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カフェ・シュガーパインの事件簿  作者: 山いい奈
3章 こんがらがる慕情
22/36

第5話 第1回捜査会議

どうぞよろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)

少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

 勤務する警察署に戻った冬暉(ふゆき)夕子(ゆうこ)は、ロビーで詐欺(さぎ)担当の先輩刑事に声を掛けられた。


「おう、浅沼(あさぬま)


結城(ゆうき)さん。お疲れさまです」


 夕子に結城さんと呼ばれた先輩刑事はすっかりと中年太りの体格で、お腹もでっぷりと突き出てしまっている。顔の輪郭も丸く首周りも埋もれてしまって、お陰で一見優しげな印象ではある。が、その細い目は有事になると、きっと鋭くなるのだろう。


「おう。そっちは里中やったな。最近刑事部に移動になったって若手やな」


「っす、里中っす。よろしくお願いします」


 冬暉が頭を下げると、結城さんは満足げに「うんうん」と頷いた。


「よろしくな。ところでおふたりさんよ、あれや、昨日の長居(ながい)公園のヤマ、まだ()ぎ回っとるんか?」


 田渕(たぶち)の件が自殺と断定されたと言う事は、すでに署内には知れ回っているし、報道関係者にも伝わっている筈だ。判明された身元を報道する程度の小さなニュースになるかならないかというところだろうが。


 署内に関しては、捜査に関わった人員の間で意見が二分した事も()れていた。


「いやぁ、まぁ」


 すでに終わったことになっている案件を、しかも自殺と断定されたものに反する様な行動は、当たり前だがうまくはない。冬暉はつい目線を逸らし、夕子はごまかす様に苦笑を浮かべるが、経験豊かであろう結城さん相手には難しい話だったのかも知れない。結城さんはにやりと笑うと、冬暉と夕子に顔を寄せて耳打ちして来た。


「田渕が勤めとった(くすのき)画廊な、デート商法の元締めっつぅ疑いが上がっとってよ、俺らでマークしとるんやわ」


 冬暉と夕子は驚愕(きょうがく)に目を見開いて、視線を交わした。と言うことは、田渕は。


「まだ確定や無ぇからよ。けどまぁ、ほぼ決まりやわ。せやからよ、自殺やろうが事故やろうが他殺やろうが、あんたらにあんまうろうろされたら困るってやつや」


 俺たちの邪魔をするな。酷なことを言われているはずなのに、そんなことは気にもならず、冬暉は楠画廊の実体に囚われた。夕子もだろう。神妙な顔で口を開いた。


「ほな、田渕もデート商法に関わっとったっちゅうことですね」


「多分な」


 冬暉と夕子は頷き合った。


「解りました。画廊には近付きませんので」


「おう。こっちに影響があれへんかったら、あんたらが何しようが構わんからよ。むしろ殺人犯上げてくれりゃ、街はまた平和になるわな」


「ありがとうございました」


「おう」


 冬暉と夕子は結城さんに礼を言い、これから外出予定の結城さんと別れた。並んで部署に向かって歩きながら、ひそひそと話をする。


「関係ある思います?」


「あるかもね。恨み買うててもおかしく無いやんね」


「っすね」


 今でこそいちばん多い詐欺は、オレオレ詐欺や還付金詐欺などの特殊詐欺となっている。古典的とも言えるデート商法は効率が良く無いのだろう。だが最近ではSNSで気軽に関係性を深められ、実際に会った時にはもう踊らされている。マッチングアプリが悪用される事例もあり、その手段は時代に応じて変化しているのだ。


 そうして部署に着き、ふたりは口を(つぐ)む。(すき)を見つけては田渕の件で動いているが、他の捜査員に知られたくは無い。面倒なことになるだけだ。


 とりあえず今は、管轄(かんかつ)内で大きな事件が起こらないことを願うばかりである。警察官らしく平和を思う心は元より、ここまで来て田渕の件で動けなくなることは勘弁(かんべん)していただきたい。捜査はスピードも生命なのである。




 カフェ・シュガーパインが閉店時間を迎えると、後片付けを迅速(じんそく)に済ませ、晩ごはんに春眞(はるま)お手製洋風親子丼を食べ、住居スペースのリビングに集まった里中(さとなか)4兄弟と夕子。


 白ワインで満たされたワイングラスを掲げ、満面の笑みの茉夏(まなつ)が高らかに宣言した。


「ほんでは! これより第1回捜査会議を始めます!」


 それただの乾杯の合図! 缶ビールを握り締め春眞は心中でそう突っ込み、ウィスキーのお湯割りを前に秋都(あきと)は微笑まし気な表情。ハイボールを飲みながら冬暉は憮然(ぶぜん)とした表情でそれを見つめ、缶ビールを前に夕子は本気かお愛想か判らない拍手を送る。


「つかよ、何で姉貴が仕切っとんねん」


 冬暉が不機嫌そうに吐き捨てると、茉夏は「ふふん」と胸を反らした。


「やる気やから!」


「何を!」


 冬暉が咄嗟(とっさ)に突っ込む。しかし茉夏には何を言っても無駄なのだ。春眞などは最初から諦めている。双子だと言うのにどうしてここまで違うのか。忘れそうになるが、春眞と茉夏は双子の姉弟なのである。


 そして茉夏は冬暉などにはお構い無しに、話を進めて行く。


「ほな、ユキちゃん夕子さん、捜査の結果をどうぞ!」


「……はいよ」


 冬暉は不機嫌そうなまま、しかし大人しく手帳を開いた。捜査に使用している貸与(たいよ)タブレットは、基本持ち帰り禁止なのである。


「えぇと、ま、ぶっちゃけ、やっぱ他殺やろあれ。今日春兄が嗅ぎ付けたドライアイスの匂い、あれ、死亡推定時刻を遅らせようとして置いたもんやて思ってる。自殺すんなら、んなもんいらんからな」


「どれぐらい遅らせられるもんなん?」


 春眞が問うと、冬暉は「うーん」と小さく唸った。


「量にもよるやろうけど、アリバイ作りのためやろうから、最低でも2時間はずれるぐらいは置いてたんや無いか。推測やけどな」


「ドライアイスって、鑑識(かんしき)の検査とかで判らへんかったん?」


 茉夏が聞くと、冬暉と夕子が同時に頷いた。


「ドライアイスは二酸化炭素でできとるからね。気化してまうと空気に混ざって判らんくなるんよね。二酸化炭素は空気中にあるもんやし」


「そっかー、考えてあるんやね」


「自殺を装って〜、もし他殺ってバレちゃった時のために死亡時間ずらしてアリバイ作ったのかしら〜? 結構念入れてるわね〜」


 茉夏と秋都が感心する様に言う。


火傷(やけど)せん様に素肌に当たらん様に置いたやろうけど、解剖(かいぼう)できとったら見つかったやろうね。見た目だけやったら死斑(しはん)と混ざって判りにくいから」


 夕子の話に茉夏はまた興味深げに大きく頷いた。すっかり前のめりだ。


 冬暉の報告は続く。


「でもって田渕が勤めとった画廊がよ、デート商法の元締めやってぇ話でよ。恨み買っとってもおかしく無ぇわな」


「悪いやつや!」


 茉夏が声を上げた。デート商法と言うことは詐欺。田渕は男性だから、女性を(だま)して二束三文(にそくさんもん)にもならない様な品物を高額で買わせていたと言う事か。


「今んとこ、心当たりっつったらそれの被害者な。薬物盛るんやったら非力な女でもできんだろ」


「殺してまうほど騙し取られたっちゅうこと? 酷い事するなぁ。あ、勿論田渕の方が」


 茉夏はあくまで女性の味方である。


「いや、せやからって殺したらあかんやろ」


 春眞がつい反論すると、(ふく)れっ面で(にら)まれた。


「どれもこれも推測な。画廊の名簿みてぇなもんでも手に入りゃあいんだが、ちと今は難しくてよ。そん中からアリバイの有無を確認してぇんやけどな」


「あら、ほな、もしかして田渕とうちに来てた3人の女性、被害者かしら〜? もしくは予備軍?」


 秋都が(あご)に指を添えて言うと、夕子が頷いた。


「可能性は高いですよね。せやからレシートを置いてあったんかも知れません。他の飲食店のもんも。画廊の経費になるんや無いでしょうか」


「あー、だから数週間分も溜めてたっちゅうわけか」


 春眞がなるほどと手を打った。


「じゃあ〜、その田渕のお友だちとかに女性関係とか聞いたら出て来るかしら?」


 秋都の提案に、夕子は残念そうに首を振った。


「いえ、聞き込みん時に女性関係も聞いたんですけど、年単位で女性の影は無かったみたいで」


「そうなの〜、残念ね〜」


 ではどこから被害者を辿れば良いのか。(くだん)の画廊には近付けない。聞けば、担当刑事に情報を貰うと同時に釘を刺されたところだと言う。担当刑事たちが摘発(てきはつ)した後なら名簿を借りることもできるかも知れないが、確実では無い。一同首を(ひね)って考え込む。


「あっ! 闇サイト!」


 茉夏が顔を上げて、叫ぶ様に言った。皆の視線が茉夏に集まる。


「裏サイトもあるやろか。ちょお待って! ノーパソ持って来る!」


 茉夏は立ち上がると、走って自室に上がって行った。

ありがとうございました!( ̄∇ ̄*)

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

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