空腹
お腹も空く。根津ら生徒会が全員に平等に支給してくれた非常食は少なく、ちびちび食べたところで、今日明日で食べ切ってしまう量だ。その後は何を食べて過ごせばいいんだろう。それが心配で、なるべく少ない量を口にする。だからお腹が空いている。
固い場所でろくに眠れず、お腹も空いているので、些細なことにも苛立ってしまう。無神経なやつは全員死んでほしい。
誰もが最悪なコンディションで朝を迎え、どろりとした鬱な気分でいるときにも、根津は際だって爽やかだ。張りのある朝の挨拶。みんなの間を回って、困っている者や弱っている者に声をかけ、励ましたり慰めたりしている。
水曜日。外から登校して来る者はいない。教師もいないが、学校のチャイムだけは平常どおり鳴り響く。本来なら朝のホームルームの時間だ。
自然と根津が仕切り、今日の計画を体育館にいるみんなに話した。
あの化け物が姿を現したら、まず副会長の加藤が質問をして気を引く。そこへ田村と住野が、さすまたを使って化け物の歩みを止める。
「アイツは手が刃物状になるからリーチを取って、距離を置く感じで。短時間、足止めできればいい。さすまたで捕らえようとは、思わなくていいから」
根津が言うと、根津の幼馴染みの田村と住野は頷いた。
「古賀はネットランチャーを撃ってくれ。シュートを決める感じで」
ネットランチャーは、使い方を防犯教室で見た覚えがある。不審者に向けて筒のスイッチを押すと、四隅に重りのついたネットが飛びかかって、動きを封じ込めるという物だ。
普通の不審者ならそれで捕らえられそうだが、あの化け物相手では……
「化け物がネットに気を取られてる隙に、加藤はガソリンをぶっかけてくれ。そしてすぐに走って逃げろ。俺が火を点ける。みんなは、最初の時点でなるべく遠くに離れていてほしい」
しんと波を打ったような静けさのあと、誰かが声を上げた。
「えっ、燃やすってこと? それって大丈夫? 体育館全体が火事にならない?」
「化け物が燃えて、延焼しそうなら消火器で対応する。火の勢いが消し止められそうになければ、外へ避難しよう。全員避難してくれ。あの化け物が死ねば、体育館から出るのは自由になるはずだから」
とにかく、と根津は言った。
「火を使って燃やすのが一番だと思う。素手はもちろん、普通の武器じゃ勝ち目がない」
そう言われるとそんな気がする。でもそんなに作戦どおり上手くいくだろうか。不安しかない。火は怖い。どこまでどうなるのか分からない。
みんなの協力を得て、最後に火を点けるのは根津だ。根津が燃えませんように。




