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幕間『不気味な影との邂逅』

 私立桔梗(ききょう)高等学校のある水波(みななみ)市、歩風町(ほかぜちょう)

 都心に近いこの町はそれなりに発展しており、少なくとも買い物や遊ぶ場所には事欠かないだろう。


 今、俺が歩いているのはレトロモダンな雰囲気の商店街。

 時刻は午後七時を少し過ぎたところ。

 道行く人々は学生や仕事終わりの社会人が多く、ベンチに座って誰かと待ち合わせている人もいれば、軽やかな足取りで居酒屋、レストランに入っていく人もいる。


 都心よりは静かに、田舎よりは騒がしいその雑踏は、俺にとって心地いい。


 今夜もきっと、長い夜になる。

 本はいくつかまだ未読のものがあるから、やはり食材の調達をしておくべきだろう。


「食パン、ハム、スライスチーズ、レタス、マヨネーズ、マスタード……サーモンとスライスオニオンを買ってもいいな。あとはバナナかリンゴ……」


 買うものをとりあえずピックアップ。

 朝食はサンドイッチか生のフルーツと決めてる。特にこだわりがあるわけでもないが、サンドイッチは手軽だし、生のフルーツは食べれば体の調子をよくしてくれるし、味も嫌いじゃない。

 理由としてはそれくらいだ。


 だがそれはそれとして、問題は今日の夕飯。

 気分としては喫茶店に入ってパスタか小さなピザでも食べたい気持ちがある。

 それほど疲れたわけじゃないし、がっつりしたのはちょっと気が引ける、といった具合だ。


「夕食はあっさりしたスープパスタ。ありだ。むしろそれがいい」


 そうとなると店を探すことになるのだがが、今は時間帯も相まってどこもだいぶ込み合っているだろう。

 待つのは慣れているが、空腹時の退屈は好きじゃない。

 だからすぐに入れて美味しそうな店を探してみることにした。


 ついでに後日寄りそうなベーカリーショップや野菜などの直売店もチェックしておこう。


 そうして緩慢(かんまん)な足取りで商店街を抜け、通りに出たところ。ふと、青白い街頭の下を歩く一人の男が目に入った。


 顔はパーカーのフードを深くかぶっていて分からないが、体格からして男。

 身長は高く、体も鍛えられている。


「…………」


 明らかに怪しいやつだ。俺はそう思った。


 パーカー男は人混みに紛れながらゆっくりと歩き、俺のほうへと向かってくる。

 顔を隠しているがポケットに手を入れているわけではない。

 背筋も真っすぐだし、歩く動作も極めて自然だ。だからこそ、被ったフードが異質に思える。


 俺は近くのガードレールに寄りかかり、パーカー男が目の前を通る瞬間、その顔を覗くことに決めた。

 あの男は何がおかしい。

 もし今後犯罪を起こすような人間なら、涼子(りょうこ)さんに伝えないと。


「…………」


 明るい夜の町は静寂を忘れたまま、一秒、二秒と時を送っていく。

 流れる雑踏が気のせいかゆったりとして見えて――そして男が目の前を通る瞬間。

 

 ――俺はパーカー男を見失った。


「……?」


 店に入ったのか、別の通りに行ったのか。気になった俺は通りの端から人混みをかき分け、最後に男が見えた場所へ向かう。

 のだが、その途中で。



「――神の子よ。今はまだ、そのときではない」


 

 声が、背後から聞こえた。

 それも普通のものじゃない。ボイスチェンジャーか合成音声を使った特殊な声だ。


「――ッ、お前は誰だ……?」


 そう問いかけるのと同時に振り返る。が、しかしそこにパーカー男の姿はなかった。

 まるで幽鬼(ゆうき)めいたその存在。

 仄かに残る寒気は、絡みつくようにねっとりと全身に広がっていく。


 周囲の人間に怪訝な視線を浴びせられながら、俺はため息を吐く。

 どうせ変ないたずらだ。これ以上あの男と会うことはないだろう。

 そう思い、気を取り直す。やれやれ、変に疲れてしまった。


「やっぱり今日はステーキでも食べるかな……」

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