初動
ピンポンパンポン、というチャイムが鳴った。
「えー、二年生の皆さんにお願いです。あ、私は生徒会長の根津です」
突然、校内放送が流れた。
「二年生の皆さん、とりあえずそれぞれの教室に戻りましょう。戻って、クラスで話し合って、協力してください。教室の鍵は開けておきました。繰り返します、二年生の皆さん――」
「あ、生徒会長だぁ」と星来が明るさを取り戻した。
三年生から生徒会長を引き継いだばかりだが、学年一成績が良くて人望もある、根津智人は星来の想い人だ。こんなときにも生徒会長らしくリーダーシップを発揮するなんて、確かにかっこいい。
校内放送を聞いて、みんな教室へ移動し始めた。確かに小単位でバラバラに動き回るより、一致団結したほうが良いだろう。みんな不安なのだ。
ぞろぞろと廊下を歩いて教室へ向かう途中、T字路になっているところで
「星来、理緒。こっちこっち」
と手招きする結麻がいた。みんなの歩く流れから外れて、結麻のもとに行った。
「結麻、いないから心配したよ。翔真くんと一緒じゃないの?」
星来が言った。
「一緒。うちら図書室にいるんだ。星来と理緒もおいでよ。教室行くより絶対いいよ。ソファーあるし、食べ物あるから。他の人ら来る前に取っとかなきゃ。早いもん勝ちだよ」
結麻の彼氏はちょっと苦手だが、ソファーと食べ物と聞いてハッとした。高校外に出られないと分かったいま、寝る場所と食料の確保は必須だ。
大勢で教室に集まるよりも、結麻たちと少人数でいたほうが良いかもしれない。
「え〜、どうする? 放送では、みんな教室に集まるみたいだけど……」
星来が悩ましげに私を見た。生徒会長の指示に背くことが不安なのだろう。
「あれって生徒会長が勝手に言ってるんでしょ。無視していいって」
結麻の押しは強い。
「行ってみようか、図書室。お邪魔そうなら帰ろう」
星来と連れ立って図書室へ向かった。
閉められたドアのガラス窓を結麻が覗き込みながら、トントンと叩いた。
中から鍵が掛けられているようだ。現れた結麻の彼氏――高崎翔真が施錠を解き、ドアを開けた。
「星来と理緒、連れて来たよ。一緒にいていいよね?」
「ああ、とりあえず入って」
あまり歓迎されていないようだ。お邪魔しますと口々に呟いて、とりあえず中に入った。
図書室カウンター前を通り、新刊コーナーを抜けて、奥の『くつろぎ読書コーナー』にソファー席がある。
そこに固まって座っているメンバーを見て、やっぱりと思った。理緒の彼氏が属しているグループだ。橋本蓮、野崎一歩、西川奏。学年でも目立つ系の、少し素行の悪い人たちだ。
彼氏の友達といえど、女子一人でこの面子の中にいるのが肩身が狭くて、結麻は私たちを引き入れたのだろう。
「結麻の友達。この二人も、ここにいていいよな?」
彼女が連れてきた手前、高崎翔真が仲間に許可を求めた。
「おー、女子歓迎〜」とお調子者キャラの西川奏は答えたが、野崎一歩はちらっと私たちを見て、橋本蓮を見た。このグループのリーダー格は橋本だ。
「いーけど、食べるもん持ってんの?」
ソファーに深く体を預けている橋本はジロッと私たちを見上げて、無愛想に言った。
結麻情報によると、橋本の身長は百八十二センチだ。長身で切れ長の目が鋭くて、かっこいいといえばかっこいいが、私としては怖さのほうが勝る。
「あ、持ってないので帰ります。結麻、私たちやっぱり教室に――」
「いや待て、ビビリすぎだろ」
橋本が声を被せてきた。
「持ってんの?って聞いただけで、持ってないなら出てけとは言ってないよ。パンの一個や二個くらい分けてやるけど、もっと確保できるならそのほうがいいから」
パンと聞いて、ハッと思い当たった。
「あっ、購買前のパンの自販機。あそこで買えるんじゃ」
「もう俺らが全部買い占めてきたから。いま言ってるパンがそれな」
意味を理解した。つまり橋本たちはパンの自販機でパンを買い占めてから、この図書室に来たということか。
「初動が大事だって言うからな。他のやつらが一斉に食料の確保に動き出してからじゃ、遅いだろ」
「全員に行き渡る量はないだろうしな」
と野崎も言った。
「え〜、すごぉ〜い。先を見越して行動ってやつだね」
星来が感嘆の声を上げて、キラキラした目で橋本を見た。
そうだった、この子は生徒会長のことが好きだが、橋本のことも好きなんだった。全然違うタイプだが、それぞれにない良さがあるらしい。
先を見越して行動と言えば聞こえはいいが、要はみんなの分も買い占めて、仲間内だけで分けるってことだ。自分たちだけ良ければいい、という典型のような気がしないでもない。




