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夜の学校

 夜の学校は薄気味悪い。そのことも忘れるくらい怖いことがたくさん起きて、感覚が麻痺している。

 ふ、と目を覚ますと嫌な気配に囲まれていた。霊感はない。視えたりしたこともない。ただ嫌な気配だと分かる。

 しんとした音の中に、ピィーというようなキーンというような耳鳴りのような音が混ざっている。神経を張り詰めて、極限まで耳を澄ませているからこそ聞こえる音。気のせいだと自分に言い聞かせる。


 自分の心臓の鼓動さえ不気味に聞こえてくる。ハッキリと目を覚まして起き上がれば、嫌な気配を払拭できるはずだ。そう思って身を起こそうとするが、動けない。身体が重く、鉛のようだ。金縛り、という単語が頭に浮かんだ。


 肉体が疲弊して、意識は目覚めても身体を動かすことができない状態だ。決して霊的なものではないと、恐怖に取り込まれそうな心に言い聞かせる。

 身体が疲弊しているのなら、このまま意識を手放して眠りにつけばいいだけだ。しかし意識だけが過敏に興奮し、このまま眠ってはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。鼓動が早まり、全身が汗ばんでくる。

 真っ暗な静寂の中にあった小さな耳鳴りの音が、きいいぃぃんと大きくなった。頭と胸が締め付けられるような痛みに、はっと目を開けた。飛び起きて、はっ、はっ、はっ、と息をした。夢だったのか。


 そして横に顔を向けて、ひゅっと息を飲んだ。心臓が止まるかと思った。


 ぬっと暗闇の中に白い顔が浮かび上がっていた。目が合って、その顔も驚いた。


「……びっくり……起きた?」


 頷くと、西川はほっと息を吐いた。


「びびったあ……急にばっと起き上がって、こっち見るから。静かに通るつもりが、起こしちゃった?」


「あ、ううん。なんか、怖い夢見て」


 小声でヒソヒソと話す。蓮と星来を起こさないように。


「分かる。怖いことありすぎて、夢にも見るよなあ。起きたついでにトイレ行きたくない? 俺行くとこ。怖いから一緒に行こーよ」


 西川の能天気そうな笑顔にホッとした。空気が読めないのが功を奏した。立ちこめていた嫌な気配がどこかへ行った。

 じとりとかいた汗が気持ち悪い。顔を洗いたい。


「うん、私も行く」


 化粧ポーチとハンカチを持って、図書室の外へ出た。廊下の電気を点けて、数メートル先のトイレへ向かった。

 高校は創立七十年と古いが、校舎は十年前に建て替えたので、トイレが比較的まだ綺麗なことも救いだ。古びた校舎なら、この状況は余計に怪談じみているだろう。


 男女別の入り口で西川と別れ、女子トイレの洗面台で顔を洗った。ポーチに常備している化粧水シートで首や脇の下も拭いた。

 明日は少し早く起きて、プール用のシャワーを使って水浴びしよう。そう考えながら、アイプチで二重のラインを補強した。

 

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