ようこそ!迷宮ダンジョンへ④
「……嘘でしょ? リガートゥルを食べているって、嘘よね? その冗談、全然面白くないからね。全然、笑えないからね」
「冗談じゃないよ。本当に食べている。リガートゥルを食べたのは初めてだけど、なかなかの美味で嬉しい驚きを感じているところだ」
リガートゥルが、美味しい? 何、その感想? 味をかみしめている場合? 美味しくても、毒だからね。毒を口にして、嬉しい驚きを感じている場合じゃないから……って、待って。もしかして……ジャスは、リガートゥルが毒の実だって知らない?
「…………ものすごく言いづらいんだけど、リガートゥルは毒なの」
「いやだなぁ。もちろん、知っているよ。だから、今まで口にしなかったのだから」
――はぁ?!
「じゃあ、なんで食べてんのよっ?! あんた、死にたいの?! バカなのっ?! なんで、毒だとわかっていて食べるのよ!!!」
「食べなければ、死んでしまうからだよ」
…………い、意味がわからない。なんで、リガートゥルを食べなきゃ死ぬの? えっ? えっ? ちがう、ちがう。逆よ、逆っ! 解毒したくても、私は白魔法を使えない。リベラも持ってない、となると……
「ジャスは、白魔法が使えるの?」
「残念ながら、使えない」
それなら……
「リベラを持っている?」
「ご期待に添えずに、申し訳ない」
それって……どういうこと?
「えっと、ジャスは……白魔法を使えないし、リベラも持ってない、ってこと?」
「ご名答♡」
思考が追いつかない。なんで、語尾に♡がついたの?
「私が知っている限り、リガートゥルの解毒方法は白魔法とリベラだけなんだけど……他にもあったりする?」
「私が知る限りでも、リガートゥルの解毒方法は白魔法とリベラの二つだけだね」
――――?!?!
「だったら、なんで食べたのよっ!!!」
「お腹が空いていたんだ」
「我慢しなさいよっ! 私がお腹を空かしている人に、食べ物をあげないような冷たい人間に見える?! そんな薄情じゃないわよっ!」
「ルチル、落ち着いて」
「あんたは、少し動揺しなさい! 楽観的すぎるわよ! あのね、リガートゥルを食べると、時間の経過と共に毒が回って、どんどん弱っていくのよっ!」
「そうなんだよねぇ~」
「他人事みたいな言い方しないで! 本当に死ぬんだからねっ!」
「君は、私のことをなんだと思っているのかな?」
「はぁぁ?!」
「私を何も食べなくても死ぬことのない、至高の存在だと? 確かに、私は美し……」
「こんな時に、何を言ってんのっ!!」
「聞かれたから、答えている」
「はぁぁあぁ?! あんたは私が言った、どの質問に答えているの? くだらないこと言ったら、ぶん殴るわよ」
「なぜ、リガートゥルを食べたのか?」
「……OK、続けて。答えを聞きたい」
「生きとし生けるものは、食べなければ生きていけない。だから、今の私には選択肢が二つしかなかったんだ。リガートゥルを食べて、生きながらえるか。それとも、飢えて死ぬか」
「バカ! 二択じゃなくて、三択でしょ?! 私が『ジャスを助けて、食べ物を渡す』が抜けているわよ!」
「うーん。それは、少し難しいかな。ルチルが私を助け出す前に、私は死……」
「さっき、私が助けられるって断言していたのは、誰? 数分前に自分が言ったことを、もう忘れたの?!」
「ははは、忘れてないよ。ルチルは、私を助けてくれる。今も変わらずに、断言できる。だけど、今"この時"じゃない」
「……どういう意味?」
「私の周りには、かなり強い結界魔法がかけられているんだ。今の君には、無理だよ」
「……だから、リガートゥルを食べたの? 今の私が、結界を破壊することができないから?」
ゲームでのジャスパーとの出会いは、ダンジョンの中。魔法の牢に閉じ込められていたジャスパーを、ルチルが助ける。そして、お腹を空かしていたジャスパーに持っていた食べ物をあげたことで、ジャスパーはルチルの相棒になるのだ。桃太郎スタイルの安易な設定だから、特に気にしたことはなかったけど……ルチルと出会った時のジャスパーは、瀕死の状態だった。そして、ゲームでジャスパーと出会ったのは、ルチルが十六歳になる前。
今は……?
誕生日は、もうとっくに過ぎている!! あっ、でも! でも、ジャスはジャスパーじゃない……はず。だけど、もし……もしも、ジャスパーだったなら? 私が……たどり着くのが、遅かったってこと?
だから、ジャスはリガートゥルを食べるしかないくらいの状態になっちゃったの?
「君なら、できるよ」
――それが、今ではないだけ。
口に出さずとも、ジャスは言っていた。私には出来ない、と。そんな力はない、と。
「……ジャス、私を見くびりすぎよ」
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