化け物
二人の役割は牽制だ。化け物が近づいて来ないように、突き出したさすまたで距離を取る。
二人の後ろに登場したのは、ネットランチャーを構えた古賀だ。狙いを定めて、素早くネットを撃ち放った。
オバサンから美女へと変身途中だった化け物はすぐに動き出すことができず、ネットにかかった。周囲から悲鳴に近い歓声が上がった。体育祭のクラス対抗リレーより真剣な声援だ。
根津と加藤は、古賀たちとは逆方向にいる。ネットにかかった化け物講師の背後だ。段ボールベッドのすき間に隠してあった灯油缶が持ち上げられた。
冬に使うファンヒーター用の灯油缶だが、中身は車から移し入れたガソリンだ。携行缶はポリタンクではなく、より安全なステンレス製のものを発見できて良かったと、根津が話していた。そのステンレス缶が鈍く光った。
化け物に直接かからなくても、網のどこかにガソリンが染みれば、一気に引火するだろうとも言っていた。古賀たちのファインプレーで絡み取られた化け物は、まだ網の中にいる。
今だ! 勝機を得たと思った瞬間、それは起きた。
網の中にいた化け物が、網目から抜け出てきた。パスタを押し出して作る機械のように、一つ一つの小さな穴から、細切れになってにょ~んと飛び出てきたのだ。
肉片の一つ一つが細長く、正面は新幹線の顔のように流線形で、お尻はまるで一反木綿のようにひょろひょろとしている。無数のそれが、人魂のように不規則な軌道で、体育館内を飛び回った。
ヒュンヒュンヒュンヒュンと風を切る。かなりの速度が出ている。化け物すぎる、こんなのもう何でもありじゃないか。勝ちようがない。
あまりの光景に絶句した。全員そうだろう。さすがの根津も手の打ちようがなく、呆然と立ち尽くしている。
高速で不規則に飛び回っていた化け物の肉片たちが次々と集まり始め、何個かの塊を形成した。それらがそれぞれターゲット目がけて飛び込んだ。
「ひぁっ」
「ぐぎゃあぁ」
「やめっがっ」
逃げようとした肉体を次々と肉弾が通過していく。ぶち抜いていく。散弾銃のように容赦がなく、その一つ一つは銃弾よりもはるかに太い。槍で滅多突きにされたように穴だらけになった肉体が、血を噴き出しながら次々と体育館の床に倒れた。
田村、住野、古賀、加藤、根津。
つい数分前まで大声援を受けていた、ヒーローみたいだった五人が。あっという間にぐちゃっとした血塗れのものに成り果てて、びくびくと痙攣している。
駆け寄りたい気持ちはあるのに、身体も顔も石のように固まって、足裏に根が生えたように一歩も動けない。怖い。化け物のことも当然怖いが、あの血塗れのぐちゃりとしたものが根津だと確かめるのが怖い。




