14話『男子同士のちょっとした雑談』
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月曜日。高校生活がスタートし、はや一週間と少し。
俺が在籍している一年三組でも、目に見える形でグループができあがっていた。
二年のカーストトップ――七瀬七海のような女王の誕生はないが、活発な運動部、大人しい文化部、そして部活に入らず友人も少ない謎多き個人。だいたいその三つに別れている。
ちなみに俺は謎多き個人の分類。午前の授業は寝ていて、二年生のギャルと面識のある何か変なやつというのが、だいたいの認識だ。
とはいえ、クラスで浮いていることは確かだが、特筆して孤立しているというわけでもない。
その理由としては。
「俺思ったんだけどさ、冬馬ってこう、人の心を見抜く力みたいなのがあるだろ? それを"三限のときみたいに"もっと、恋愛方面に役立てらんないものかね?」
前の席であり友人の高砂楓が気軽に絡んでくれるからだ。
楓の人柄のよさはもはや周知の事実で、楓と仲がよければ大体いいやつ、という共通認識までできあがっている。
このクラスにおいて、格差が少なくいじめがないのは、彼がみんなを繋いでくれているおかげでもあるだろう。
と、繋がる点の一つである俺は思う。
「というと?」
ちなみに楓の言う"三限のときみたいに"というのは、三限の最中に、とあることがきっかけで一組のカップルが誕生したことを指している。
しかし、そのこと語るのはもう少し先。
今はただそういうことがあったのだと思っていてほしい。
「いやだからぁ、俺が思うに青春って言えばやっぱ恋愛だろ? で、お前は相手の考えてることが分かる。なんなら相手を惚れさせることだってできる。違うか?」
「そりゃあまあ、多少意識を誘導することはできるけど……でもそんな万能じゃないよ。どうあがいたって無理な人もいる」
「つまり逆を言えばだ。あ、こいつ俺のこと好きだなってやつに、相手から告白させるみたいなことはできるんだろ。実際さっきのはそうだったし」
「……まあ、背中を押すことはできるね」
実際、身体測定の結果を改ざん――じゃなくて前借りするために、養護教諭の婚活を手伝っていたりもする。
先日なんか街コンで、明らかにヒモになることが狙いのホストに引っかかりそうになってたのを止めたんだが、あれは大変だった。
果たして彼女に、年下で八頭身で色気があって意外と喧嘩が強いイケメンの彼氏ができる日はくるのか。
というか本当にそんな人が存在するのか。
正直不安しかない。
「なるほどな。それでお前、美原先輩と付き合ってるわけか」
「それは誤解だ。夏野とは友達」
「嘘つけ。先週一緒に喫茶店行ったんだろ? それに俺は知ってるぞ。昨日も二人で映画観てたろ」
「それは事実だけど、友達としてだって。……っていうかどうして知ってるの。ストーカー?」
「友人をストーカー扱いすんなって。自慢じゃないが、休日はだいたい町中を走り回ってるんだよ。で、偶然見かけた」
――見殺しより、人殺しがいい。
不意に、以前楓が口にした言葉がフラッシュバックする。
彼がどのようにしてその言葉を信条とするに至ったかは知らない。
だが、少なくとも、困っている人を放っておけない性格なのは確かだ。
なので町中を走り回ってるという言い分には不思議と納得させられてしまう。
「つか、正直俺は男女間の友情とか成立しないと思ってるからな。今は友達でもそのうち……あーやらし」
「そういえば男女の友情が破綻する理由は、だいたい男の性欲が原因とか聞いたような」
「……それは今後美原先輩が危ないって言ってるのか、逆にめちゃくちゃ失礼なことを言ってるのか、どっちなんだ?」
「答えが知りたければ俺の心を読み取ってみて」
「無理。つかそんな話は置いといてさ、俺の青春計画に協力してくれよ。具体的には俺が彼女を作れる手助けをして欲しい……!」
「青春計画ねぇ……」
楓には七瀬との一件でかなりお世話になった。
だから何か助けになってやりたい気持ちはあることにはある。
とはいえ恋愛相談は養護教諭のことだけでかなり手一杯だし……。
落としどころとしては、楓本人が気付いていない、楓のことを好きな人がいたらそれとなく教える。
……とか、かなぁ。
とりあえずその辺りを提案しようとした矢先。
「――すまない、冬馬白雪君はいるだろうか」
凛々しく堂々とした、それでいて透き通る声が聞こえた。