ヒーロー
ブルーシートを敷き詰めた体育館内に、二十台の段ボールベッドが設置できた。
「各クラス五名ずつ、順番にベッドを使っていこう。今日は出席番号一番から五番、明日は六番から十番、明後日は十一番から十五番っていう風にね。ただし体調の悪い人がいたら優先してあげて」
根津の仕切りを聞きながら、毎日五人ずつってあの化け物の殺害予告を思い出す言葉だよなと、縁起でもないことを思った。出席番号順か……私「木元理緒」は十番だ。明日にはベッドで寝られるらしい。一週間で二回目は回って来ないよなと考えたとき、
『途中で人数減るんじゃね?』
高崎翔真の言葉が頭をよぎった。
縁起でもない。縁起でもないが、今夜寝て一夜明ければ、例の殺害予告が実行に移される明日がやって来る。私たちの中の、誰かは死ぬのだ。
「みんな、食べながら聞いてほしい」
寝床の準備を終え、支給された非常食の乾パンと保存水で食事を取っていると、根津が言った。副会長の加藤と、生徒会役員ではないが根津の親友の島田と安江も一緒だ。
「俺たちは、明日あの化け物をやっつけるつもりだ。これ以上、誰かの命を奪われたくない。アレの恐ろしさは今日、みんなも目の当たりにしたよな。だから、共に戦うことを強要するつもりはない。ただ殺されるのを待つよりも、ここにいる全員を救える可能性に賭けて、命を賭して、行動したいと志願する者だけ、作戦に協力してほしい」
びっくりして、パサパサの乾パンが喉に詰まるかと思った。
本気で驚いた。根津はマジでヤバい。正義感がヤバすぎる。化け物は一匹だから、大勢でかかれば殺れるんじゃね?とは橋本蓮も言っていたが、可能性の話をしただけで、本気で決行する感じではなかった。西川ら仲間たちに一蹴されて、諦めたようでもあった。
高崎翔真が言ったように、橋本が危機感を抱くのは必然だと分かる。容姿が優れていて、美しい順の上位四分の一に入る可能性が高いから。
でも根津は違うじゃんか。贔屓目に見ても、半分よりはちょっと上かな?くらいだ。ヘアスタイルや眉毛を整えれば、もう少しかっこいいだろうけど。何もわざわざ自らの命を賭して、同級生全員を救おうなんてしなくていいのに。
レスリング部の二の舞になってしまうとは思わないんだろうか。むごたらしい死体の後始末をした根津が、誰よりもその悲惨さを目の当たりにしただろうに。本気で勝てると思ってるのだろうか。だったらすごい馬鹿じゃん。一か八かで立ち向かうつもりなら、もっと大馬鹿だ。
正義のヒーローぶって死のうだなんて、信じられない。格好つけすぎだ。根津が命を投げ打って助ける、それだけの価値が私たち全員にあると、本気で思っているのだろうか。
無性に腹が立った。




