食料
「あっ、私、部室のロッカーにお菓子置いてある。ファミリーパックの大きいやつ、二袋あるよ。取ってくるね」
星来が言った。
「理緒、一緒に行こ」
「うん、私もちょっと当てがある」
副担任の美術教師が、美術準備室を私物化していて、そこに残業時用のカップラーメンをたくさん備えてあるのを知っている。準備室の棚を漁ったことのある者しか知らないはずだ。
先生のものを盗むって犯罪かな。犯罪だな。でも今は緊急事態だから、細かいことは許されるはず。元の世界に戻れたら、いくらでも弁償する。
今はとにかく、手ぶらであそこに戻るのはきつい。少しは役に立つところを見せて、橋本たちに認められなくては。
テニス部女子のロッカーからお菓子の大袋を、美術準備室から副担秘蔵のカップラーメンを四個、図書室に持ち帰った。
他の二年生は生徒会長の指示通り教室に集まっているらしく、廊下でばったり会うこともなかった。
図書室に戻り、手に入れた食料を披露すると、みんなの見る目が変わった。
「おお〜! カップラーメンすごいじゃん」
「あ、でもお湯」
「湯沸かしポットは職員室から取ってきたのがあるよ。割り箸とかスプーンとか、先生たちのだろうけど使えそうなんは持ってきた」
私と星来と結麻と、結麻の彼氏と、橋本と野崎と西川。七人だ。一週間をこの七人で、この食料で乗り切れるだろうか。
「今日はとりあえずこのカップラーメンを分けよう。翔真と彼女で一個、彼女のお友達二人で一個、俺ら三人で残り二個を分ける。どう? 明日からはパン食べよーぜ」
西川が提案する。
「いいんじゃね」
「パンは何個あるんだっけ?」
「三十二個」
「7人で一週間、足りなくね?」
「途中で人数減るんじゃね?」
「シャレになんねーこと言うなよ」
「その可能性はあるだろ」
空気がぴりつく。毎日五人ずつ、一週間で三十五人殺すと化け物は宣言した。美しい者から順番に。
「百三十五人中、三十五人……。約四人に一人だよな」
野崎が自分に言い聞かせるように言った。
「四人に一人って結構多くない!? 三十五人って、一クラス分だし。一クラス消えるってことだよね。超やばいじゃん」
結麻が焦った声を出した。
「お前ら、本気であの化けもんの言うままに、AIに決められて、生きるか死ぬかの判定を受ける気か?」
橋本が挑発的に言った。
「いくら化けもんでも一匹だぞ。作戦を立てれば、人数でどうにか殺れるんじゃねーの」
「え、だってあんなん、何人がかりで戦っても勝てなくない?」
西川がへらりと笑う。
「レスリング部の惨状見たよな。あれ、リアル寄生獣じゃん。手がびゃーってなって、あっという間に人体切り刻んじゃうんだぜ。顔や体型を自在に変化させられるってことは、どこ狙ってもああなるって」
寄生獣は有名な漫画だが、私は読んだことがないので雰囲気しか知らない。
「寄生獣と一緒なら、あれも心臓が弱点だろう。心臓にトドメを刺せば、たぶん殺れるよ」
「いやいや、寄生獣は首から下は普通に人間だから。あれは全身人間じゃなくね? 体型変わってたし」
「てかさあ、俺が余計なこと言ったから、美人からオバハンになっちまったけど、どうせなら美人の姿のままが良かったよな。おんなじ化けもんなら、せめて見た目」
「てかさあ」
と結麻の彼氏が言った。
「俺は選ばれねえ自信あるから、あんま危機感ないわ。悪いけど、お前らとは違って。お前らは選ばれる四分の一に入りそうだから、死活問題だろうけど」
「あ?」
橋本が刺すように高崎を睨んだ。
「ほら、蓮かっこいいじゃん。かっこいいよなって褒めてんだよ。俺は不細工だから大丈夫そうって話。客観的事実だろ、怒んなよ。俺はわざわざ危険を冒して、あの化け物を殺る気にはなんねーよ」




