スキル
保健室から図書室へ戻る途中、西川が言った。
「大丈夫かな、俺ら。いい場所を占拠してる奴らが次々殺られてさ。次は図書室じゃねえよな?」
「不吉なこと言うなよ」
野崎が言った。
「でもさ、頭のオカシイ奴が野放しになってんだろ。少人数で固まってるより、大勢でいた方が安心じゃね」
「みんな、どこで過ごしてんだろ」
「体育館か教室? 行ってみようぜ」
「俺は図書室戻るわ」
と蓮が言った。
「相手はあの化け物じゃなくて人間だろ」
「人間じゃねーよ、あんなんできるって。俺は図書室から出て行くわ」
西川が言い、
「分かった、好きにしろよ」
と蓮が応じた。
「俺も奏と行く。荷物取って来るわ」
野崎が言った。
「木元さんも俺らと来る?」
西川が私に聞いた。
「私は……結麻と星来に聞いてみなきゃ……」
即答は避けた。図書室にいても、私は大丈夫だという自信はあるが、口に出すのははばかれる。
蓮もきっと同じだ。自分は大丈夫だと分かっているから、居心地の良い図書室から移動する気にならないのだろう。
『橋本と木元は対象外だから』
深谷はそう明言した。見た目のいい人間には最後まで残ってほしいと。
殺してもいい人間だと判断されないために、化粧もきちんと直した。少しでも綺麗になりたい、可愛く思われたいと必死でメイクスキルを習得した成果だ。
女は化粧で化けられるからいいよな。そんな言葉を平気で吐く男たちに嫌な思いをしてきたが、ようやく今、本当に良かったと実感できている。自在に変われる顔で良かった。
女は化粧で化けられるからいいよなと言われるが、女が化粧をしなくても許される社会であれば、せずにいたいという女もいるだろう。メイクには時間がかかる、お金もかかる。
塗りたくってはクレンジングし、保湿してパックして肌調子を整えて、また塗りたくってはクレンジングしてはの永遠の繰り返しなのだ。ノーメイクではブスだと馬鹿にされ、社会のマナー違反だと叱責され、女を磨いていないと呆れられ、幻滅される。
素顔で出社しても許される、仕事ができれば許される、男っていいよなと社会で働く女たちは思っているかもしれない。




