接近
女子トイレを出ると西川が待っていた。
「ごめん、お待たせ」
「怖かった〜。夜中の学校のトイレ。怖すぎて死ぬかと思った」
西川がピトリと隣にくっついた。
「西か…奏、怖がりなんだね」
そういえば下の名前で呼び合う宣言をしたんだったと思い出した。
「理緒は見かけによらず、強いよなあ」
そう言って至近距離で私を見る西川は、明らかに距離感が近い。今までの、友達の彼女の友達、という何歩も置いた感じではなく、急に友達になったような。
「せーらみたいな、あざと可愛いでもないし、なんかいいよな。しっかり者で、可愛い」
星来へアプローチしたものの、脈がないと分かって私に乗り換えることにしたのか。分かりやすい。星来は無理そうだから、私ならイケると踏んだらしい。
「ふつーに可愛くないよ」
へらりと笑ってかわした。
「いやいや、ほんと可愛いよ。蓮はせーらといー感じだし、こっちはこっちで仲良くしない?」
蓮より五センチは低いだろうが、それでもそこそこ長身の西川が、廊下側の窓に私を追い詰めるようにして前に立った。
『髪型イケメン』と自虐していたとおり、西川の印象の大半はヘアスタイルが占めている。人気のK-POPアイドルと同じ髪型、眉の形、細い顎。薄い塩顔なので、メイクをすればどこまでも映えるだろう。
しかし、劣悪な環境で二日間過ごしたせいで、ヘアスタイルがもさっとして、以前より見劣りする。とはいってもやはりイケメンには分類されるだろう。順位はどのくらいだろう。
西川の容姿をマジマジと観察し、評価を下していると、その顔が近づいてきた。あ、と思ったときには唇を唇で覆われた。はむっと下唇を食まれるようなキス。
驚くほど柔らかい感触。一旦伏せた目を開いて、西川は私を見つめた。熱に浮かされたようなどこか苦しそうな、訴えるような目をしている。
「しよ? 可愛い顔で見つめられて、我慢できなくなった。そんなに見つめてさ、誘ってるよね?」
「えっ、ううん、誘ってない、ない」
慌てた。西川がどの程度イケメンであるか、じっくり見ていただけだ。強めに拒否したいが、プライドをへし折って怒らせるのも怖い。
ブス時代、容姿の良い男は恐怖を感じる対象だったため、なるべく怒らせないようにという意識が働く。
容姿が良い自覚のある男は怖い。嫌がられることがないと思ってグイグイくるし、嫌がれば「ブスのくせに」と悪態をつく。力で勝てるなら怖くないが、暴言を吐くし力も強い。最悪な生き物だ。
いつもへらへら愛想を振りまいている西川も、一皮剥けばやはり男なのだ。
「ねえ、ほら……もう、こんななってる、理緒に興奮してる」
ぐいと腰を密着させて、押し当ててきた。
「やっ、でも、ほら、お風呂とか入れてなくて、汚いし。あ、私がね。そっ、こんな状況で、無理だよ。だって人が、死んでってるし」
どうにか萎えさせたくて必死で言い、本当にそうだと思った。この状況で興奮できる意味が分からない。
「大丈夫、シャワーしてるし。それに、命が危険なときほど、生存本能が子孫残せって命令するんだって。知ってた? 気持ち良くなったら、怖いのも忘れるよ」
「やっ」




