被験者Hお弁当生活の告白
幼稚舎から共に過ごしたルームメイトが彼とのデートに必要だからと、お弁当を試行錯誤に創り始めた冬の始まり。
料理は決して下手ではない。
けれどお弁当に入れるとなると話は違う。
箱の中での数時間、混ざり合う匂いの喧嘩や揺れに応じて染み出るエキス。
そもそも寮生活で夕食後に翌日のお弁当を作ろう等と、初期設定にも無理があった。
お嬢様学校に入って得られた知識に料理の腕も確かなものにはなっている。
でもお弁当を作る知識なんて教わらない。
スマホはあるけど、調べれば調べる程に何が良いのか判らなくなるのは異性を知らぬ世間知らずが故なのか。
同じモテないを知る恋する乙女のルームメイトに定番のサンドウィッチなんて口が裂けても言えはしない。
彼女の真剣な想いを知るからこそに、私は身を投じ被験者となったのです!
勿論、初日から可笑しいとは思っていました。
▶Day1
伊達巻とスパイシーサーモンのコンフィに海老春巻きのサラダを添えて
ディッシュを含めた本格フランス料理のスパイスがテーブルに並ぶ理由にも、彼は海外に精通する商社マンだからと和洋の伝統を重ねる料理を考えたと言う。
寮の食堂を間借りして、本格的に料理を始めたその姿に魅了されたか、調理人が身を粉に教えた翌日の昼。
中庭の園で小さな箱を開けるとスパイシーな香りが噴き出した。
完璧なサーモン・コンフィの低温調理が仇となり、溢れ出るサーモン・エキス、海老春巻きのサラダから出る水気、伊達巻の出汁までを合わせた瑞々しく爽やかなソースが箱の中を浸している。
まるで蓮の葉を浮かべた池の如くに揺らせば返る波紋を見せて。
私は被験者、勿論食し絶句した。
▶Day2
アボカドディップとオマール海老ソースに花の香りを添えた帆立フライ
南国の島国でファイヤーダンスショーを観ながら出される料理のようだが、労を惜しまなければ出来ず繊細な調整までを求める料理。
けれど中庭の園で開けた小さな箱の中はファイヤーダンスショーが行われたかの如くで、散乱する具材の見た目は正しく花の咲く環境だった。
私は被験者、勿論食し絶句した。
その後も続く食の試練に私は耐え抜き、決行日を目前に完成したお弁当に身を案じ、彼女の幸せを心から願い送り出したのです。
夕景に街を彩る灯りが風に揺れ、門前で言葉は無くとも繋がる心を隣に感じて身を寄せ帰る二人の姿、報われた努力に嗚咽が漏れる。
彼女の幸せに繋がったのだと被験者Hは誇りを持って告白した。
■あとがき
なろラジ6参加の拙作『極上の観覧車』との連作として読んだなら、印象が変わるかなと考え綴ってみました。
☆☆★☆☆の評価下のリンクから『極上の観覧車』も宜しければ♪