惨殺死体
惨殺死体はもう見たくないと思うが、確認しておく必要がある。どの程度の人が死んだのか。正確な人数と、美醜の程度を。順位の繰り上がりに影響はあるのか、ないのか。
「え〜やだ、こわ〜い」と言いながら、星来もついてきた。結麻と高崎は図書室に残った。食料の見張りをしておくそうだ。
柔道場の前には人だかりができていた。化け物の仕業ではなく死人が出たことに、騒然としている。
「俺らじゃないからな! 寝床の交渉しに来たら、こうだったんだよ」
ゴリラみたいな体格のいかつい男子が声を荒げている。
「中、どうなってんの。ちょっと見せて」
蓮が人垣を掻き分けて、柔道場の入り口に近づいた。蓮の後に続き、左右に開け放たれた扉の間から、中を覗き見た。
ああ、死体だ。星来が聞きつけた噂どおり、目で数えてみると五体あった。血溜まりの中に倒れているそれらは、手足を思い思いの方向に伸ばしたり曲げたりして、絶命している。
めった刺しにされた、と分かるのは一番手前にある死体のお腹に包丁が突き刺さったままだからだろう。うつ伏せで死んでいる者の顔は確認できないが、仰向けで死んでいる者の顔は確認できた。
思ったとおりのブスだった。小さい目に、チリチリの癖毛、丸い顔に丸い鼻。唇は小さくて分厚い。一時間ほど前に見た顔だ。
もう一人は、壁の近くで横向けに転がっている。体操服から出ている手足だけを見ても、標準より太っていることが分かる。少し上向きの鼻といい、子豚みたいだ。
「……柔道部……だったのかな」
この体型を見ても、標準的な女子より力強そうだ。全員が柔道部員なら、五人揃ってこうも殺られるものだろうか?
少しは揉み合ったり、抵抗しただろうか。それなら犯人も無傷ではないかもしれない。
「きゃっ、イヤっ!」
ひょいと後ろから顔を出した星来が、悲鳴を上げて私の隣にいる蓮の背中に抱きついた。
「ね、ねえもう、行こうよ」
西川と野崎も早く帰りたがり、星来に引っ張られるようにして蓮は現場を後にした。
その後を追う前に、もう一つ見ておきたいものがあった。ぐるりと見渡すとすぐに目に止まった。血で書かれた『呪』という文字。
どうやって壁に書いてあるのか謎だったが、壁に貼られた教訓をしたためた紙に、なぐり書きしてあった。教訓は『不動心』だ。その余白に『呪』の文字。多分これは……指で書いてある。やはりこれは化け物の仕業ではない。狂っている人間だ。




