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部室棟

「あれ、あいつ……」


 蓮が部室棟のほうを見て言った。


「二組の奴だよな。野球部だっけ?」


 同じクラスの深谷だった。どこかの部室から出てきて、手には野球バットを握っている。


「野球部じゃないと思うけど……」


 部室棟の前で素振りを始めた姿は、なかなか様になっている。

 蓮がそちらへ歩いて行くので後を追った。


「気晴らしに素振り?」


 声をかけた蓮に、手を止めた深谷が


「身体がなまるから」


 と答えた。運動がしたかったから、死体運びを手伝ってくれれば良かったのに。


「そか。野球やってたん?」

 

 蓮が深谷にフレンドリーなことも意外だった。

 

「スポ少入ってたけど、中学で部活が合わなくて辞めた」


「そか。まあ色々あるよな」


「日本の部活ってさ、ちんたらやってると舐めてんのかってキレられるじゃん。ギリギリまで追い込んで、限界突破して、勝利を掴むのが美徳みたいなさ。古いよな。楽しかったもんも嫌いになるわ」


「へぇ、そういうもんか。俺はバットやグローブ買う金があったら、肉食いたいけどな」


 普通に聞いたら冗談に聞こえるが、さっきの蓮の話を聞いた後では笑えない。


「あのさ」


 と蓮が言った。


「お前、顔良いよな。化け物に、不細工から逃がしてくれって言ったの、何で? 不細工が提案するなら分かるけど、お前は残る側だろ。髪型とメガネがダサいから大丈夫、とか思ってる?」


 ちょっとそれは。ストレートに投げこみすぎではと隣で聞いている私が焦る。


 ふはっと深谷は笑った。クラスでは冷静沈着キャラで通っていて、いつも表情に乏しい深谷が、こんな風に笑うのを初めて見た気がする。


「俺も橋本と同じく、ちゃんと自己分析できてるよ。その上で、生き残る方法が分かったんだ。橋本と木元は早抜けできない側の人間だし、ここで会ったのも何かの縁だろうから、特別に教えてやってもいいよ。協力してくれたら助かるし」


 生き残る方法? 


「何だよ、その方法って」


 蓮が脅すように言った。


「自分より不細工だと思う奴をどんどん殺していけばいい。自分よりイケてる奴は生かしておく」


 深谷の言葉に唖然とした。隣で蓮が息を呑んだ。


「……順位を繰り上げるってことか?」


「そう。醜い者から順番に百人助かるんだ。だったら醜い者をどんどん殺して、繰り上げ当選するしかない。あの化け物を殺るのは無理だからさ、人間を殺る」


 深谷はそう言って、握ったバットでコンコンと地面を叩いた。


「は、マジかよ。ジョーダンだろ?」


「殺るって、そのバットで?」


 蓮と私が続けざまに質問した。


「別に直接手を下さなくてもいいんだ。審査の時間に体育館に来ない奴は、探し出して殺すって、クゲさん言ってたよな。だから、来られないようにどっかに閉じ込めとくとか、拘束しとくとかさ」


 深谷は世間話でもするように言って、


「ま、できたらでいいけど」


 と話を締めくくった。


「あ、心配しなくても、橋本と木元は対象外だから。見た目のいい奴には、最後まで生きててほしいし」

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