ボクっ子男子
二年二組の教室を覗いた。教室に集まるよう校内放送があってから、二時間は経っている。
ちょっと顔を出しづらいなと思ったが、私たちにいち早く気づいた廊下側の女子が席を立って、扉を開けて出てきた。
「結麻、理緒、星来。いないから心配してたんだよぉ、良かったあ」
三浦遥香だ。ソフトボール部で色が黒く、さっぱりとしたショートカット女子だ。ガッチリとした体格で、目は可愛らしいが鼻が大きくて丸い。この子は多分生き残るだろうなと、咄嗟に容姿をジャッジしてしまう自分に引いた。
「ごめ〜ん、何か役に立つものないかなって、校内中ウロウロしてた」
結麻がそれらしく答えると、遥香がぱっと顔つきを明るくした。
「あっ、食べ物はね、学校に備蓄してあった非常食を放出して、生徒会の人たちがみんなに配ってくれたんだよ。乾パンの缶詰とか。お湯かけたらご飯になるやつとか。結麻たちの分も机に置いてあるよ」
目から鱗だ。そうか、普段から災害に備えてなんちゃらとよく言っていたのは、こういうときにも役立つのだ。
「わあ、嬉し〜」
星来は無邪気な声を上げた。真っ先に確保した食料を仲間だけで分けようとしていた私たちには胸の痛い話だが、後ろめたさを笑顔で隠して教室に入った。
「お〜、佐々木たち無事だったんか!」
「良かった、これで全員揃ったな」
「結麻、高崎くんたちは一緒じゃなかったの? 蓮くんたちもいないらしいよ」
クラスのみんなが口々に言った。心配してくれていた、喜んでくれるみんなの優しさに、不意打ちのように胸を打たれた。うるっと涙腺が緩みそうになったとき、
「綺麗どころがいないと、俺らがヤバいしな〜」
空気の読めない男子の一言で台無しになる。
「いや、お前は絶対大丈夫だろ!」
「てかそんなこと言うの、最低〜!」
「美人全員、敵に回したぞ」
みんなの野次で一応笑いとなるが、苦笑いの人や、とても笑っていられない人もいる。
「茶化すのやめようよ」
ビシッとクラスを一喝したのは、鍋島祐希だった。色素の薄い髪はシャギーショートで、綺麗に整えられた細いアーチ型の眉に、アーモンド型の大きくて印象的な瞳は緑がかった茶色をしている。両親のどちらかがイギリス人とのハーフだそうだ。ハーフじゃなくてダブルか。
しなやかで美しい高級な猫のような鍋島は、流行りとは違う髪型と化粧をしているが、元々の素材が圧倒的に良いので、洗練されたモデルのようだ。特別感がある。
「美しい者から殺す、上等じゃないか。殺られてやろうじゃないか。ボクはあんな化け物の脅しには屈しない。ボクらは社会に優遇されたくて、お洒落したり、メイクしたりしてるわけじゃない。自己表現なんだ。好きで、美を追求して何が悪い」
憤慨した眼差しで、クラスメイト一人一人の顔を見渡す鍋島は、まるでジャンヌ・ダルクのように勇ましくて、美しい。
その気迫に誰も何も言えなかった。
鍋島は二年の進級時に東京から来た転入生で、個性的すぎて周りに上手く馴染めないまま、今に至る。
女性陣はわりと好意的だが、男子は「オカマ野郎」だの「キモい」だの陰で言いたい放題だ。親しくしようとする者がいても、「ホモじゃね」「鍋島とデキてる」と噂されるため、距離を置くようになった。きっとここが田舎だからだ。東京でなら、前衛的な鍋島は人気者だろうに。
最近は休みがちだったのに、よりによって今日に限って登校しているなんて、不運すぎる。




