ブスだと言って
体育館での審査が終わり、和室へ確認しに行った柔道部員が深谷が死んでいるのを見つけた、という話が耳に入った。
「でも、あんだけボコられて縛られて放置されてたら、化け物が殺らなくても死んでるだろ。化け物の仕業かどうか、分からんくね?」
ボサボサ頭の西川が言った。
「いや、聞いた奴によると、首が切断面されて畳に転がってたらしい。化け物の仕業だろ」
目の下にくまがある蓮が言った。
「てことは、そこに行かなくても、離れた場所にいる人間も始末できるってこと? 最悪じゃん」
カサカサの唇を噛んで星来が言った。
アイプチで二重の癖がついてしまった私は、なんとか目を腫らそうとめいいっぱい泣いた。
泣けるだけ泣いて、目を腫らしてむくんだ顔で臨んだ翌日の審査にも、私は通らなかった。
同じように泣き腫らしてむくんだ顔の人や、一睡もせずに目の下に濃いくまを作った人や、食べるものがなく急にゲッソリとした人が多かったのだ。
その中でも選ばれて解放される二十人を目の当たりにして、絶望感と焦燥感が押し寄せる。
その翌日の審査にも私は通らなかった。結麻の彼氏、高崎翔真は選ばれて解放された。
どうして私は選ばれないのか。美人でもないのに、解放されるほどブスでもないなんて中途半端だ。一番損をしている。ルッキズム社会の恩恵なんて受けてこなかったのに。むしろ苦しめられてきたのに!
「どうして……私、ブスだよねえ? 目は細いし、離れてるし、垂れてるし。黒目小さいし、眉毛ないし。髪はペタンコだし、おでこは広いし。ブスでしょ? ブスだよね?」
隣で同じように絶望している星来が、憔悴しきった顔で私を見た。
素っぴんでも私や結麻より美人だと思っていた星来が、ゾッとするほど地味に見えた。
「……理緒は可愛いって。目がパッチリしてなくても、可愛いよ。離れてるとか垂れてるとか、全然気にならないし、むしろ愛嬌あって、それが可愛いんじゃん」
「うそ……助かりたいから、ウソ言ってるんだよね。私より、星来のほうが美人だから」
まともにスキンケアできないせいで、カサカサの赤い湿疹が頬にできた星来が、薄く笑った。
「前から思ってたけど、理緒、自己評価低すぎ。理緒がウィークポイントだって思ってるの、目元だけでしょ。鼻は高くて細くて綺麗だし、歯並びもいいし、髪だって毛量多すぎて爆発してる奴よりいいじゃん。スタイルもいいし。ちゃんと胸あるし羨ましいよ。私なんか、パッド抜いたらぺったんこだよ」
ほっそりとした手を胸に当てて、星来が言った。前までそこにあった膨らみがなくなり、体操服越しにも平坦であることが見てとれた。
羨ましいと言われるほど巨乳じゃない。平凡なスタイルだと自分では思っていた。Fカップの友達もゴロゴロいるのだから、Dカップくらい普通だろうと。でも星来からすれば羨む対象なのだ。
……自己評価が低い? まさか、そんなわけはない。実際、ブスだと小中学時代には男子に罵られ、冷たい態度を取られてきたのだ。それで男子が苦手になったし、少しでもマシになりたくて、メイクを頑張るようになったのだから。
そのメイクを落とした素顔が、可愛いわけがない。私が可愛いなんて大嘘だ。自分よりブスがいないと助からない状況だから、死んでほしい人間を可愛いと持ち上げているだけだ。分かってる。みんな自分が先に助かりたいから。
誰がなんと言おうと私はブスで、明日には必ず助かる。ねえ、そうでしょう? 誰かそうだと言って。




