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吊り橋効果

 図書室に戻り、待機組の結麻と高崎と星来に、保健室の惨状を伝えた。

 特別な部屋を占拠している者がターゲットにされているのかもしれないと西川が告げると、結麻はすぐに場所を移動したがった。


「でもね、こんな噂も聞いたの。『自分より醜いと思う人を消していけば助かる』って話が、出回ってるみたい」


 と私は教えた。醜い者への警告ではなく、美しい者への助言として。案の定、結麻は慌てた。


「じゃあ素っぴんでいるの、ヤバいじゃん! 変なのに狙われないようにメイクしとこ」


「えっ、私メイク道具、家なのにぃ。学校に持って来てないんだもん」


 星来が泣きそうな声を出した。


「貸してあげるよ。理緒も持ってるし。ね?」


 結麻が言い、私は頷いた。西川が横から口を挟んだ。


「てか、しなくても全然大丈夫でしょ。セーラちゃん、素っぴんでも可愛いから。メイクしてなくても変わんないじゃん」


「え〜そんなぁ、そんなことないよぉ」


 星来の顔が引きつっている。普通だったらすごく嬉しい褒め言葉もこの状況下では素直に喜べないのに、西川は本当に空気が読めない。

 素っぴんでも可愛い美人は、殺人鬼に見逃されても、化け物に粛清される。美しい者を三十五人殺すと宣言されているのだから。


「とりあえずここを出て、他の奴らといた方が安全だよ」


 野崎が言った。


「図書室にいるから狙われるとかじゃなくても、孤立してるとそういう情報が耳に入りづらいじゃん。みんなが知ってることを、俺らだけ知らなくて取り残されるのはマズイだろ」


 確かにと思わせる意見だった。しかし蓮だけは頑なに図書室に残ると主張した。


「……じゃあ、私もここに残る」


 変な風に思われるだろうが、勇気を出して言った。蓮以外の全員が驚いた顔をした。


「え、理緒も残るって……二人きりになるよ?」

 

 結麻が念を押すように聞いた。


「うん。蓮、私がいてもいいかな?」


 いきなり橋本蓮を呼び捨てにした私に、全員がさらに呆気に取られた。


「いいよ」


 と蓮が答え、


「えっ、ちょっと待って。二人っていつからどいう関係!?」


 西川がはしゃいだ声を上げた。

 

「付き合ってるの?」

「いつの間に! 吊り橋効果ってやつ?」


 次々と質問されて、蓮が


「緊急時だから、短い名前で呼び合うことにしたってだけ。今日、生徒会長たちの遺体を運んだ後から。付き合ってはない。吊り橋効果っちゃあ、吊り橋効果」


 と全部に答えた。


「要は仲良くなったってことか。いいな、緊急事態」


「えっ、じゃあ私も蓮って呼んでいいのかな? みんなも私のこと、せーらでいいよ」


 星来が言った。


「俺はそのノリ無理だわ。結麻と付き合ってるし」


 高崎翔真が言った。それはそうだ。


「俺は全然、奏でいーよ。せーら」


 西川が言った。さっきから露骨に星来にアピールしているが、星来は蓮が好きだし。この緊急時でも、この手の感情はなくならないものなんだなと自身も省みた。


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