魔法学校の空模様
作者(もち雪)と同じ名前で、重複投稿されています。
去年の9月の新学期から私は、新米の自然魔法の教師として、ジェームス魔法学校へ勤める事になりました。
自然魔法と言うのは一般的に魔法と言われるものの、(魔法の)基礎を教える学問であります。
しかし実際には、魔法と自然魔法は一部の例外を除き、同じものだと私は理解しています。
魔法のすべての勉強するわけにもいかず、高学年に上がっていくにつれ精霊魔法や呪術的な魔法などという具合に細分化され学んでいく事は、生きていく、生活していく内にもよくある事ではないでしょうか?
その細分化されてしまう前の、各魔法にも共通して必要な知識を大まかに自然魔法と呼んでいるにすぎない。
それが私の考えです。
そして始まった私の教師生活ですが、毎日の授業の中で、改めて生徒たちと共に自然魔法に触れていく。
その日々の中では、高名な魔法の師匠の弟子になり、魔法を勉強した私には思いもつかないような驚きと、発見の日々がありました。
その発見の新たな前触れとして、4月に3年生に教えた天候を操るための授業、その教える時期について他の先生は揃って「ラサム先生、天候の魔法は6月を過ぎてから教えた方が良かったわね」と、言い方はやや変わるですが、皆さんそうおっしゃるのです。
生徒たちは、天候を操れる事になった事に喜び、時には日本から送られた遅咲きのソメイヨシノの桜が美しく咲き誇る中で、桜の花びらの様な雪を降らせる事をしました。
その時は教師たちが慌てて天候を戻そうとしている中、「雪だぁ!」「きれい……」と言って雪を降らせようとする生徒が多く現れ、多くの生徒がほうきに乗って飛び交う校庭で、天気をめぐる攻防はしばらく続いたのでした。
しかしうちの学校はおおらかな校風故に、特に問題になる事はないです。こういった事も学びに通ずると、校長先生は考えておられるようでした。
ある時には花粉のひどい晴天の日に、突然に雨が降ったりする事もありました。しかもそれは結構な頻度で起こり、職員会議の議題にまで上がってしまったのです。
しかしその時も3年の学年主任スルリトの先生の発案で、花粉を多く含んだ風を校外へ逃がす事で花粉のための雨問題と、スルリト先生の花粉症はグレーよりではありますが解決したのでした。
その他、こまごまとした天候を操る魔法を使った問題は起こりはしたが、私も多才な生徒たちと過ごす内に、反面教師としての部分は多くありますが、彼らを見習い柔軟な思考でそれらの問題に対処出来る様になっていけたのでは? と、思っています。
しかし私に6月を過ぎてからと、おっしゃてくださったベテランの先生方の域ほどには新米の私には理解が及ばなかったようです。
ある日、5月の運動会の日のお知らせが、学年だより、学校だよりに載りました。学年主任のスルリト先生が、学年だよりの紙の上から――。
「天候を操る魔法を、絶対に使わない様に!」と、鋭い目つきと、低い声で私に語るのです。
この紙面の写真に命を吹き込む魔法は一回のみですが、うっかり夜中見てしまっていたら結構怖いだろうなと思う怖さを秘め、先生の本気さ存分に表していました。
校長も似た感じで、「保護者、お客様のいらっしゃる運動会で、いたずらに魔法を使ったらそれ相応の報いを受けるだろ……」と、オカルト系の書籍の面構えとボイスで禁忌であると、恐怖をもってわたしに告げます。
この学校新聞で未使用のプリントについては、税金の使い道を広く知って貰う名目で少ない部数のみですが、個人情報や安全面を顧慮して作られた表面のみ公共施設に置かれています。
それらは一部のマニアによって、再利用可能になる魔法をかけられ大切に保存されるのだと、無生物魔法の文康先生が内緒ですよと言って教えてくれました。
しかし今回のプリントの出来映えはある意味芸術的で素晴らしく、その内、魔法学会によって禁書指定を受けてしまうのでは? と頭をひねるばかりでした。
そんな話の脱線はさておき、運動会の当日の天候は魔法学校の先生方の脅し……ではなく、指導の甲斐もない結果となってしまいました。
朝は天気だった空が生徒が通学を始める頃には、突然土砂降りの大雨へと変わってしまったのです。
けれどそう思ったのも束の間、今度は晴れてなんだか春であるのに大粒の汗をダラダラ出すほどの暑さに!
私は慌てて職員室の窓際へと向かい、天候を平常へと戻すべく、魔法を打ち消す呪文をすぐさま空に向かってかけるのですが……。
しかし私の魔力を上回る魔法の力がかかっているのか、天気は余計に荒れ狂い人々を凍えさせる白い大きな雪を降らせてしまうのです。
それに連動して私の血の気が引いたり、生徒に対し怒りに燃える思いが身の内から起こります。
学年主任のスルリト先生は怒りが頂点に達したのか、いつもは巧みに隠している呪いの王サラマンと嫉妬の乙女ジェスタが半透明でありますが、具現化して辺りを彷徨ってしまう状況まで起こしてしまっていました。
そんな職員たちの怒りも届かず、新たな天候は生み出され、今まで降っていた雪をかき集めふき飛ばすような、嵐が巻き起こしてしまうのです。
「なんだ!? 、なぜ、どうして?」
私は思わずそう叫び、空を見上げて「おかしい……」と、そう呟きました。
気が付くと、空を見上げて打ち消す魔法を唱えていた先生たちにも、動揺の色が顔に深く刻まれています。
いくら生徒の方が数が多いといえ、彼らはまだ歩き出した雛も同然、先生方が唱える空の安定を施す魔法に遮られ、天に届くはずはないのです。
その時、校庭で保護者たちが声をあげて喧嘩をしている事に気づきました。ピーンとひらめいた私は、職員室から出て校長室へ駆け込みます。
「校長! 保護者たちが、天候を操る魔法を皆で使っているようです! 彼らの多彩さと経験、そして数、それらの理由によって教師たちだけでは太刀打ち出来ません!」
「また、彼らか……」
「また……?」
校長は私の質問には答えずに、長い呪文の後、杖を一振りしました。
天気は快晴でへと向かい、胸を撫で下ろしたその時、私の右手の甲にチクリとした痛みが起こりました。少々の痛みですが、確認はしなければと思う程度の痛み。
その計算された痛みの場所を見てみると、手の甲いっぱいにバツの印がペンで書かれたようについていました。
校長が私のその姿を見て笑っているのを発見し、いえ、これを書いたのは校長だろうと確認の意味で見て、予想は正解だったと悟りました。
校長の言葉を待つ私に「まぁ、お祭りみたいな物だからいいじゃろう。午後の部の開始までには消えている」と、長い白いひげをさすりながらそう告げたのでした。
その意味に、私は理解が及びませんてしたが、時間は待ってくれません。
「校長先生ありがとうございました」
「うむ、生徒たちに危険が無いように、宜しくお願いします」
それだけ話すと、頭を下げ校長室を後にしました。
そして運動会が始まりました。 多く保護者が見守る中、生徒たちはそれぞれの力を尽くします。
そして保護者たちを3年の学生主任のスルリト先生が、呪いの王サラマンと嫉妬の乙女ジェスタとで見守ります。彼には多才な経歴があるので、保護者からのクレームはありませんでした。
皆でいっぱい運動し、応援、そして体操やダンスが生徒たちによって行われました。
前日までの数多くの成果は十分にはっきされたようです。
そして昼食の時間になると、校長は皆の前に立ち言うのです。
「今日はいつもとは施行を変えて、魔力が有り余っていそうな者たちに、魔法学校の隣りにある黄昏の森の空に素敵な虹を作り出して貰おうかのう。手にバツ印のある者は、虹の魔法用意――――――始め!!」
その言葉通り、私の腕と唇は校長の言葉通りに、私の意思とは無関係に虹の魔法を唱えていました。
そして黄昏の森にはとても立派な美しい七色の虹が姿をあらわし、生徒たちとその保護者たち、教職員の一瞬の静寂の後、とても大きな歓声が校舎いっぱいを包まみこみました。
その声たちに気をよくした学年主任のスルリト先生の、呪いの王サラマンと嫉妬の乙女ジェスタが七色の虹の空に飛び立ち、ワルツを踊りだしました。
彼らの作り出す幻想的風景を見ながら、お弁当を食べ終わると運動会は午後部へと向かうのでした。
終わり
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