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非常事態下

 なんとか五体を運び出し、校庭へ寝かせた。

 体育館から校庭がまだ近いほうで良かった。階段のある校舎からなら、途中で心が折れていたかもしれない。

 それでもヘトヘトで、土を掘る体力が残っていない。誰かが、「このままブルーシートで包んで置いておくだけでもいいんじゃないかな」と言い、反対する者はいなかった。


「土をかけるのも、なんか胸が痛むしな」


「お花、供えよう」


 レスリング部のマネージャーが言い、花壇へ足を向けた。

 昨日根津たちが埋葬したレスリング部員たちの具合がふと気になったが、もちろんわざわざ確かめる気にはならない。同じ校庭でも、それらとは離れた場所に新しい死体は置いた。


 摘んだ花をブルーシートの上に置く、美しい進藤奈々の姿を見ていて、ふと気づいた。

 供花。きょうかと読むのが一般的だが、くげとも読む。


『クゲさんは――』と深谷があの化け物に呼びかけていた。

 人権集会の冒頭で化け物自身が名乗ったのだろうが、よくそれを覚えていたなと感心した。くげ……変わった名前だが、もしかして供花と書くのかもしれない。


「私が死んだら、隼人の隣に置いてほしいな」


 進藤奈々が、誰に言うでもなく大きな一人言のように言った。

 なんと言って声を掛けたら良いのか、皆が迷いながら口を開きかけたとき、


「よし分かった任せろ、って言うのは無理だろ。ルールが変わって、五人ずつ殺されるんじゃなくなったんだからさ。最後まで三十五人が残される。その三十五人は、誰がどう弔ってくれるんだろうな。化け物は殺りっぱだし」


 橋本が言った。なにもいま追い打ちをかけるようなことをわざわざ言わなくていいのに。

 そう苛立ちを覚える反面、少しホッとした。そうか、最終日までもう死体が出ることはない。毎日、こうやって死体を片づける係にはなりたくない。

 早く抜け出したい。明日にはアイプチを取って眉毛を消して、本来の私でAIくんの審査に臨めばいい。


「じゃあ〜お疲れ、解散」


 片手を挙げた橋本はくるりと背を向けて去って行く。

 他の人たちは体育館の片付けについて話し合いを始めたが、私は橋本の背中を追った。


「はっ、橋本くんっ」


 長身の橋本は足も長くて歩くのが速い。歩いて追いかけていたらどんどん離されるので、小走りで呼び止めた。

 足を止めて振り返った橋本は、無言で「?」という顔をした。


「て、手伝ってくれて、ありがとう。橋本くんは、図書室に戻るの?」


「うん。てか、俺のこと蓮でいいよ」


「!?」という顔を私はしたのだろう。橋本が説明を付け加えた。


「今って非常事態じゃん。は・し・も・と・く・ん、って六文字も発してる余裕なくない? 俺の身に危険が迫ってたとして、『橋本くん後ろっ』て言うのと、『蓮、後ろっ』て言うんじゃ、危険回避に雲泥の差じゃん?」


 橋本って結構口が回るんだなと感心した。


「うん……」


 心の中では橋本って呼んでるけどな。


「だから蓮でいいよ」


「じゃ、じゃあ私も理緒で。非常事態だから」


 蓮、と心の中で呼びかけてみて、顔から火が出るような思いがした。橋本と、蓮、理緒と呼び合うなんて、何かの罰ゲームだろうか。


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