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不平等

 真っすぐ校舎へ戻るかと思ったら、蓮が向かったのはゴミ捨て場だった。

 毎週金曜日に各教室のゴミを集めて、業者が回収しに来るまで置いておく場所だ。昔は学校に焼却炉というものが存在し、ゴミを焼いて処分していたという教師から聞いた話を思い出した。焼却炉があれば、死体も焼けたかもしれない。


 脱いだゴム手袋を、可燃ゴミ置き場に積まれているゴミ袋の上に投げ捨てる蓮を見て、思った。橋本蓮は意外とマトモな人間なのかもしれない。


「理緒って意外と冷静だよな」


 その蓮が言った。


「え?」


「なんか見た目、ほわんってしてるのに。死体焼いても焦げるだけで骨にならないとか、素手で触ると感染症の危険もあるからゴム手探してこようとかさ。見かけによらず、しっかりしてるなと思って。ギャップ」


「えっ、あ、そうかなあ。ミステリー小説、好きでよく読んでる、からかも……」


 会話に自信がなく、言葉が尻すぼみになってしまった。誤魔化すように、困り顔でえへへと笑ってみせた。

 垂れ目で離れ目の私が下がり眉で困ったように笑うと、大抵の人は許してくれる。ふにゃっとして幼く見えるから。


「可愛いし」


 えっと耳を疑った。蓮は皮肉のように笑った。


「あの化け物さ、ルッキズムにこだわってるけど、世の中の不平等って美醜だけじゃなくね?」


 唐突に話が変わったので混乱した。


「親ガチャとか、不平等の代表じゃん。俺んち父子家庭でさ。親父は出張ありきの肉体労働者でさ、ネグレクトってやつか。家族旅行とかクリスマスプレゼントとか、ゲーム機やスマホとかさ。当たり前のように与えられて、それで文句言ってる奴ら全員、ぶっ殺してやりたかったよ」


 鋭い瞳にいつも宿っている、憎しみのようなものはそこから来ているのか、と妙に納得した。


「ネグレクトか……よく大きくなったね……偉いね」


 見当違いの感想を述べてしまったのか、蓮は目をみはり、訝しそうに私を見た。


「親父にもらった金は食費に全振りしてたから、大きくはなったよな。今はバイト代でなんとかやってる」


「そっか、本当に偉いね」


 蓮の話はグサリと胸を刺すものがあった。毎年恒例の家族旅行や、サンタクロースからのプレゼントに、不平不満を漏らしたことがあるからだ。スマホも最新機種が欲しいのに、ケチで買ってくれないと不服に思っていた。


「別に偉くはないけどな。そうしないと生きてけないってだけで。だから俺が言いたいのはさ、あの化け物が言うように、美醜だけが不平等じゃないだろってこと。どんな親の下に生まれてくるかで、スタートダッシュが全然違うじゃん。こっから賢明に走ったって、たかが知れてるじゃん。初動で失敗してんだから」


 自嘲的に笑う蓮は、卑屈でみっともないけれど、ドキリとするほど見た目が良い。奥二重の切れ長の目は鋭い光を放ち、鼻筋はすっと高く、形の良い唇が弧を描く。

 蓮はかっこいいよなと、結麻の彼氏が皮肉っぽく言っていた言葉を思い出した。


『お前らとは違って、俺は不細工だから大丈夫そう』


 あの高崎翔真は、スマホの最新機種を持っているだろうか? 蓮が親から与えられなかった家族旅行やクリスマスプレゼントやゲーム機は。親ガチャに失敗するのと、美しく生まれることができなかったのとでは、どちらが損なのだろう。

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