夜の光に照らされて③
表通りに出て、人ごみに紛れる。彼女の手が少し震えているのを感じて、握った手の力を強くする。すると、彼女も同じように強く握り返してくる。
広場のような場所に着くと、立ち止まって彼女を見る。二十前半くらい? 黒髪で、黄色みの強いグレーがかった茶色の瞳。そして、鮮やかな緑色のワンピースを着ている。ゼロの民の女性だ。
「大丈夫ですか?」
「はい。……助けていただき、本当にありがとうございます」
よく通る声で、彼女が言った。
「あの男たちとは……知り合い?」
「いいえ。道を聞かれて、教えていたら……」
彼女の声がどんどん小さくなり、最後まで聞き取れなかったけど、何があったのか想像できる。あいつらが、彼女を無理やり路地に連れ込んだに違いない。そんなことをやりそうな人相をしていたし、何よりふざけた姿をしていた。
「無理に話さなくても、大丈夫だから。その、余計なことを聞いて、ごめんなさい」
「いえ。私もいきなりのことで、動揺してしまって……」
「うん。でも、もうアイツらは追いかけてこないから大丈夫ですよ」
彼女に言いながらも、頭の中ではさっきの男のことを考えていた。あの男たちは宝石の民だと言っていたけど、絶対に違う。それだけは、自信を持って言える。あの男は、絶対に宝石の民じゃない。それなのに、どうして……あんな見え透いた嘘を??
「思い出したくないだろうけど、一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、私に答えられることなら」
「あの男だけど……宝石の民ではない、ですよね?」
「え?」
……え?
こっちが「え?」なんだけど? どうして、疑問符が返ってくるの??
「えっと、さっきの男は宝石の民でした?」
もう一度、今度は聞き方を変えて聞いてみる。
「はい、宝石の民の方でした」
「……そう見えました?」
「はい。間違いありません。それなのに、本当に……ありがとうございました」
……それなのに?
「何か、お礼をしたいのですが……」
「お礼なんて、全然。あの、気にしないでください。それよりも、あなたの家はどこですか? 良かったら、送りますよ」
「ありがとうございます。ですが、この近くなので平気です」
「本当に?」
「はい。本当に、ありがとうございました」
彼女は、丁寧にお辞儀をする。
その後も何度も振り向き、お辞儀をする彼女に笑顔で手を振りながら、頭はやはり自称宝石の民男のことでいっぱいだった。
彼女は、宝石の民だと言った男の言葉を信じていた。信じきっていて、疑ってすらいなかった。そんなわけがないのに……。
宝石の民は、見た目でどこの民が判断できる。さっき見た、あの女の子と仲良くなる店であった人は間違いなく、宝石の民。の間違いないと言い切れるのは、彼が赤胴色の髪だったから。それに、彼が身に着けていた武器も、彼が火の民だと教えてくれていた。
宝石の民は、それぞれの民によって装備が違う。私たち森の民はユーテルに柔革鎧、空の民はローブとレイピア(細い剣)、水の民は硬革鎧に、スピア(長い槍)、火の民は金属鎧、長剣を装備している。
森の民がユーテルで戦う理由は、使いやすいことと自分たちが森の民であるという誇りがあるから。ゲームでも、それは決定事項だった。だから、きっとほかの宝石の民もゲーム同様決まった武器を使っているはず。
だけど、あの自称宝石の民男は剣を腰から下げ、革鎧を身につけていた。不自然すぎる。そして、何より、自称宝石の民男の髪色は……緑だった。
それらが示すのは――あの男は、宝石の民ではないということ。
「ねぇ、ジャス」
声に出してから、聞く相手がいないことを思い出した。ジャスがどこに行ったのかもわからないし、どこで合流すればいいかもわかない。すごく気になるのに、聞く相手がいないのはモヤモヤする。
「はぁ~」
気持ちを切り替えるように、大きく息を吐く。
一人で悩んでいても、仕方ない。とりあえず、目的の店に行こう。ジャスも私が店に行くことは知っているから、きっと店に来るはず。ゆっくり服を選びながら、待っていればいい。
どんな服にしようかな。どんな服が、あるんだろう? ワクワクしてきたぁ!




