「今、夢の中にいる」と気づいた時の注意じこう。
この作品は「冬の童話祭2024」の参加作品です。
ユメちゃんは小学4年生。
ユメちゃんのクラス、4年3組の教室の中は、明日からの連休をどう過ごすかという話題で盛り上がってます。
すると、「バンバン」という大きな音がしました。
教卓を叩いているマキ先生です。
マキ先生は結婚間近の24歳独身の美人ギャルです。
「みんな、静かにしてー!」
ざわざわしていた教室の中に、緊張感が生まれました。
「黒板にちゅーもーく!」
ユメちゃんは後ろの席のカケルくんともう少しお話していたかったのですが、残念です。
仕方なく教室前にある黒板を見つめます。
そこには、こう、書いてました。
『「今、夢の中にいる」と気づいた時の注意じこう。』
『チョーきけん! あぶない! ヤバい!』
マキ先生は生徒たち一人ひとりに語りかけるように言いました。
「最近、寝たまま目を覚まさない子どもたちが増えてます」
「世界中のハカセたちが研究した結果、夢を見ている時に『今、夢を見ている』と気づいた子どもが、目を覚まさないケースがあるということです」
「どうやら、『今、夢を見ている』ことを、夢の登場人物たちに気づかれて、つかまってしまった場合に目を覚まさないらしいです」
「これは、夢の登場人物たちに気づかれたけど、逃げ切って目を覚ました子どもの証言で判明しました」
「みなさん、気をつけてください」
「――――特に、ユメさん! よそ見をしているユメさんは特に気をつけてくださいね!」
ドキッ!!
マキ先生の話を聞かずによそ見をしていたユメちゃんは、先生に名前を呼ばれておどろきました。
マキ先生が、こちらを見ています。
そこで「あること」に気づいたユメちゃんは、
全身にトリハダが、ブワッ、と立ちました。
――――これ、夢だ。
だってユメちゃんは、現実ではもう5年生ですし、
ユメちゃんの学校に「マキ」という名前の先生はいないのです。
こちらを見ているマキ先生が、ニヤッとしたように思えました。
「ユメさん、何かありましたか?」
「はい……いいえ、なんにもありません!」
「それでは、ショートホームルーム終わります。日直のユメさん、あいさつお願いします」
ユメちゃん、日直でした。
あわてて立ち上がります。
「きりーつ! れい! みなさんさよーなら!」
「「「「さよーならー!」」」」
どうしよう、どうしよう。
とにかく、気づかれないように家に帰ることにしました。
夢の中でも、ユメちゃんの家はあるのでしょうか?
「おい、ユメ!」
「ななな、なに?」
後ろのカケルくんがユメちゃんを呼び止めます。
「黒板消してねーぞ」
「あ、そうだった」
ユメちゃんは思い出してます。
カケルくんは知らない人だって。
黒板に書かれた文字を消します。
消します。
消します。
消します。
消します。
消します。
増えます。
増えます。
増えます。
増えます。
増えます。
消しても消しても、
次から次に、
勝手に文字が増えて、
いつまでたっても消し終わらない……
「なあ、ユメ。この黒板の文字おかしくない?」
うしろのカケルくんが、ユメちゃんにいいました。
――――気をつけて!
ユメちゃんは自分自身に警告しました。
これはきっと引っ掛け問題です。
「おかしくない。フツーだよ」
ユメちゃんは、れーせーに返事できました。
――――大丈夫、だいじょうぶ。きっとまだ気づかれてない……!
ユメちゃんは、自分を落ちつけるように、心のなかでつぶやきました。
そこで、気がつきました。
クラスの全員が、
まだ帰らずに、
後ろからユメちゃんを見つめていることに。
マキ先生もユメちゃんを見ていることに。
――――――――!!!!!!!!
――――――――!!!!!!!!!!
ユメちゃんは、黒板の文字を消しまくりました。
急いで急いで消しまくって、
とうとう全部消すことに成功しました。
「それじゃあ、さようなら」
「「「「「ユメちゃん、さようならー」」」」」
◆
「ただいまー……」
ユメちゃんは、やっとの思いで家に帰ってこれました。
帰り道のとちゅうで出会った人、ひと、ヒト、
ぜーんいん、
ユメちゃんのことをじ~っと見てきました。
とてもこわかった!
「お帰りなさい」
「あっ、ママ」
ユメちゃんは、気を引きしめなおしました。
ママも本物のママじゃない。
夢のママです。
気をつけて、気をつけて、気をつけました。
夢の中でママのごはんも食べました。
本物のママのごはんよりおいしい気がしました。
本物のママよりやさしい気がしました。
「ユメちゃん。お風呂とハミガキとトイレして、そろそろおやすみしなきゃね」
ユメちゃんは思いました。
「夢の中でトイレ入ったら、オネショしちゃう……」
ここまで口に出してしまって気づきました。
夢を見ていることを知ってる、と夢のママに知られてしまったことに。
ニセモノのママがユメちゃんを、ジーっと見つめています。
ユメちゃんの顔から血の気が、サーっと引いていきます。
「ユメちゃん」
「う、うん。じゃなくて、はい」
「ママは夢の世界のママだけど、ちゃんとユメちゃんが大好きよ。だから、今回は見逃してあげるわね」
「! ママ……! ありがとう!」
ユメちゃんは、思わず夢の中のママに抱きつきました。
「ママ、わたし夢のママも大好き!」
「はいはい」
「じゃあ、もう大丈夫よ、起きて」
そこで、ユメちゃんの夢は終わりました。
もう朝です。
窓の外から、チュンチュン、と小鳥さんの鳴き声が聞こえます。
今回、ユメちゃんは、夢の中のママのおかげで、ピンチから脱出できました。
めでたしめでたし。
といいますか、ユメちゃんは気がついたのです。
現実で、
「寝たまま目を覚まさない子どもたちが増えている」
「子どもが夢の中から帰ってこれなくなる」
なんてこと、一度も聞いたことがないことに。
だから、せんぶ夢だったのです。
「あー、こわい夢だったなー。でも、もう大丈夫!」
でも、あれれ?
この声は?
「ユメちゃんと夢の中でずっと遊びたかったな」
「ユメちゃんのママはやさしいから」
「許すのは今回だけだよ」
「マキ先生、わかったわ」
ユメちゃんの夢の住人たちが話しています。
ユメちゃん、やっぱり気をつけた方が良さそうですね……
――――――――あれ、この話を読んでいる君は。
――――――――今、ちゃんと起きてる?
――――――――目が、開いてないけど?
〜fin〜
最後までお読みくださりありがとうございます。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がります。