苦手意識
前の三人組が立ち去ったので、星来に言った。
「持って来るの忘れたけど、体育館のリュックの中にクレンジングシートあるんだ。後で星来に一枚あげるね。持ってるって言ったら、ちょうだいちょうだいっていっぱい来そうだから、星来にこっそりあげるね」
「わぁ〜ありがとう、理緒〜。持つべきものはやっぱ友達だね」
星来が無邪気にお礼を言った。
「その前に、私ちょっと図書室行ってくるよ」
「結麻? 戻って来ないかも〜って言ってたから来ないんじゃない? 無理に呼んで来なくていいと思うよ〜。結麻も出席番号そんなに早くないから、今日はベッド使えないし」
「うん。でも一応体育館の様子を知らせとこうと思って。気になってると思うし」
「だね〜。理緒ってやっぱ優し〜い」
「そんなことないよ〜。じゃあちょっと行ってくるね。すぐ戻る」
橋本に知らせたい。根津たちがあの化け物に立ち向かおうとしていることを。橋本も、あの化け物をどうにかしたいと口にしていたから。化け物の言いなりになって、AIくんに審査されるなんて御免だと憤慨していた。
一人で立ち向かうのは無理でも、根津たちと一緒ならと、仲間に加わってくれるかもしれない。橋本たちのグループは不良系で斜に構えているタイプだから、生徒会の根津たちとは対極にあって、普段は全く交流がないけれど。
今の非日常な危機的状況下なら、手を組む気になるかもしれない。一縷の望みを持って、私は図書室へ足を向けた。
トントンとドアを叩くと、ガラス窓から野崎が顔を見せた。私だと分かると開けてくれた。
「なに、佐々木さん呼ぶ?」
結麻を呼ぼうとされるが、
「あ、橋本くんに話があって」
と言うと一瞬怪訝な顔をされたが、中に入れてくれた。
「蓮〜」
野崎が奥を振り返って声を出すと、橋本蓮がやって来た。やっぱり背が高いことが一目で分かる。寝るためか、野崎も橋本も体操服に着替えている。私も体操服だが、同じものを着ていてもやけに大人びている橋本を目の前にすると、急に緊張が走る。
「なに?」
「蓮に話って。俺、向こう行ってるわ」
別に一緒に聞いてくれてもいいのだが、変に気を利かせて野崎は奥へ引っ込んだ。
カウンター前の読書席の椅子を二つ引いて、橋本はその一つに腰かけた。自分が座る前に私の分の椅子も引いてくれるとか、そういうことがスマートにできるタイプだとは思っていなかったので少し驚いた。
「俺に話って?」
橋本蓮の目は奥二重ですっとした切れ長だ。目尻が少し上がっているので、きつく見える。本人は特に睨んでいるつもりではなくても、この目に見られると射抜かれた気分になる。
小中学のブス時代に、この手の男子には散々毒舌を吐かれたり、あからさまに蔑んだ態度を取られたりしたため、橋本への苦手意識は第一印象から抱いている。
「あ、あの、生徒会長の根津くんたちが、あの化け物をやっつける作戦、考えてるみたいで。一緒に戦ってくれる人を募集してたから、橋本くんはどうかなと思って。化け物相手でも人数で勝てるんじゃないかって、言ってたよね」
ちゃんと話せてるだろうか。美人メイクを身につけて自信がついたのに、橋本を前にすると緊張して、苦手意識に押しつぶされそうになる。
今まで同じクラスになったことはないし、友達の彼氏の友達というだけの橋本と、こうして一対一で話すのは初めてだ。
少しの沈黙に身を削られるような思いがした。
「ふーん、そーなんだ。じゃあ、セートカイチョーたちのお手並み拝見だな。俺、あいつら苦手だから、一緒に戦おうぜってテンションにはなんないわ。逆に足引っ張られそうだし」




