生グレープフルーツサワー
目を凝らすとその女の子の右肩には数十回分の自傷行為の痕がうっすらと見てとれた。痕はずいぶん目立たなくなっていたし、僕はそれについては触れないことにした。
「あなたとだったら寝てもいいわよ」
女の子はそう言うと、人目もはばからずにキスを求めてきた。薄暗い地下の飲み屋街の中で、女の子の唇は一際温かく感じられた。
様々な年代、様々な国籍、実に多種多様な客で賑わう店に入った。ちょうど四人組のスラブ系が席をたつところだった。僕らは彼らの右隣の席を確保した。
席につくなり女の子は手洗いに行くと席を離れた。
その間にまわってきた男性店員に、
「優しい材質のゴムをもらえるかな?最大9回までいけるから、9つ頂戴」
と言った。
店員は「待っていて下さい。ご用意します」と言った。
女の子はお酒は飲むが、フードには手をつけなかった。ゆっくりと柑橘系のサワーを飲み続けていた。僕は彼女のために熱いグラタンをオーダーし、
「食べなきゃダメだ。食べたくなくても食事というのは1日に3回は採らなければダメだ。食欲がわかなくても、無理矢理にでも胃のなかに食べ物を入れるんだ。じゃなきゃキミとは寝ないよ」
と言った。
僕はもう一度彼女の右肩に残る傷痕を見た。