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AIくん

 化け物講師は壇上を振り返り、そこに置かれている生首二体を、手で指した。手つきだけは優雅だ。


「まず手始めに、昨年度のミス高校、ミスター高校を殺害しました。皆さんへの見せしめです」


 我が校では毎年文化祭でミスコンテストを行うことが恒例だったが、数年前に「女子だけでなく男子も」とミスターコンテストも開かれるようになった。今年度はさらに進化して、「そもそも美を競うコンテストは時代にそぐわないのでは」と議論になっていた。

 その矢先に、この「ルッキズムをぶっ潰す!」の化け物が乗り込んできたのだ。偶然だろうか? もしかして、そのルッキズム議論がこの化け物を呼び寄せたのだろうか。


 すすり泣くような、声を押し殺した嗚咽が聞こえてくる。私は接点がなかったが、殺されたミス・ミスターを慕っていた人も多くいるだろう。ついさっき殺されたレスリング部員と仲が良かった人も。


「そして今後は、皆さんの中から美しさに秀でた者を選んで、殺害していくことを予告します。審判者を紹介しましょう」


 化け物講師がそう言うと、壇上のステージ脇から一人の男性が出てきて、生首が並んでいる講演台の前に立った。

 ダークグレーのスーツをビシッと着こなし、少し長めの茶髪はふわりとエアリーにセットされている。手足が長く端正な顔立ちで、まるで映画俳優のようだ。

 しかし麗しい容姿に心ときめくどころか、嫌悪感と恐怖で身がすくんだ。


「AIくんです。その名の通り、人工知能のAIです。コンピューターネットワークを通じ、世界中の知識と情報を網羅している彼に、美醜の判定をしてもらいます。日本人の感性に沿い、日本社会を基準とするよう、指示します。AIくんの判定は全日本人の総意である、多数決であると申し上げておきましょう。いち個人の好みではありませんので、とても公平ですね」


 化け物講師はそう言ってにっこり笑うと、壇上のAIくんに話しかけた。


「AIくん、今ここにいる生徒の人数は?」


 AIくんは無表情で体育館全体を見渡して、


「死体を含めなければ、百三十五人です」


 と答えた。


「百三十五人。では切りよく、三十五人を殺しましょう。一日五人として、ちょうど一週間ですね。美しい者順に、毎日五人ずつ殺していきます。なにか質問がある人は、挙手して発言してください」


 ふるふると震えながら、細い手が挙がった。

 腰まである黒髪ストーレート、リスっぽいくりっとした目が印象的な小柄な女子だ。


「あっあの、これは歯向かうんじゃなくて、いち意見です。ここじゃなくて、もっと見た目のいい、綺麗な人が沢山いる、芸能界とか、インフルエンサーとかいる、そういうところがいいんじゃないかって、思います。うちの高校でこんなことしても、社会に影響力ないっていうか。ルッキズムをぶっ潰すのに、もっとふさわしい舞台があると思うんです」


 もっともな意見だ、よく言ってくれた。今からでも化け物が思い直してくれることを祈った。


「いいえ、違います」


 化け物はキッパリと彼女の意見を否定した。


「特別な場所での出来事は、雲の上で起きているように思えて、我が身に置き換えられません。ありふれた、平凡で、無名な、特別ではない場所で起きることだからこそ、自分の身にも起こり得るかもしれないと、危機感を抱けるのです。明日は我が身かもしれないと、リアリティのある恐怖を植え付けることで、この社会に根付いているルッキズムをぶっ潰すのです!」


 余計に闘志が燃えたらしく、化け物が熱い口調で語る。淡い期待が絶望感で真っ黒に塗り潰されていく。

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