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素っぴん

 図書室に行くと、扉を開けてくれたのは西川奏だった。私の顔を見て一瞬目をみはり、「どうぞどうぞ、いらっしゃーい」と笑顔で中に入れてくれた。


「あっ、理緒」


 図書室中央の読書席で、本を広げていた結麻が顔を上げた。


「星来は一緒じゃないの?」


「うん、どっか行っちゃった」


「メイク、直したんだね。いつもの理緒って感じ。やっぱこっちのがいいね」


「AIくんの審査のときだけ、メイク落とせばいいかなって。結麻と違って、私の素っぴん見れたもんじゃないし」


「え〜そんなことないって。私はこの状況だるくって、化粧するのがもう面倒でさあ。それにブスになるのって、そのときだけじゃなくて、ずっとブスでいようって心がけてたほうが、そうなれる気がするし」


 結麻の手元にある絵本は、小さい頃から馴染みのあるベストセラーだ。腫れぼったい目をしたカエルのような生き物と、同じく腫れぼったい目をした犬のような生き物が、愉快な旅をするシリーズ。

 絵本の世界だったら、私の素顔も人々に好まれただろうか。


「結麻は、メイクしてなくても可愛いもんね」


 友達が私より美人で良かった。生き残ってほしいと純粋に願える。

 結麻が死んでも、私の助かる順番は繰り上がらない。先に消えてほしい人間ではない。


 図書室にいるメンバーを、一人ひとり見定めた。結麻、西川、野崎、高崎、橋本蓮。

 私より先に助かりそうな可能性があるのは、高崎翔真だ。小熊のような体つきに、左右で少しアンバランスな目。目つきが悪く見えるし、年齢より老けて見える。

 その貫禄を男らしいと捉える者もいるだろうが、若い女の好みは大抵、中性的な美男子だ。男らしくて不良っぽいところに惹かれたのだろうが、結麻の好みは一般的ではない。


 橋本蓮をチラリと見た。怖くて近寄りがたいイメージがあるため距離を置かれているが、実は蓮のことが気になっているという女子は多そうだ。


 蓮たちが分け与えてくれた菓子パンをありがたく食べていると、血相を変えた星来が図書室に飛び込んできた。


「ねえ、ちょっと大変っ。柔道場でいっぱい死んでるって聞いた? の、呪いだって」


「どういうこと? 落ち着いて説明して」


 リーダー格の蓮が尋ねた。


「柔道場って畳でしょ。だから寝る場所にいいって、柔道部が占拠してたらしいんだけど、そ、五人がめった刺しで死んでるって……呪って字が、壁に書かれてたって……血で……」


「あの化け物の仕業か?」

「でも今日は、殺すやつ決める審査しなかったよな」

「殺していくんじゃなくて、最終日まで残していく方式に変わったよね?」

「あ、そっか」


 皆が口々に話し合う中、私は深谷のことを思い浮かべていた。


「殺された柔道部って、どっち側の人間?」


「え?」


「残りそうだったのか、助かりそうだったのか……」


 質問の意図が分かったらしく、蓮が射抜くように私を見た。


「そういうことか……あいつが?」



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