審査二日目
もう嫌だ。早く家へ、元の世界に帰りたい。ルッキズムがどうこうなんて、どうでもいい。私には関係ない。
本当はブスのくせに、メイクで詐欺っていたことの罰がコレだというのなら、もうメイクなんてしないから。下を向いて暗く生きて行くから、だからお願い、私を元の世界へ返して。
化粧ポーチを取って、女子トイレへ駆け込んだ。トイレの別称は『化粧室』だということが、ふと頭によぎった。
トイレで用を足すくらい自然な頻度で、必要とされる化粧直し。メイクが崩れて恥ずかしい思いをしたくない、人からどう見られるか常にチェックしておきたい。私にとって、絶対に必要な場所だ。
そこで私は必死でメイクを落とした。クレンジングをして洗顔。ふんわりと良い角度に描いた眉が消えて、一気に人相が悪くなる。
理想の二重ラインをキープしていたアイプチも取れた。最近はアイテープが主流だが剥がれやすいので、粘着力を重視して私はアイプチを使い続けてきた。
洗面台の大きな鏡に映った私に目をみはった。
どうして………まだ二重なの?
まぶたを閉じて、再度ゴシゴシと擦った。アイプチの成分は残っていない。
パチパチとまばたきをした。二重だ。片目を瞑って凝視した。まぶたの上によれたような線が見える。開くと溝ができて、クッキリとした線になった。
二重だ。アイプチで癖がついて、取れてもラインを維持できるようになったのだ。
アイプチを使い続けると癖づいて二重になる、という話は聞いたことがある。でも二年使い続けても私の二重は定着せず、諦めていた。
その二年間の習慣が、やっと成果を出したということだ。学校にいる間は、寝ている間もずっとアイプチをしていたのが効いたのかもしれない。
なんて最悪なタイミングなんだろう。
あんなに憧れた『天然の二重まぶた』が、こんな状況で手に入るなんて。
正直な気持ちは嬉しい。もう何もしなくても二重まぶたなのだ。これだけで目の印象が全く違う。陰気さがなくなり、目元が陽気だ。私の中身は何一つ変わらないのに、元の一重のときより優しく見える。
人からそう見られて、『明るく優しい人』だと思って接してくれれば、私の中身もそれに寄せていくだろう。そうだ、人の中身だって外見で変わる。
嬉しいけれど、タイミングが最悪だ。もうすぐ化け物の審査が始まる。
完全に素っぴんになって、一日でも早くここから抜け出してやると思ったのに。私の最大の切り札だった、一重まぶたが失われてしまったのだ。
しかしまだ希望はある。このひどく薄い眉。二重まぶたになろうと、垂れ目の離れ目であることは変わらない。黒目の大きさを盛れるコンタクトも外せば、人より黒目が小さい。そしてペタンとしてボリュームの出ない猫毛。
大丈夫、美人じゃない。鏡の中の私に言い聞かせた。百二十二人中の、二十二人に選ばれるほどの美人ではない。




