第12話 「ひとり」の出逢い
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少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
その晩、冬暉が帰宅したのは23時を過ぎた頃だった。カフェ・シュガーパインの閉店後の片付けもすっかり終わり、春眞たちは住居エリアに上がっていた。
急に部署で飲み会が入ったらしい。社会人なのだから時々ある事だ。足取りはしっかりしているものの、適度な飲酒でほろ酔い加減だった冬暉だが。
「速水ちゃんのストーカーの素性が割れたかもよ〜」
秋都のこの一言で、酔いなどどこかにすっ飛んで行ってしまった様だ。
「マジかよ!」
「マジマジ〜。ちょっと予想外のところから出てきちゃった〜。でも話を聞いたらそう予想外でも無かったって言うか〜」
「なんやねんそれ」
冬暉が冷蔵庫からペットボトルのミネラルウオーターを出しながら眉をひそめる。
「ほら、毎週金曜日に店にシュガーバインのメンテに来てくれる山崎さんておるやろ。カワカミリースの」
「ああ、あの何か爽やかそうな兄ちゃんな」
冬暉はペットボトルを傾けながら、着替えもそこそこに春眞たちが集まるリビングのソファに混じった。春眞と茉夏は缶ビールを開け、秋都はウィスキーの水割りを飲んでいた。
「その山崎さんの同期やったんやってさ!」
「は? 何やそれ」
山崎さんにその同期の話を聞いた。名前は前原知明。カワカミリースのメンテナンススタッフだ。特に仲が良いわけでは無いが、同期と言う事もあって、もうひとりの同期である佐々木さんと3人で飲みに行ったりする事もあるらしい。
その席で、お付き合いしている人の有無の話になった事があった。佐々木さんはその時今の奥方である女性と交際していて、そののろけ話や小さな愚痴などを聞かされた。
その時、山崎さんにも交際している女性がいた。速水さんだ。山崎さんはあまりプライベートを、特に恋人の事を吹聴する趣味は無いとのことで、恋人がいると言う事は正直に告げたが、それ以外は佐々木さんの聞き役に徹していた。前原はいない、とつまらなさそうに短くそれだけを述べ、後は黙々とお酒やテーブルいっぱいに並べられたお料理に手を伸ばしていた。
「なぁ、彼女の写真とかあるか?」
佐々木さんが興味たっぷりに訊いて来た。そこで「無い」と言えば良かったのかも知れないが、つい「あるで」と言ってしまった。お酒が入っていたせいもあるのだろう。
山崎さんと佐々木さんはスマートフォンに入れられた恋人の写真を見せ合った。佐々木さんのものは現奥方とのツーショット、山崎さんのものは、速水さんとUSJのキャラクター着ぐるみとのツーショットだった。
速水さんのスマートフォンで撮れば良かったのだが、着ぐるみを見つけてテンションが上がってしまった速水さんは、山崎さんにスマートフォンを預ける事も忘れて、着ぐるみに駆け寄ってしまった。
サービス精神旺盛の着ぐるみに寄り添って、Vサインを出しながら「撮って撮って!」とはしゃぐものだから、山崎さんはとりあえず自分のスマートフォンで撮影して、後で速水さんに転送したのだった。
その時の写真を消す理由も無かったので、入れっぱなしにしていたのだ。しかもその写真は我ながら良く撮れていて、満面の笑顔の速水さんがとても可愛かった。
その流れで前原にも写真を見せた。その時、それまで興味無さそうに生気の乏しかった前原の目がかっと見開かれた事を、山崎さんも佐々木さんも気付かなかった。
「なるほどな、そん時に見初めやがったわけか」
「多分ね。山崎さんも心当たりってそれぐらいしか無いって言うてたし」
「けどそん時は、速水さんは山崎さんと付き合うてたわけやろ。それ知っててストーキングしてるってのか?」
「会社でお別れした話をしたんですって〜。もうひとりの同期の彼に「彼女元気か?」って訊かれたから「別れた」って。それを聞かれたんかも知れへんわね」
「同じ会社におるんやから、有り得るやんね」
「そっか」
写真を見せたのは山崎さんだが、迂闊だとは責められない。まさかこんな羽目になるとは、常識のある人間なら誰も思わないだろう。同期とは言え社内だけの付き合いで、それは浅いものだ。前原の陰気さを見抜いていたとしても、それでまさかストーカーに成り下がるなんて思いもしないだろう。
「じゃ、明日……は俺休みやけど、ちょっと会社行って来る。届けて、その某を取り調べ、になるか?」
「えー!? 警察に任せてまうんか!?」
冬暉の至極真っ当な提案に、茉夏が不満気に異を唱えた。
「当たり前やろ。これまでも、こっから先も警察の仕事やっての」
「ストーカーの正体が判ったんは春ちゃんのお陰やねんで!? それにここまで来て警察に任せるなんてつまらへん!」
「つまるつまらへんや無ぇよ。好奇心や興味本位でこれ以上首突っ込むなってんだ」
憤慨する茉夏に対し、冬暉は呆れ顔だ。
「まぁ、確かにこっから先は警察のお仕事よね〜」
「秋ちゃんまで!」
秋都の台詞に茉夏は更にヒートアップする。春眞と言えば、冬暉の言う事がもっともだと思うし、だからと言って頭に血が昇ってしまっている茉夏に反論しようものなら、ますますこの場が混乱してしまう想像が容易に出来てしまうので、口出ししない。触らぬ神に祟りなし、だ。
「でも、ね」
秋都のにっこり笑って首を傾げた。
「確かにここまで来て、後は警察にって言うのは、納得は行かないわよねぇ〜」
「秋兄! 何言い出すねん!」
味方だと思っていた秋都の台詞に冬暉は仰天し、一気に機嫌を直した茉夏は味方を得たとばかりに、得意気に何度も頷いた。
「もちろん最終的には警察のお世話になる事になるわ〜。でも速水ちゃんに怖い思いをさせて、私たちを振り回した落とし前はきっちり付けてもらわなきゃあねぇ〜」
秋都は言うと、にやりと笑った。あ、これ何か悪い事考えてる顔や。春眞は前原某に少しだけ同情した。
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