国破れて山河在り
ギオン公国による独立戦争は、たったの一週間で終結した。
ハンドレッド伯爵領攻略に失敗し、連邦との和睦材料を得られなかった為、徹底抗戦を避けた形であった。
ギオンの街への終戦の報せは派遣騎士ポールが引き受け、街に戻っていたソドム公の養子である司法騎士アレックスとソドムの妻 宮廷魔術師レウルーラが受諾した。
公国側の条件として正式な降伏への立ち合いを望み、アレックスのみ同行を許可されて、ポールと共に連邦王都に向かうこととなった。
大国の面子もあり、ソドムを謀殺することはないと思われるが、方向性のおかしい忠臣が忖度して襲撃しかねないので、一応こちら側の人間を向かわせるのである。
ギオン城では、その二人を幹部達が見送っていた。
伯爵領での負け戦に関しては一同「伯爵が2つの街を放棄してガランチャ城に立て籠もるとは思わなかったし、譜代の騎士団長が国の財産持ち逃げしたあげく、領主が蒸発するとは想定外にも程があるから・・・しゃーない!」という見解で一致し、受け入れていた。
「結局、連邦の総取りになっちゃったわねぇ~」と、暴れる場面がなかったシュラが言った。
領主が逃げた伯爵領は連邦のものになり、おそらく降伏した公国もそうなる。戦争の発端は伯爵による挑発であるから、ソドムの命まではとらないという推測があればこそのシュラの軽い発言であった。
ギオン公国の消滅は、彼女が無職になることを意味している。今までのソドムの護衛は、楽で給料も良く、面白かったので、とても残念であった。
上記に加え、同じ部屋に住み込んでいるため家賃もなく、護衛を兼ねての食事は無料、ミニスカ無税で税金も免除・・・それらの特典も霧散する。
「あっ!タクヤさん・・・例の代金はどうなんの?」経理のタクヤの袖を引き、ヒソヒソと 【ソドムによる十年お触りプランの分割払い】について聞いた。これも馬鹿にならない収入源であり、シュラにとっては死活問題であった。
「あ?ほんだごと知らね!こっちは引き渡しやら、兵たちの再就職の推薦状なんかで頭いっぱいだんで」と、一蹴するタクヤ。経理が本職の彼としては、キッチリ敗戦処理をこなすことが、次の就職への強みになるのだ、小娘の小遣いなど どうでもよかった。
伯爵の財産を奪えなかったということは、ソドムの莫大な借金はそのままだろうし、月々の税金や公営商売の収入が無くなれば・・・やはり無理なのはシュラでも分かっていたが、もしかしたら・・・と聞いてみたまでで。
実際に聞いてみて、しょんぼりするシュラ。
(ま、出羽守がいつでも遊びに来いって言ってたし、そっちに世話になるのもアリなんだけどさ)
自分の今後ばかり心配しているシュラとは対照的に、宮廷魔術師レウルーラはアレックスに降伏調印の場での立ち回りを言い含めている。
真っ先にソドムのピンチに駈けつけたい心を抑え、毅然と職務を全うしていた。
ソドムの命は取られないとしても、隠居を迫られると思っている。見張りやすい連邦王都か、再軍備できないような辺境か…。
いずれにせよ、必ず文書で不可侵条約を結ぶようにアレックスに伝えた。
おそらく、簡単に口頭で済ませようとするだろうが、口約束などもってのほかである。言った言わないになれば、子供の使いになり、証拠が残らなければ反故にされても後の祭りである。
結果的にではあるが、労せず二つの領地を連邦にもたらしたのだ、隠居先の安全くらい もぎ取る権利はあるはずだとレウルーラは考えている。
不可侵条約を取り交わせば、たとえ捨扶持程度の領地であっても、ソドムの商才とレウルーラの魔術で豊かな生活ができるだろう。
(国を失うことになったけど、ソドムの夢は叶う…。これで良かったのかもしれない。いや・・・、これこそが彼の狙いだったのかしら。別に支配欲が高いわけでもないし、実際の国の運営は大変だって痛感してるだろうから・・・)
「〜では、夫…いえ、ソドム公王を頼みましたよ。これ以上、挑発に乗らないようにとね」
レウルーラの作り笑顔には、明らかに憔悴が見てとれた。
優しいアレックスは、少しでも不安を払拭してあげたいと思い、
「お任せ下さい!必ず無事に連れて帰ります」と力強く応じ、一礼してから踵を返して、ポールと共に馬で連邦王国へ向かった。