母数
いや待てよ、母数は百二十二人じゃない。深谷が排除された。
ボコられて縛り上げられて、虫の息でまだ死んではいないようだったが、今日の審査に出られないなら結局殺される。
深谷が容姿の劣っている者を八人も減らしてくれたのは良かったが、深谷が減るのは痛手だ。私より綺麗だったのに勿体ない。
柔道部男子の目を盗んで、和室から逃したとしても、あのボコボコに腫れ上がって皮膚が切れて、鼻が折れ曲がっている顔では、AIくんの審査を通れない。力技で顔の造形を変えるのは反則だと言われているから。
審査に行っても行かなくても、深谷が殺されることはもう決まっている。殺害しようとした相手に返り討ちにあった時点で、終了だ。
「……自業自得」
野次馬の誰かが言っていた言葉を思い出した。
午後には体育館へ集合した。
一人一人数えるにはまだ人数が多く、正しく百二十一人いるのかは分からないが、百人以上いるのは確かだ。
「みなさん、こんにちは。では早速審査を始めますね〜」
五限目開始のチャイムと共に、AIくんを連れた化け物講師がやって来た。今日も美しく、溌溂としている。絶望しか感じさせない。
「さあ早く、AIくんの前に列を作って並んでくださいよ。モタモタしてると殺しますよ〜。一組の出席番号一番から、並んで〜」
一組の一番からと指定されて、ようやくみんな並び始めた。この化け物に逆らったら殺されるだけだと、みんな学んでいる。
順番にAIくんの前に立ち、くるりと回って見せて、横にはけた。
映画俳優のように端正な顔をしたAIくんは無表情な冷静な眼差しで、まばたきもせずに百人を越える人数を審査した。
そして選ばれた二十人……の中に、私は入らなかった。蓮も、星来も、結麻と彼氏の高崎も、西川と野崎もだ。
選ばれた二十人は、相撲取り並みのデブだったり、出っ歯の河童みたいだったり、ヒョロヒョロすぎる上に顔も気持ち悪かったりと、まるきり敵わないと思える面子だった。
ああはなりたくないと、皆が思うような。
「や、やったあぁ。よ、良かった、醜くて良かった、生きてて良かった……」
気持ち悪い顔をしたヒョロガリが、ヒョロヒョロの手足を震わせて喜んだ。
「ほ、ほんとに……ブスで良かったって、生まれて初めて思った」
パンパンの肉団子みたいな女が潰れた細目から涙を流した。
「おめでとう、選ばれた二十名の皆さん! これまでこのクソみたいなルッキズム社会をよく生き抜いてきましたね。あなたたちを馬鹿にしてきた美しい者たちを置いて、お家に帰りましょうね。では、美しい皆さんはまた明日、お会いしましょう」
二十名を連れて、化け物講師が体育館を出て行った。
慌ててその後を追う者がいたので、私も後を追った。化け物講師が出入りしてすぐは入り口の扉が固く閉ざされてびくともしないが、少し時間が経つと開いた。
体育館を出て、正門へ向かった。開いた正門から、化け物講師とAIくんに手を振られながら外へ出て行く二十名の姿が見えた。
本当に外へ出られるんだ、解放してもらえるんだと、この目で確かめることができた。
二十名を外へ出したあと、化け物講師とAIくんも校門の外へ出て、ガッチャンと門を閉じた。あの化け物たちも、毎日外から来ているのだと知った。
正門へ着いて、外へ出られるほころびがないか大勢で確認したが、やはり見えない壁で覆われていた。




