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番外編『美原夏野の高校生活』

 最初に言っておくとウチ――美原夏野(みはらなつの)はいわゆるぼっちだ。


 それなりにスタイルもよく、スカートも短く、地毛も茶髪で、爪なども綺麗に整えて、見た目は活発なギャルといった感じだが、ぼっちだ。


 そもそも今の容姿も、ぼっちからの脱却を図るべくして色々改善した結果なんだけど。

 そこからさらに色々あって、クラスに友達と呼べるような人はいない。


 一応一年生で、でも同い年ではある冬馬白雪(とうましらゆき)という友人がいるのだが、学年が違うだけあって、やはり一人ぼっちというイメージは拭い去れない。


 先日、ちょっとした因縁のある二年の女王、クラスカーストのトップに座する七瀬七海(ななせななみ)と知り合いくらいの仲になったものの、それもやはり友達とは呼べなくて。


 そもそも因縁というと少しカッコいいけど、フツーにウチがいじめられたってだけだし。

 余計友達になれない感でちゃってるし。


 まあその被害者加害者関係は、七瀬本人からの土下座やら慰謝料やら(もちろん返却したけど)があったのでもう突っ込むつもりはない。


 とはいえ、とはいえだ。

 これでようやく何の後腐れもなく女子友達を作って放課後一緒にタピる……! みたいな目標を密かに掲げたウチだったのだが、どうも最近、別の問題が浮上してきている。


「……あー、おはよー」


 今日はゴールデンウィークの中間、四連休を前にした中途半端な平日。

 ウチは勇気を振り絞って朝、自分の席に行く道すがら、通りかかった女子に挨拶をしてみたのだが。


「あっ……お、おはようございますぅ……」


 返事をした女子は、か細い声で明らかにウチに怯えている感じだった。


「……」


 結局それ以上会話はなく、ウチは無言で席に着いて、窓の外を見た。

 ああ、青空が眩しいなー(遠い目)。


「あ、やっばぁ! 数学のプリントやってない!」


 と、隣の席の灰園(はいぞの)さん(彼氏持ち)が嘆いていたので。


「……あー、よかったらウチの見せるけど?」


「へ⁉ い、いえ! 自分でやりますので、どうぞそのままお寛ぎくださいませ!」


「……」


 最近、どうにもクラスの女子連中がこんな感じなのだ。

 いや男子にも避けられている気がする。何なら崇められていると思うときすらある。


 幸か不幸か、理由には心当たりがあった。

 

 この前、イヤホンで音楽を聴いているフリをして周囲の会話を盗み聞いて知ったのだけれど。

 どうもウチ――美原夏野は今。

 女王である七瀬七海の腹心として恐れられているらしい。


 しかもただの部下じゃない。

 女王への反逆者を潰すための影の部下、派閥の№2、ファントムサマーとか言われている。

 

 いやいやいや、夢見すぎ。そんなのいるわけないじゃん。

 みんな高校生? 中学二年生じゃなくて? 

 や、ファントムサマーとかちょっとかっけえけどさ。


 ともあれこうなってしまった経緯なのだが、どうも先週あたりの七瀬を貶めようとした下剋上に巻き込まれ、悪辣なる噂の被害に遭ったとき、七瀬に庇われたことがあるのだが。

 それが遠因となっているらしい。


 なんでも七瀬がウチを今までいじめていたのは、本当に信頼に足る人材かどうかのテストをしていて、下剋上を企てた別派閥を叩き潰したことで見事、七瀬の懐刀として合格した――というストーリーになっているようだ。


 いや別派閥潰したの七瀬自身だし、何ならウチは蚊帳の外すぎて泣いていたくらいなんだけど……。

 

「あ、あの……」


「ん?」


「今日の髪型、素敵ですね! これよかったらどうぞ!」


 突然声をかけられ、髪型を褒められ、いきなり渡されたのは――丁寧に包装された小箱。

 中身はちょっとお高めのチョコレートのようだ。

 リボンのところにメッセージカードが付いている。


「え、や、さすがにいきなりこんなの貰っちゃうの申し訳ないんだけど……っていねぇし……」


 とりあえずもうすぐホームルームが始まるのでチョコは食べず、メッセージだけ確認することに。

 どれどれ。


 『影ながら応援しております♡ 影だけに。きゃっ♡』


 きゃっ♡ じゃないから。しかも影ってどこにかかってんの! 何一人で盛り上がってんの!


 と心の中で突っ込みを入れたところで、そういえば自分が七瀬の影の部下だと思われていたことを思い出す。

 ってことはさっきの子は七瀬の派閥の子で、噂を信じちゃって、ウチのファンになった的な?


 いやいや事実無根なんです。噂は噂なんです。


 ちなみに今日のウチの髪型はポニーテール。

 最近少し暑くなってきたので、首の辺りに熱がこもるのが嫌で軽く結んだのだ。


 ため息と共に受け取ってしまったチョコを机の中にしまう。

 教室の扉が開かれた。


「――おはよう」


 綺麗な声が騒がしい教室の中に安らぎをもたらす。

 登校してきたのは七瀬七海。相変わらず女王という立ち位置に相応しい美麗な容姿。

 なのだが。


「……げ」


 思わず声が出てしまった。

 というのも七瀬はいつも、前髪をかきあげてふわっとした、海外モデルのような印象の髪型なんだけど、今日に限ってはまさかのポニーテールだった。


 ポニテ被り……、ウチには分かる。このあとのクラスメイトの反応が手に取るように分かる。


「おはようございます、七瀬さん! 相変わらずお美しいですね!」


「ごきげんよう、七瀬さん。どうぞこちらをお通りになってください!」


「今日はいつもと髪型が違うんですね! とてもお似合いです!」


 と、おおむねいつも通りの女王賛美がありつつ。

 そして教室の隅のほうから。


「きゃあー……七瀬さんと美原さん、同じ髪型じゃん。え? エモくない?」


「因縁の関係と思いきや裏ではラブラブってこと⁉ 匂わせなの! これは! 禁断の⁉」


「誰もに慕われる女王と孤高の懐刀……尊いかぁ~~~??」


 みたいな声がちらほら聞こえてくる。


 くぅ~違うんだよなぁ、それは。髪型被りとかもう匂わせどころじゃないじゃん。

 ただ偶然被っただけなんだって。

 ほら、今日暑いし何ならクラスのロングヘア女子ほとんどポニテじゃん……!


「――おはよう、美原さん」


「え、ああ……おはよ」


 いつの間にか、七瀬がウチの席の近くにいた。

 優しく微笑んで挨拶をして、それから自分の席へ行く。


 ……七瀬、改めて見ると顔が良いな。めっちゃいい。超美形。

 なんて感想は置いておき、ちょっと挨拶をしただけで再び沸き立つ教室から目を逸らすように、ウチは窓の外に目を向けた。


「……はぁ……」


 影の部下。孤高の懐刀。そのレッテルが張られた今、普通に友達を作ることは難しそうだ。

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