君ちんちん生やすことなかれ
学芸部と銘打ってはいるが、その実、今では漫画やイラストを描いている者が殆どだ。
「あ、部長お疲れ様です」
「あー、田辺君。お疲れ」
いつも通り部室へ向かうと、今日は君島部長と二人きり。君島部長は変わり者で有名だが、黙っていればまあまあ美……いや、微美人だ。
「田辺君。面白い遊びを思い付いたのだが、どうしたら君は参加してくれるかな?」
「やることは前提なんですね。どんな遊びなんです?」
「なあに、簡単な話さ」
君島部長が両手で髪を後ろへファッサァと力強く払った。
「まずは女の子のイラストを描く。キュートでもセクシーでもOKだ」
「ほうほう」
「出来たら隅っこに(男です)と書く」
「止めて下さい台無しです」
「楽しいだろ?」
「いやいやいや、何で台無しにするんですか」
「無いより有った方が得だろ?」
「損得の問題じゃあないんですよ。損得だけで言ったたら何にでも青汁かけていい事になっちゃいますよ」
「まあ、落ち着いて聞け。そう興奮するなってば」
「してませんよ冷静です」
君島部長はサササッと素早く眼鏡の女の子の絵を描いて、隅っこに(男です)と書いた。なんてこった。
「田辺君、今から君に話すことは、あくまで仮の話だ」
「はぁ」
「ある日、君はちんちん屋にちんちんを買いに行ったとしよう」
「初っ端から訳が理解不能状態まっしぐらなんですが何の話でしたっけ!?」
「落ち着け、仮の話だって」
「その仮が既におかしいんですって」
「でだ」
「あ、説明しないパターンですね。分かりました諦めます」
「ちんちん屋のオヤジが『おまけしておくね!』と言ってきた。君はどう思う?」
「今日も世界は平和だなって思います」
「そうじゃない。おまけってのは個数か大きさ、どっちだと思う?」
「仮の話なのでどうでも良いです」
「真面目に考えるんだ。君はちんちん屋にちんちんを買いに行ってるんだ。少なくとも君のちんちんは買い換え時なんじゃないのか?」
「ソウデスネー」
「買うなら古い物は下取りも視野に入れるし、ちん検が切れる前にするのがいいと思う」
「さらっと言い捨てましたけど、ちん検ってなんなんすかね?」
「年式が古かったり、故障箇所があれば、当然査定価格に影響も出るだろう」
「人のブツを廃車扱いしないで下さい。まだ健在です」
「もしかしたらオイルが漏れているかもしれない。もしかしたらエンジンのかかりが悪いかもしれない。案外気が付かない所で壊れているかもしれないぞ?」
「ソウデスカー」
「しかも新しい物はいいぞ。アクセルとブレーキを踏み間違っても安全システムが働くからな」
「なんですかアクセルとブレーキって……」
「仮にだ、長い授業が終わって君が急いで廊下に出たところで、君の溺愛する鮫川さんに声をかけられたらどうする?」
鮫川さんは俺がひっそりと思いを寄せる隣のクラスの女子だ。しかし、何故君島部長がそれを知っているのか、後で尋問しなければならないな。
「当然話を聞きます」
「でだ、話の途中でアクセルとブレーキを間違えたらどうする?」
「大惨事です。もう二度と学校には来れないでしょうね」
「だろ? だが、もし鮫川さんが男で、同じように君の目の前でブレーキとアクセルを踏み間違えたらどうする?」
「…………とりあえず保留にします」
「いきなり拒絶しないあたり、君は既に理解しているのでないのかね?」
「まさか」
「もし、だ。もし私が男だとしたらどうする?」
「えっ? えー……と?」
「田辺君は私が男だとしたら、何かが変わるかのね?」
「えー、と。個人的には男の方がうれしいです」
「やはりか」
「違うんです、そういう意味ではなくてですね……俺としては部長と漫画やイラストについて遅くまで語ったり、家に行って二人きりで遊んだりしたら、絶対に面白いだろなと思ってるんです」
「それは女性とは出来ない事か?」
「そりゃあ……気を遣います」
「じゃあこうしよう」
君島部長は画用紙に(男)と書き、ハサミで切り取って安全ピンで胸に着けた。
「これで台無しだな。さーて、飯でも食いに行って、その後ウチに来て熱く語ろうか!」
「部長……」
「その後は風呂だな、そして一緒のベッドで狭苦しく寝るんだ。青春だな」
「……そうですね」
「よし、行くぞ!」
「ええ!」
こうして、俺は部長と近くの組織的飲食店へと向かった──。
──チュン、チュン。
「……責任取れよな」
「……はい」
俺はアクセルとブレーキを踏み間違えた。