メイク
トイレや洗面所で歯磨きをしたり、化粧を落としたりして、就寝準備に入る。歯磨きセットを学校に常備している人は多いが、クレンジングフォームやクレンジングシートを持って来ている人は少ない。
「ねえ〜、誰か洗顔フォーム持ってない?」
「ないよ〜。合宿でもないのに、普通の日に持って来てなくない?」
「ハンドソープで洗うしかないかあ」
「お肌荒れそう〜。化粧水もないし」
「この際、荒れたほうがいいよ。だって綺麗な人から殺すとか言ってんだよ」
「確かに」
一年団の廊下に設置してある洗面所で横並びに歯磨きしている女子三人組が話している。星来と歯磨きの順番待ちをしながら、私は切羽詰まっていた。目の前に二つの選択肢がある。メイクを落とすか、否か。
もちろん、死にたくなければ落としたほうがいいに決まっている。メイクを落とせば、即効でブスになれるのだから。確実に、生き残れる側の人間になれる。
だけどまだ早くない? 今じゃなくて良くない? 明日選ばれるのは百三十五人中、たった五人だ。メイクのおかげで可愛い扱いされるようになったとはいえ、メイクをした私よりも綺麗な人、かっこいい人は学年で五人以上は確実にいる。十人はいる。二十人、二十五人……この辺りがヤバいラインだろうか。
洗面台の鏡に映る、精一杯良く見せるために頑張ってメイクをしている自分の顔を、精査するように眺めた。
流行りに合わせ、少し太めにふんわり描いた平行眉。元の眉は薄くてお化けみたいだ。アイプチで作ったクッキリした二重ライン。こだわりがあり、零点一ミリ単位でライン決めをしている。
少し離れた目の位置をカバーするためにアイラインにもこだわっている。最近は垂れ目に見せるメイクが流行っているため、元々垂れ目気味の私にはありがたい。その垂れ目を活かし、ふにゃっとした男受けの良い、可愛い感じの目を演出している。まつ毛をくるりんと上に持ち上げて、マスカラで華やかさを足すのはもちろん必須だ。
「理緒もメイク落とすよね〜?」
三人組の会話を一緒に聞いていた星来が、聞いてきた。ギクッとした。
ここで胸を張って、落とさない宣言をする度胸も私にはない。鍋島を思い出した。
『ボクはあんな化け物の脅しには屈しない。ボクらは社会に優遇されたくて、お洒落したり、メイクしたりしてるわけじゃない。自己表現なんだ。好きで、美を追求して何が悪い』
私は鍋島のように矜持があって、メイクをしているわけじゃない。私はみんなに蔑まれるのが、美醜で判断されて下に見られるのが嫌だったからだ。少しでも綺麗に、可愛く思われたい。人に優しくされたいし、異性にモテたい。だから必死でメイクやお洒落を勉強して何度も練習して、自分のウィークポイントと、嫌なところと向き合って、綺麗になったんだ。
それの何が悪い?




