品定め
橋本の意気地なし。ビビリの腰抜け野郎。いかにも喧嘩強そうに見せかけて、見かけ倒しじゃんか。
橋本の悪口を心の中で撒き散らしながら、ずんずんと廊下を歩いて体育館へ戻った。もちろん本人に面と向かっては何も言えなかった。
ビビリの腰抜け野郎で意気地なしなのは私だ。
待っていた星来に、約束のクレンジングシートを一枚渡した。化粧が崩れたときに、一旦きちんと落としてからメイクし直すために、私はクレンジングシートを毎日持ち歩いている。
「わあ、ありがとう〜理緒」
「星来はメイク薄いし、落としても全然変わらんっぽいけどね〜」
「そんなことないよ。理緒もじゃん?」
「そんなことないよ」
顔が引きつらないように気をつけて笑った。
「素っぴん晒すの嫌だけど、殺されるのはもっと嫌だしね〜。なるべく素でいないとね」
と言った星来の笑みが消え、急に不安げな色を浮かべた。そうだねと返して、品定めするように星来を観察した。派手さはないが、上品に整っている顔立ち。特別ここが魅力的で目を引くという部分はないが、悪い部分もない。
背は高めで細い。スリムな体型は高得点だろう。AIくんは日本人の好みを把握していて、より多くの日本人が好ましいと思うものを、美の基準とするらしいから。
理不尽だ。今さらながら腹が立ってきた。より多くの日本人が好ましいと思うものが、美の基準?
そんなもん人それぞれじゃないのか。みんな違ってみんないい、じゃないのか。なのに私たちはみんなその枠に当てはまりたがって、画一的になって量産されたがった。そうじゃないと安心できなくて、みんなが良いというものに、私もなりたかった。ただそれだけなのに。
みんなが寝ているなか、体育館をウロウロ歩いて、あちこちをチェックして回っている者がいる。根津智人だ。そっと外へ出て行く背中をそうっと追った。
「お疲れさま。寝れないの?」
根津とは一年生のときに同じクラスだった。そのときはまだ生徒会長ではなく、一年の途中で選挙に立候補して書紀になったんだっけ。
同じクラスでも話したことはあまりなかった。
「うん。木元さんも?」
根津の口から私の名前がすっと出てきたことに嬉しさを感じた。これはいよいよ良くない兆候だ。
「うん。ねえ、明日……やめといたほうがいいと思う。あの化け物をやっつけるとか、無理っぽいよ。生徒会長だからって、根津がそこまでやらなくていいと思う。自殺行為だよ……」
橋本と違って威圧感ゼロの根津には、思っていることが言葉にできた。根津はどんなタイプの生徒にも態度を変えずに接する、ということを知っているから安心できる。
もっと言いたいように言えるなら、絶対に死なないでと言いたい。変なことをせずに大人しくしていれば、根津は助かるのに。
ルッキズムをぶっ潰す!の化け物に淘汰されない、生き残れる側の人間なのに。根津と私は。




