髪を揺らす、掌サイズの女の子。

 背中から半透明の羽を生やした、小さな小さな妖精だった。



「どうもです、お目覚めの天使さん!」

「うわ、喋った!?」

「そりゃあ喋るのですよ、だってサポートフェアリーなのですから!」



 僕の掌の上に立った彼女は、そう宣言して薄い胸を張る。

 サポートフェアリー、まんま妖精だ。というより、こんなファンタジーな生き物が存在するのか。

 まあ、僕自身、人造天使エンジェドールとかいうよく分からない生命体のようだけれども。



「私は、貴方のサポートのために生み出されたのです。まずは、私に名前を下さい、天使さん!」

「名前? 君は名前が無いの?」

「はい、貴方の妖精ちゃんなので、貴方に名前を付けていただきたいのです! 可愛い名前をお願いします!」



 元気良く両手を振り上げながら、妖精はそう答える。

 それが、小動物が自分を大きく見せようとする威嚇のポーズにも思えて、僕は思わず笑みを零していた。

 しかし、名前か――



「えっと……サポ子?」

「安直過ぎるのですっ! って言うか、『こ』って何ですか『こ』って!?」

「あ、うん。じゃあ……ナビ子?」

「変わってないのですよーッ!」



 掌の上で再び両手を振り上げるサポ子(仮)。どうやら、今度は本当に威嚇のポーズらしい。

 どう足掻いても微笑ましい様子にしかならない彼女に苦笑しつつ、僕はごめんごめんと謝罪を返していた。

 碧玉の瞳を怒らせる彼女には悪いが、ちょっとからかっただけだ。

 一人ぼっちだと思って不安だった所に、こうして出てきてくれたのが嬉しくて、少しテンションが上がってしまった。



「ごめん、君の名前は決まってるんだ。今度は、ちゃんとしているのだよ?」

「本当です?」

「うん、本当。君の名前は……『アイ』。これなら、どうかな」

「『アイ』……アイ、ですね。了解したのです! 私はこの瞬間から、アイなのです! よろしくですよ!」

「うん、よろしく。僕の名前はイリスだよ。よろしくね、アイ」



 この肉体の元になった人物、アイリス。

 この妖精が僕の片割れとなるのなら、これほど相応しい名前も無いだろう。

 彼女の名前を背負って生きる僕の、分かたれた名前。



「さて、アイ。君は僕のサポートなんだよね?」

「はいです! 私はイリスさんの外部端末のようなものなのですよ。一心同体なのです」

「ええと……それじゃあ、色々と知識を持っていたりする? 僕の体のこととか、この建物のこととか」

「勿論なのですよ!」



 元気良く答えてくれるアイに、僕は胸中で安堵の吐息を零す。

 彼女に判らなければ、何も分からなくなるところだった。

 当ても無くこの建物を探索するのもどうかと思うし。


 さてと、それじゃあまずは――



1.この体のことを聞こう。

2.この建物のことを聞こう。

3.外の状況を教えて。

4.僕は生き返ったの?

>5.一縷の望みに賭けてみたい…「肉体そのものの記憶」を呼び起こして、アイリスと対話を試みれないかな?

6.ノリで爆破☆



「ねえ、アイ。僕のこの体の記憶、辿ることは出来ないのかな?」

「体の記憶、ですか? 何かいやらしい響なのです」

「うん、全く関係ないからね。ええと……この体の素体となった人物の記憶だよ。彼女のことを、知っておきたいと思ったんだ」



 気になることはいくらでもある。でも、僕はまずこの体のことを知りたいと思った。

 兵器である人造天使エンジェドールとしての力も気になるけど、僕が気にかけているのは、この体の素体となったアイリスのことだ。

 父親に愛されていた彼女は、どのような人物なのか。もしも、この体の内側に彼女の意志が残っているのであれば、彼女にこの体を明け渡すべきなのか。

 僕は生きていたい、折角手に入れた体を、また失ってしまうなんて嫌だ。

 でも、彼女をないがしろにすることだけは、僕には出来ないのだ。

 そんな僕の疑問に対し――アイは、首を横に振って答えた。



「どれだけ時間が経っていると思っているのですか。彼女はとっくに『輪廻の輪』に乗っているのですよ」

「『輪廻の輪』?」

「死した魂の行き着く場所なのです。人はそこを通り、新たな生へと旅立つのですよ」



 とりあえず、その『輪廻の輪』とやらの実在がどうであれ、僕の中には既に『アイリス』は存在しないと言うことらしい。

 やはり、申し訳なさは感じてしまう。この体の創造主が願っていたのは、彼女の復活なのだから。

 少ししんみりとして自分の体を見下ろしていた僕に、アイはふと思いついたように声を上げた。



「あ、そうです! この施設の端末からなら、何か記録が閲覧できるかもしれないのですよ!」

「記録? アイリスの?」

「はいです。どのような形であれ、彼女は被験者となったのですから。ある程度の記録はあるはずです」



 アイの言葉に、僕は納得して首肯する。

 ここが人造天使エンジェドールを作るための施設ならば、その記録ぐらいは残っているはずだ。

 生憎、この体の製造前に彼女は死んでしまっているのだろうが……少しでも情報は知っておきたい。

 それに、端末から情報が引き出せるなら、色々と分かるかもしれないしね。



「分かった。じゃあ、その端末まで案内してくれる?」

「了解なのです。でも、その扉を開けてくれないと出られないのですよ?」



 言って、アイは部屋の奥にある扉を示す。

 扉といっても、そこだけ壁の色が四角く異なっているだけであり、扉らしい取っ手も何もないのだけれど。

 引き戸だろうか? でも、指を引っ掛ける所もないし――



「何してるのです? 早く開けて下さい」

「いや、でもアイ。この扉、どうやって開ければいいのか……」

「何を言ってるのですか。魔導器使いの人造天使エンジェドールたるイリスさんに、扱えぬ機器などないのです。触ってみれば分かりますよ」



 また何だか良く分からない単語が飛び出してきたけれど、アイが言うことには、とりあえず触れば何とかなるらしい。

 半信半疑で扉へと手を伸ばし、僕は扉へと手を触れさせていた。

 ――瞬間。



「っ!?」



 突然走った、弱い静電気のような感覚。

 それと共に僕の中へと流れ込んできたのは、この扉の――扉型の魔導器の扱い方だった。

 魔導器は、この体が作られた時代に流通していた道具のことで……わかりやすく言えば、魔力をエネルギー源として動く機械と言った所だろう。

 まあ、魔力なんてものがある時点で僕にとってはカルチャーショックなんだけど……今更と言えば今更だろう。

 ともあれ、魔導器を動かすためには魔力を供給する必要がある。

 そしてその方法は――この人造天使エンジェドールたる身体は、教えられずとも理解していた。



「こう、かな」



 自分自身の中にある何かを、分け与えるように扉の中へと流し込む。

 体内で渦巻く力の内のほんの一部であったけど、この扉を動かすには十分だったようだ。

 扉は僅かに振動すると共に浮き上がり、そのまま横にスライドして開いていく。

 殆ど音もなく開いた扉の先には――暗い廊下が、広がっていた。



「ほら、出来たのです。この程度の魔導器なんて、終期型レイテストモデルのイリスさんにはお茶の子さいさいなのです」

「な、成程……まあでも、都合がいいと思っておこうか」



 何しろ、この性質があるのなら、件の端末とやらを動かすにも困らないだろう。

 折角端末を見つけたのに、使い方が分からないなんてギャグにすらならない。

 ともあれ、扉が開いたのなら外に出なくては。アイを伴って進み出た廊下は、暗く長い空間が広がっている。

 けど、この暗闇の中でさえ、僕の瞳はしっかりと周囲の状況を見通すことが出来ていた。



「暗視機能か……アイ、どっちに行けばいい?」

「はいはーい、ついてきてください!」



 ふわふわと飛行するアイは、僅かに光を放ちながら暗い廊下を進んでいく。

 とりあえず妖精だからと考えていたけど、一体どんな原理で飛んでいるのだろうか。

 まあ現状、原理なんて考え出したらきりがない状況なのも確かだけど。


 暗い廊下に、人の気配は――それどころか、生物の気配すらない。

 この施設は、とっくの昔に廃棄されているのだろう。

 そうでなければ、この体が今まで目覚めていなかった理由がない。

 誰もいないのは、寂しい気もする。アイがいてくれなかったらと思うと、ぞっとする所だ。

 と、そんな感慨と共にアイの姿を見上げれば、彼女は先に見える大きな扉を示しながら元気良く声を上げようとしている所だった。



「イリスさん、こっち、あそこのお部屋なのです!」

「ん、案外近かったね」

「むしろ、イリスさんが寝ていた場所が最深部でしたからね。この辺は最初から施設の重要区画なのです」

「……凄い待遇だね、僕」



 創造主のおかげなのか、或いは人造天使エンジェドールそのものが大切なのか。

 どっちなのかは分からないけど、そんな特別待遇も悪いものとは思えない。

 ぞんざいに扱われるよりは、よっぽどマシだろう。


 アイの示した扉に近付き、先ほどと同じように扉を開く。

 今度は両側にスライドして行った扉を潜れば、そこはいくつものモニターが立ち並ぶ広い空間が広がっていた。

 正面にはとりわけ大きな画面が設置されており、あれがメインの機械なのだと言うことが伺える。

 僕は正面のモニターに近付き、扉と同じ要領で手を伸ばして魔力を注ぎ込んだ。

 扉よりかは幾分か多くの、それでもあまり大したものではない量の魔力を分け与え、僕は端末を起動する。


 さて、何から調べようか――



1.アイリスのことを調べよう。

2.僕の体のスペックとか、記録されていないだろうか。

3.外の様子、一体どうなっているのかな?

>4.沈黙のコック登場

5.その辺にいたエラー猫を可愛がる



「ええと……これか、人造天使エンジェドールの記録」

「おー、結構作ってますね」

「そうかな? 僕としては結構少ない気がするけど」



 この施設で製造された人造天使エンジェドールの数は、全部で十七体。

 つまり、僕がその十七体目ということなんだろう。



「十六体の姉妹か……ん、兄弟もいる? 男性型もあるんだね」

「ですねー。ほら、これなんてとっても強そうなのですよ」

「強そうって言うか……勝てる気がしないんだけど。僕本当にこれよりスペック上なの?」



 映し出されたその姿は、筋肉モリモリの上に翼が生えた、クリーチャーに片足突っ込んだような姿の人造天使エンジェドールだ。

 って言うかこの個体、前世で見た映画のスターにそっくりなんだけど。コック帽被ってそうなあの人に。

 幼い子供のような姿のものもいれば、妖艶な女性の姿のものもいる。

 流石に、あまり年の行った姿の存在はいないようだったけど――



「皆、翼が生えてるんだね。僕にはないけど……」

「ん? あるのですよ?」

「え? いやでも、どこに?」



 肩越しに自分の背中へと視線を向けて、僕は首を傾げる。

 現在来ている服は背中丸出しのデザインだったけど、翼が生えてなんかいない。

 そもそも、生えてくる様子すらない、普通の背中だ。

 しかしアイは僕の様子にふふんと笑うと、キーボードの上でタップダンスを踊るように端末を操作し、十七体目――僕の記録を呼び出して見せた。

 そこに映し出された僕の――『イリス』の姿を見て、僕は目を見開く。



「これ、これが僕の……?」

「そうです! 技術の粋を集めて創り上げた終期型レイテストモデル! 魔導兵装《三位一体》の性能は、ほかの人造天使エンジェドールとはレベルが違うのですよ!」



 画面に表示された僕は、右手に槍を、頭上に光輪を、そして背中に三対の翼を背負った姿をしていた。

 一対の翼しか持たないほかの個体とは、明らかに装備が異なっている。

 魔導兵装《三位一体》――それは、三つの要素から成り立つ、僕だけの兵装だった。


 背中の翼は《天翼セラフ》。攻撃、防御、移動を司る三対の翼。他に、魔力を溜め込む性質を持っている。

 僕の持っている魔力が非常に多いのは、この力によるものでもあるみたいだ。


 頭上の輪は《光輪ハイロゥ》。周囲の魔力素を吸収し、僕自身の力へと変換する変換機。

 これがあれば僕は補給要らずだし、周囲の魔力素がある限り、魔力だって無尽蔵だ。


 右手の槍は《神槍ヴォータン》。集められた大量の魔力を制御するための制御棒であり、それ自体が強力な武器。

 これがあれば、僕は大量の魔力を一切の無駄なく操ることができる。


 これが、僕の人造天使エンジェドールとしての武装であり、能力。

 僕の体の根幹をなす要素でもあった。



「どうです、凄いでしょう!」

「うん、本当にね。でも……」

「でも?」

「……あの人には勝てそうにないかな、流石に」



 先ほどの男性型の姿を思い出し、僕はげんなりと嘆息していた。

 あの姿で翼を生やして接近してこられたら、もう怖いなんてものじゃない。

 僕は逃げる、絶対に逃げる。



「まあ、それはともかく……これが僕。そして――」



 データの脇に添付された資料、その中に入っていた写真を表示する。

 そこに映し出されていたのは、紛れもなくアイリスの姿だった。

 両親に囲まれ、幸せそうに笑う幼い少女。

 この体の素体となった時より、何年か前の写真なのだろう。

 髪は白くないし、この時はただの人間だったはずだ。



「……アイリス。君の身体、大切に使わせてもらうよ」



 呟き、僕は写真を閉じる。アイリス自身の記録は驚くほど少なく、この写真以外には簡素な記録しか残っていなかった。

 わざとそうしたのか、それが通例なのか――当時の人間ではない僕には分からない。

 それでも、彼女の姿だけは、確かにこの目に刻み付けていた。



「さて、と……アイ、ちょっとこれからのことなんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「折角こうして起きることが出来たんだから、目的を持って動こうと思うんだ。怠惰に過ごすのは、あまり良くないことだと思うしね」

「ほうほう、いい心がけなのです! でも、具体的にどうするのですか?」

「そうだね……」



 僕の考えていることなんて、そう大層なものじゃない。

 ただ、生きたいと願っていた。或いは、鳥のように世界を見て回りたいと。

 きっとそれは叶うだろう。だから、僕はもう少し欲張りたい。



「僕は、他の兄弟を探してみようと思うんだ」

「ここで作られた人造天使エンジェドールたちを、ですか?」

「うん。もしかしたらもういないのかもしれない、僕一人が残されてしまったのかもしれない。でもせめて、その足跡ぐらいは探してみたいんだ」



 何か、目的を持って旅してみたい。

 僕たちが、何故作られたのか。どんな風に戦って、どうなったのか。

 最後の弟……じゃなくて妹? ともあれ、最後の兄妹として皆の記録を探してみたい。

 それが、僕のやりたいことだ。そんな僕の言葉を聞いて、アイも満足そうに笑みを浮かべる。



「いいと思います! 人造天使エンジェドールは、自己修復さえしていればいつまでだって稼動できますから、きっと誰かが残っているのです!」

「そっか。それなら、会えることを期待してみるよ」



 笑顔で頷き、兄弟達の記録を目に焼き付ける。

 誰一人として、見逃すことがないように。



「けど、旅か……」



 病院から外をほとんど出歩いたことのない僕には、完全に未知なる概念だ。

 一体どうすればいいのかも分からないけど、とりあえず――



1.何か、使える道具はないかな。

>2.この体の力、ちゃんと使いこなせるようにしておくべきだろうか。

3.何者かの思念が頭に流れ込んでくる……

4.とりあえず何事も体力が必要……な気がするし走り込もう。



 今のままじゃ、兵装の使い方もさっぱりだ。

 とりあえず、一通り使えるようにはならないと駄目だろう。



「ねえアイ、どこか広いところはないかな。少し、力を使ってみたいんだけど」

「お、イリスさんもついに興味を持ちましたね! ではこっちなのですよ!」



 急にテンションを上げたアイは、喜色満面で飛び回ると、先ほど入ってきた扉から外へと飛び出していく。

 どうも、僕の性能の話になると楽しくなってしまうらしい。

 まあ、慕ってくれていることに不満は無いけどね。

 と、あんまりゆっくりしていたら見失ってしまうし、追いかけないと。



「急ぎすぎだよ、アイ」

「早く、早くですよ!」



 地面を蹴れば、僕のイメージした以上の速度で駆け出せる。

 これだけでも、十分この体が強靭であることが理解できる。

 でも、きっとそんなものではないのだろう。アイリスの父親が、この体に込めた願いは。


 廊下をかける淡い光を追って辿り着いた場所は、何処にこんなスペースがあったのかというぐらい広い、体育館のようなスペースだった。

 人造天使エンジェドールのスペック検査をする部屋だろうか。とりあえず、これだけの広さがあれば問題はないだろう。

 そんな広い空間の空中で腰に手を当てながら浮遊し、アイは待ちきれないとでも言うかのように声を上げる。



「さあ、まずは初心者モードです! 《天翼セラフ》を限定起動してください!」

「げ、限定起動?」

「使い方は他の魔導器と大して変わらないのですよ。後はただ、《天翼セラフ》限定起動と念じて下さい」 

「う、うん」



 何だか突然難しい話になったような気もするけど、やってみないことには始まらない。

 とりあえず――あの翼を、起動させよう。


【――《天翼セラフ:限定起動》――《飛行》――】


 ――脳裏に、何かの声が聞こえた気がする。

 けれど、その正体を確かめる暇もなく、僕の背中――正確に言えば腰のやや上辺りに、体内の魔力が集束を始めていた。

 扉や端末とは比べ物にならないほどの魔力集束。それは、はじけるように僕の体を突き破り――僕の背には、一対の翼が出現していた。



「おお、これが……」

「《天翼セラフ》の限定起動、非戦闘モードなのです。飛行能力を有した三対目の翼だけを展開し、身軽に飛行できるのですよ」

「飛行ってことは、やっぱり飛べるんだね」

「勿論です、人造天使エンジェドールは皆飛べますよ」



 ふむ、と呟き、僕は意識的に羽を動かしてみる。

 何とも奇妙な感覚だったけれども、どうやらこれは思い通りに動かすことが出来るようだ。

 とは言え――この翼で揚力を得て飛ぶわけではないだろう。

 多少大きい翼とは言え、これだけで飛べるほど人間の身体は軽くない。

 ならばどうやって飛ぶのか。それはやはり、魔力を使ってということだろう。



「翼に魔力、を――――ッ!?」



 ――込めた瞬間、僕の体は勢い良く上へと飛び上がり、一瞬の内に天井に到達してしたたかに頭をぶつけていた。

 ずがん、と凄まじい音が鳴り、天井が僅かに陥没した感覚を伝えてくる。

 それをなした僕の頭も、鈍く重い痛みを伝えてきていた。



「うああああああ……痛い、地味に痛い」

「……むしろ、あの勢いでその程度のダメージなのがびっくりなのです。流石と言うべきでしょうか……方法は間違っていないのですけど、魔力の込め過ぎです。《天翼セラフ》は元から魔力を蓄えているのですから、加速しようとしないなら意志を伝える程度でも動けますよ」

「そ、それを早く言って欲しかった……」



 まだ音が響いているようにも感じる頭を振って、今度はアイの助言通りに飛行してみる。

 すると、今度はゆっくりながらも、勢いに乗りすぎることなく飛行することが出来た。

 まだぎこちないけど、慣れれば上手く飛べるようになるだろう。

 今の所、飛ぶというよりも浮遊しているというような状態かもしれない。



「さて、慣れてきた所で」

「え、いやまだ始めたばっかり――」

「慣れてきた所で!」



 どうやら先に進めたいらしい。

 何となく、彼女がやりたいことが伝わってきてしまうのは何故だろうか。



「お次は、戦闘モードに移行してみましょう。さっきの要領でどうぞ!」

「ああうん、まあ試すつもりだったけどさ……」



 僅かに嘆息して、意識を集中させる。

 イメージするのは、あの資料の中にあった僕の姿だ。

 背中に三対の翼を、頭上に光輪を、そして右手に白き槍を。

 僕の兵器としての全てを、解放する――


【――《天翼セラフ:戦闘起動》――《光輪ハイロゥ》――《神槍ヴォータン》――】


 ――そしてその瞬間、僕の身体は、白い輝きに包まれていた。

 それは、僕の体から溢れ出した大量の魔力。

 《光輪ハイロゥ》が収集し、《天翼セラフ》が集束し、《神槍ヴォータン》が制御する。

 純白の輝きに包まれた、戦闘天使。



「これが……」

「そう、イリスさんの戦闘形態なのです! 槍は一番上の翼に収納可能ですよ!」

「つまり、槍無しでも展開可能と。その辺は慣れかな」



 呟きつつ、僕は軽く槍を振るう。その瞬間――槍から迸った白い光が、このスペースの地面に突き刺さって爆裂していた。

 強固極まりない地面をあっさりと打ち砕いた白い光は、爆風を発しながらぽっかりと深い穴を形成する。

 風圧を頬と翼で受け止めながら――僕は、槍を振るった体勢のまま硬直していた。



「……アイ、これは?」

「……イ、イリスさん! 《神槍ヴォータン》に意識を集中! 機能を掌握して下さい!」

「りょ、了解!」



 思わず引き攣った声を上げ、僕は白の槍に意識を集中させる。

 そしてそれと同時――先ほどの現象がどうして起こったのか、理解することとなった。



「ア、アイ! 《天翼セラフ》が魔力を溜め込みすぎてる! 《神槍ヴォータン》の制御ギリギリだ!」

「あああああ! イリスさんがねぼすけだからですよ! 自動収集で溜め込みすぎましたね!?」

「僕に言われても!? と、とりあえず――」



 ともあれ、槍の機能は理解できた。

 問題は、あまりにも多くの魔力を取り込みすぎていることなのだ。

 ならば、それを減らしてやればいい。



「《神槍ヴォータン》!」


【――《魔力充填》――《神槍ヴォータン:天槍撃》――】



 一時的に魔力を込めるだけであれば、この槍にもまだ余裕はある。

 ならば、限界ギリギリまで槍に魔力を充填し、一撃で消費し尽くしてやればいい。

 僕は《神槍ヴォータン》に極限まで魔力を込め、機能の一つを起動させる。

 この槍は、投げ放ったあとに自動で翼の中に戻ってくるのだ。

 だから、適当に投げてしまっても問題はない。



「――貫けッ」



 叫び、槍を全力で投げ放つ。

 唸りを上げた《神槍ヴォータン》は、僕の手を離れた瞬間凄まじい勢いで加速し、やや上方を狙った僕の狙い通りに飛翔して、部屋の壁に突き刺さっていた。

 拮抗は一瞬。ほんの僅かだけ槍を受け止めていた壁は、瞬く間に貫かれて大穴を明けていた。

 しかし、壁一枚貫いた程度で《神槍ヴォータン》が止まるはずもない。

 この瞬間にも加速を続ける槍は次々に施設の壁を貫き、やがては外壁すらも貫いて、人が通れるぐらいの大穴を明けて外へと飛び出していった。



「あ……やっば!」

「あ、ちょっとイリスさん!?」



 まさか外壁まで余裕で貫くとは思っていなかった。

 貫いた先に何があるかとか、その辺を全く考えずに投げてしまったことに今更気付き、思わず背筋が冷えるような感覚を覚える。

 民家とかがあったらどうしよう、そんなことを考えつつ、僕は自分で空けた穴の中へと飛び込んでいた。

 薄暗い施設の中から、眩い光溢れる外へ――出ようとしたその時、僕は穴の周囲にある違和感に気付いていた。



「ん、土? って言うか、洞窟……?」



 外壁から外に出た瞬間、周りには土の壁が出現していたのだ。

 そしてその土壁が何メートルか続いた後、その先から日の光が差し込んでいる。

 眩しくて若干見づらいが、向こう側に見えているのは緑色の何かだ。



「……まさか」



 勢いに気をつけながらも翼を操り、槍が翼の中に戻ってきた感覚を確かめながら、僕は穴の外へと抜け出す。

 そこに広がっていたのは――一面のジャングルだった。

 くるりと背後を見返せば、そこにはぽっかりと穴の開いた崖が。

 僕たちのいた施設は、その崖の中で完全に埋没していたのだ。



「いや、廃棄されたとは言っていたけどさ……どれだけ時間が経ったらこんなことになるの?」



 余裕で何層もの地層が見える崖の中、完全に形を保ったままこの建物は埋もれていたのだ。

 少なくとも、数十年やそこらで出来るようなものではないだろう。

 一体僕は、どれほど昔から眠り続けていたと言うのだろうか。


 うん、まあ……思いがけず外の様子は見れたけどさ……これ、どうしようか。

 いきなり極限状態にも程があるんだけど。


 まあとりあえず、この建物を拠点とするのは却下だ。

 こうして動き回れるようになった以上、人のいないところで生活するのはつまらない。

 となれば、人里を探してここを発たないといけないんだけども。



「一応、まだ昼になる前ぐらいの時間か……」



 一応、出発するにはそれなりにいい時間だろう。多少準備しても、それなりに余裕はあるはずだ。

 それじゃあ――



1.簡単に準備して出発しようか。

2.まだ何かあるかもしれない。

3.役に立つアイテムを失敬していく

>4.一マスでも埋まってないマップはマップじゃない、落書きだ。この周囲を踏破する。そしていろいろ回収する。



 建物の中の探索は十分とは言えない。

 それに、ここに戻ってくる機会があるかどうかはともかくとして、他の人造天使エンジェドールたちの痕跡が探せるかもしれない。

 探索はしておくべきだろう。



「まあ、流石に森の中を当ても無く彷徨うつもりは無いけどさ」



 折角飛べるのだから、この辺りは飛んで探そう。

 その前に、まずは建物の中を調べておこうか。

 とりあえず元来た穴を通って建物の中に戻り――そういえば、アイがついてきていなかったことに気がついた。

 割と僕に懐いてくれているイメージだから、一緒に出てくるかと思ってたんだけど。



「アイ、アイー? どこにいるの?」

「ここです、ここなのです! ちょっと手伝って下さい!」

「アイ!? どうかした!?」



 どこか苦しそうなアイの声に、僕は驚いて穴の中へと駆け戻る。

 聞こえてきた彼女の声は、どうやら僕がぶち抜いた部屋の内の一つから聞こえてきているようだった。

 何やら様々なものが散乱しているそこは、どうも倉庫のような場所だったらしい。

 僕の引き起こした破壊の跡は、そこにおいてあった品物をかなり粉砕してしまっていたようだ。

 そんな中、一抱えもあるような瓦礫を動かそうと必死になっていたアイが、僕を見つけて晴れやかな笑みを浮かべた。



「あ! イリスさん、こっちなのです!」

「……何やってるの、アイ?」

「それはどっちかというとこっちの台詞なのです。折角貴重な品が詰め込まれていた倉庫がパーなのですよ」



 そういわれると、流石に僕も返す言葉がない。

 まあ、不可抗力といえば不可抗力なんだけど、頭上に向けて放てばよかった訳だし。

 それはともかくとして――



「で、アイ? その瓦礫どかしたいの?」

「はいです。この下にいいものがあるのですよ!」

「成程。それじゃあちゃっちゃと退かしちゃおうか」



 頷き、僕はアイが退かそうとしていた瓦礫に手をかける。

 一抱えほどもある石の塊だから、持ち上げるにも力がいるかと思ったけど、僕の腕は思った以上の容易さでそれを持ち上げてしまっていた。

 人造天使エンジェドールとしては当然のパワーなのかもしれないけど、これは色々と気をつけないと大変そうだ。

 反射的に全力で殴ったりすることがあれば、人をミンチに変えてしまいかねない。



「さてと……それでアイ、これは?」

「『戦天使の鎧』なのです! 人造天使エンジェドールの標準戦闘装備です。ちゃんと女性用なのですよ」

「鎧? うんまあ、鎧だけど……これって」



 倒れたハンガーにかけられていたその鎧とやらば、何とも言いがたいデザインをしていた。

 上半身――って言うか胸と肩の部分は、金属の装甲を持っている。俗に言うビキニアーマーだろうか。

 そして腰から下は、スカートのようなデザインになっていた。

 けど、両足に沿うようにして深いスリットが入っているから、動くのにはそこまで邪魔にはならないだろう。

 スカートには装甲もついているけど、驚くほどというより異常なほど軽い。

 そのくせ、非常に頑丈なようだ。こちらの防御は期待できるだろう。が――



「……上半身、これ何とかならないの?」

「だってイリスさん、背中丸出しにしないと翼を展開したとき破れるのですよ?」

「ああうん、まあそうなんだけど……」



 特に僕の翼は三対も存在している。

 かなり広い範囲、何もつけずにいなければならないのだ。

 この格好でいても全く寒さを感じない辺り、気温変化には強いのだろうけど……冬場は異常にも程があるだろうなぁ。



「それに、この鎧は被服部分以外にも防御効果があるのです。非常に良い装備なのですよ」

「……まぁ、どっちにしろブラ一枚か裸エプロンみたいな状態でいなきゃいけないぐらいなら、こっちの方がいくらかマシか」



 現状、胸を交差する布で覆っている程度の状態なのだ。この格好で人前に出るよりはこの鎧の方がまだマシだろう。

 背中丸出しスタイルは変わらないけど、少なくとも前から見たときはいくらかまともに見えるはずだ。



「さて、とりあえず目的の鎧も回収できたことですし、どうしますかイリスさん!」

「それじゃあ、ここで使えそうなものを集めちゃおうか。持ち運べるものはそんなに多くないと思うけど」

「空間拡張の鞄は吹っ飛んじゃったみたいですからねぇ。装備出来たり持てそうなものだけ集めましょうか」



 ああ、僕は何だかすごく便利そうなものを消し飛ばしてしまったようだ。

 何となく意気消沈しつつも、僕たちははそこから使えるアイテムを集めていったのだった。




 ――その後、僕たちは一日かけて、建物の中を探索した。

 多くの資料は持ち去られた後のようだったけど、奥の重要区画にはそれなりに物が残されている様子だった。

 特に、兄弟達の情報をいくつか得られたのは大きいだろう。

 十六人いる兄弟……その内、機能停止が確認されているのは二人だけ。それ以外は、この建物が廃棄されるまで生存していたようだ。

 それなら、まだ生きている可能性だってある。

 まだ見ぬ世界と、どこにいるかも分からない兄弟達。


 ――様々な期待を胸に、次の日の早朝、僕とアイはこの施設から旅立っていた。










 【Act01:天使の目覚め――End】











NAME:イリス

種族:人造天使(古代兵器)

クラス:「遺物使いレリックユーザー

属性:天


STR:8(固定)

CON:8(固定)

AGI:6(固定)

INT:7(固定)

LUK:4(固定)


装備

天翼セラフ

 背中に展開される三対の翼。上から順に攻撃、防御、移動を司る。

 普段は三対目の翼のみを展開するが、戦闘時には全ての翼を解放する。


光輪ハイロゥ

 頭部に展開される光のラインで形作られた輪。

 周囲の魔力素を収集し、翼に溜め込む性質を有している。


神槍ヴォータン

 普段は翼に収納されている槍。溜め込んだ魔力を解放し、操るための制御棒。

 投げ放つと、直進した後に翼の中に転送される。



特徴

人造天使エンジェドール

 古の時代に兵器として作られた人造天使の体を有している。

 【遺物兵装に干渉、制御することが可能。】


《異界転生者》

 異なる世界にて命を落とし、生まれ変わった存在。

 【兵器としての思想に囚われない。】



使用可能スキル

《槍術》Lv.1/10

 槍を扱える。とりあえず基本的な動作は習得している。


《魔法:天》Lv.1/10

 天属性の魔法を扱える。とりあえず基本的な魔法を使用可能。


《飛行》

 三枚目の翼の力によって飛行することが可能。

 時間制限などは特にない。


《魔力充填》

 物体に魔力を込める。魔導器なら動作させることが可能。

 魔力を込めると言う動作を習熟しており、特に意識せずに使用することが可能。


《共鳴》

 契約しているサポートフェアリー『アイ』と、一部の意識を共有することが可能。

 互いがどこにいるのかを把握でき、ある程度の魔力を共有する。



称号

なし


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ