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第一話「二年生になった」

平凡な高校生活おくる女子高生たちのお話です。

 二年生になった。


 だからといって、何かが劇的に変わるわけではない。

 教室が変わってクラス担任が杉田先生に変わって、クラスメイトが何人か入れ替わった。それだけだ。僕にとっては、まあ、そんなところだった。

 あ、僕は内田って言います。普通な高校の普通な男子生徒。

 勉強も運動もまぁ普通。楽器が弾けたり、ものまねが得意とかもない。

 ほんとにふつーという自覚だけはある高校二年生。


 さて、今日は二年生の初日。登校したら昇降口のクラス分けを見て、そのまま新しいクラスに行って、黒板に貼られた座席表を眺める。窓際の前から三番目。これも普通だな。

 後ろのほうが授業中に寝やすいのだが、今年はどうやら真面目に勉強しろということらしい。

 そんなことが頭に浮かんでいると、教室の後ろのほうから女子達の笑い声が聞こえてきた。


 見なくても誰だか分かる。

 東田奈央。種村敦美。早田沙織。悠木やよい。

 一年生のときに同じクラスだった仲のいい四人組だ。大した話をしたわけではないけど

 いわゆる陽キャJK四人組はいやでも目立ったから憶えていた。


 四人ともタイプが全然違うのに、なぜかいつも一緒にいる。

 早田は背が高くて細身でスタイルがよくて黒髪ロング。雰囲気も胸元も清楚系……いや、失言です。しかも成績優秀で男子からの人気も高いけど、本人はそのことを特に気にしていないらしい。

 東田は明るい。誰とでもすぐに話せる。ただ、恋愛の話になると妙に不器用らしい。去年、彼女達がそんな話をしているのを聞いたことがある。でも、とても破壊力のある胸……いや、やめよう。

 悠木は頭がいい。たぶんこのクラスで一番だ。眼鏡をかけていて銀色の長い髪でクールな感じ。見た目はかなり目立つけど、ちょっと怖いかも。国語が好きらしく、去年もよく子安先生に質問していた。

 種村は小柄で、髪は茶髪でショートカット。卓球部に入っている。人のことをよく見ているようで、たまに僕に絡んできて「内田っちは今日眠そうだね」とか言ってくる。話すときの距離が近くてちょっと怖い……いや別に怖くはない。ただ、人の事をよく見ているなと思うだけだ。


  挿絵(By みてみん)


「内田、おっす」石田が後ろから声をかけてきた。

「おはよ」

 こいつは石田界人。去年からの友達で、バスケ部で背が僕より十センチ以上高い。

 こいつは女子からもそれなりに人気があるいわゆる陽キャのイケメン。


「今年も同じクラスか」

「そうだな」

「よかったわ」

「何が?」

「一人になるところだった」

「去年も一人じゃなかっただろ、部活仲間もいるし」

「それは別口。それにお前がいたからな」

「僕ってそんなに重要?」

「知らん」そう言って石田は笑った。

 まぁ、こいつとは今年もそれなりにやっていけそうだった。


 教室の後ろでは、相変わらず四人が話しているのだが、

 気が付くと、そこに一人の女子が恐る恐るといった感じで一歩ずつ距離を縮めている。

 たしか小森こころ。去年も同じクラスにいたはずの女子だ。

 黒髪のおかっぱで、小柄。あまり目立つタイプではない。というか地味目。休み時間も一人で本を読んでいることが多かった。僕も、去年一年間で言葉を交わしたのは数回あったかどうかだったと思う。その小森が、四人のところに近づいている。


「やっほ!小森さん、今年も同じクラスだね」東田が笑いかける。

「うん」

「よかった。知ってる人がいると安心するよね」

「……そうだね」小森は少しだけ笑った。


 それから五人で何か話している。去年なら、たぶんあの輪の中に小森はいなかった。でも、いつの間にかいる。たぶん、そういうものなんだろう。


 友達って、ある日突然「今日から友達です」と決まるものでもない。何度か話す機会があって、何度か一緒にいて、そのうち一緒にいるのが普通になる。僕にはよく分からないけど、たぶんそういうものなんだろうな。


 その日の昼休み。僕は購買に足早に向かう。昼休みの購買は戦場だ。特に人気のパンは売れるのが早い。僕が目をつけていたコロッケパンも残り一個だった。

 ラッキー。そう思って手を伸ばしたと同時に、横から別の手が伸びてきて指先が触れた。


「あ」

「あ」

 二人とも手を引っ込めた。見ると、知らない女子だった。

 赤い髪をポニーテールでまとめている。目がクリクリしていてかわいい。

「ご、ごめん」

「いえ、こっちこそ」

 女子はコロッケパンを見て、それから僕を見た。

「コロッケパン……」

「欲しかった?」

「……うん」

「じゃあ、どうぞ」

「え?」

「僕、別のにするから」

「でも……」

「いいよ」


 僕は手を引いた。女子は少し迷ってから、コロッケパンを取った。

「ありがとう」

「うん」

 ただ、それだけの会話だった。


 その女子は隣のクラスで「はせべいくみ」というらしい。

 一緒に来ていた女子が、はせべちゃんとかいくみちゃんとか言っていたから、ちょっと気になって食べ終わってから学校の情報サイトで確認した。

 ふむ、長谷部育美ね。

 結局、二年生になった初日の昼休み、僕はコロッケパンを一個食べ損ねた。


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