交渉
五人を貫いた肉弾は空中を飛び交っていたが、体育館の中央に集まり、くっついて一つの塊になった。いびつなその塊が、こねられる粘土のように徐々に人の形になっていく。
返り血と地の色が混ざり合ってまだら模様になっていたが、形が変化する過程で、異物の血だけが弾かれて床にポタポタと垂れ落ちた。
永遠の悪夢を見ている気分だったが、実際に経過したのは一分ほどだろう。あっという間に、そこには美女が立っていた。
フェミニンなデザインの水色のパンツスーツに、すらりと長くて細い手足。人気女優によく似た愛嬌のある美しい顔で、私たちを見渡してにこりと笑った。
「みなさん、お待たせしました。邪魔が入りましたが、授業を始めます。AIくん、前に」
「はい」
AIくんがすっと歩み出てきて、美女講師の隣に立った。
「さあ皆さん。一人一人順番にこのAIくんの前に立って、ファッションショーのつもりで、くるりと回ってくださいね。全身を全角度から審査しますね」
たった今、同級生五人が目の前で惨殺された私たちのショックなどお構いなしに、化け物美女は流れるように話を進めた。
全身ガクガク震えている者、腰が抜けてへたり込んでいる者、友達と抱き合って目を瞑っている者。動き出すことができない私たちを、化け物美女は舐め回すように見た。
美しい顔には、柔らかい微笑をたたえている。黄金比と言われるバランスの取れた目鼻立ちに流行りのメイク。ファッション誌の表紙を飾るに相応しいような美人だ。
恐ろしいほど人間味がない。当然だ。これは人間ではない、化け物なのだ。
「あの」
静かで深い響きを持つ声が発せられた。化け物に向かって真っすぐ手を上げているのは、同じクラスの男子だった。
深谷だ。昨日も挙手をして化け物に質問をしていた。
「なんでしょう?」
「今日五人を選んで殺すのは、免除してもらえませんか。いま五人殺されたんで。彼らの死に免じて」
「ああ、ちょうど五人でしたね。でも勘違いしないように。彼らは、美しさで選ばれた者ではありません。母数が減ろうが、美しい者を三十五名選んで殺す、という主旨に変わりはありません。彼らの死はノーカウントで」
化け物はにこりと笑った。
「でも、いいでしょう。今日はやめておきましょう。彼らの死に免じて。今日の分は、明日に先送りします。明日は十人選んで殺害します。一日寿命が延びた五人は、彼らに感謝してくださいね」
一日延ばされたところでと苦々しく思い、深谷にも苛立ちを覚えた。根津たちの死をさっそく交渉のネタに使うなんてあり得ない。それに本当に死んでしまったのか、誰も確認できていないのに。
「ありがとうございます。もう一つ、いいですか」
深谷はさらに言った。
「クゲさんは、美男美女だと『損をする』という実感を皆に植え付けるために、美男美女にだけ酷い仕打ちを与える、と仰いましたが。逆のほうが良いのではないでしょうか。マイナスをプラスに変換して、『美男美女じゃない者は、得をする』に。美男美女順に三十五人を選んで殺していくのではなく、そうでない者順に百人選んで、ここから解放していってください。ルッキズム社会でこれまで虐げられてきた者への、ご褒美として」




