天然美人
スーツケースを引いたAIくんを従えて化け物講師が去ると、体育館内は一斉にざわめいた。
「良かったあ〜、命拾いした」
「てかさっきの提案、ナイス!」
「誰か知んないけど言ってくれて良かったわ。俺、三日以内には帰れそう」
「明日には帰れんじゃね? 俺ら余裕で不細工だし」
ニキビ跡がボコボコのジャガイモ面と、顔も体型もゴリラっぽい男が、ギャハハハと笑っている。その横を通り抜けて、根津のもとへ向かった。
ステージ下に寄せてあった段ボールベッドに、仰向けで倒れこんでいた。
ズタボロの体操服。顔や手は潰れ、引き千切られたような身体の一部や骨が露出し、片目の眼球がなくなっている。すでに息絶えていることは一目瞭然だった。
近くに倒れている他の四名も、大体同じ様子であることが見て取れた。
「理緒………」
離れたところから、私を呼ぶ星来がいた。両手を胸の前で重ねて、泣きそうな顔をしている。
そうだ、星来こそ根津のファンだったんだ。
「星来、こっち来て。生徒会長たちを……弔ってあげよう。他に誰か、」
星来はブンブンと首を横に振った。
「無理だよ。そんなの近くで見れないよ。行こう、理緒。平気でそういうのに近寄れるなんて、ヤバい奴だって思われちゃうよ」
星来の言葉に衝撃を受けた。
「えっ、だって根津たちは、私たちみんなのために……」
「失敗したじゃん。そういう綺麗事じゃなくてさ、とにかく無理だって、生理的に。私、お肉の生レバーとかも無理だもん、吐きそう。ごめん理緒、先に行くね」
さっと踵を返して、他の女子グループに混じって体育館を出て行く星来に唖然とした。そのグループの女子がちらちら振り返っては、星来に何か耳打ちしている。
平気でグロテスクな死体に近寄れる、ヤバい奴だと話しているんだろうか。
辺りを見渡すと、星来たちと同じように根津たちの死を見て見ぬふりで、ゾロゾロと体育館を出て行く者がほとんどだ。
中には留まって大声で泣いていたり、それを慰めている者もいるが、根津たちのもとに駆け寄って泣く者は……
一人いた。古賀の死体に寄り添って、血溜まりにスカートが浸るのも構わずに、床に膝を着いている美人。古賀の彼女、進藤奈々だ。
学年で一、二を争う美人だと評判で、この可愛い彼女を守りたくて古賀は戦い、殺された。
「隼人……ありがとう、ごめんね、隼人……大好き、愛してる……」
ズタボロで血まみれの古賀の頬に手を添わせ、美しく涙を流している。
なんて綺麗なんだろう。肩までの茶色い髪は、同じ環境で過ごしているとは思えないほどさらりとしていて、形の良い眉も長くて濃いまつ毛も本物だ。クッキリとした二重も作りものではない。
大きなパッチリした目も細高い鼻も、キュートな桜色の唇も、まるでお人形さんのように愛らしい。そしてなぜか体操服ではなく、きちんと制服を着ている。朝起きて、わざわざ着替えたんだろうか。なるべくダサく見えるようにと、みんな体操服を着ているのに。




