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現実との相対 2

  「日常の正体」


家の裏の広い広い竹藪には

この時期、イノシシさんがやってくる


ひょっこり顔を出すタケノコを

誰よりも早く掘り出すために

どかどか、ガサガサ

傍若無人にやって来る


上手く追い払って

我が家の食卓に載せたいと

一時期までは張り合っていたけども

その正体を見たら気力が失せた


とても勝てない、張り合えない


家の裏の広い広い竹藪には

この時期、ウグイスさんがやってくる


ホーホケッ

ホーホケッ

ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ・・・

ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ・・・


やってくるウグイスは最後のキョを鳴かない

その代わりなのか、谷渡りは大サービス

ワンフレーズを二度、三度


毎年のことだから

親から子へと

子から孫へと

引き継がれているのだろうか、変?


家の裏の広い広い竹藪には

この時期、斜に眺める常識がやってくる

化け物のようなイノシシや

キョ無しウグイスなんかが纏まって

常識を踏みつけながら

日常を不安に蹴落とす


蹴り倒された日常は

倒れるときに常識の後ろ髪を

引っ掴んでしまっていたので

常識は逃げられないでひっくり返る

私と言う日常は倒れたままで

常識の後ろ髪を手離すことができないので

不安や恐慌を他人事にできなくて

深い泥沼に沈んでいく予感がするよ




  「日常からの逃避」


いつのことだろうか

どこのことだろうか

最近のことではなさそうだ

かなり以前のことだろうか


そこには広い舞台がある

舞台を取り囲むようにテーブルがならび

テーブルの上には料理が並ぶ

席に着く人々の装いは地味で

各々の手にはビールが注がれたジョッキがあった


薄いピンク色のベビー服の衣装で

コントを繰り広げ

何やら楽しそうに場を盛り上げる

若い男女には目もくれず

席に着く人々は賑やかだ


めいめい勝手に話題に興じ

あちらからも、こちらからも

笑い声が立ち上る


ここは二階のボックス席なのか

階下の喧騒は気にならず

テーブルには料理と

ワインと、ハイボールが並んでいる

もう一つのグラスはカクテルか


暗い電球の明かりにぼんやりと

浮かび上がるドレスには

薄い笑みがまとわりつき

ここにはゆっくりとした時間が流れている

時折聞こえるのは何の話題だろうか


耳を澄ませてみる


「今日は本当に久しぶりに子供を科学館に連れて行ってたの」

「それで帰りが遅くなってしまって、ここへ連れてきたのよ」

「今日はこのあと私のところにお泊りよ」


胸がズキリとした、

何故かはわからないが胸が痛い


いや、解っているはずだ

何故胸が痛むのかも全部


私はいつの間にか逃げ場所を見失ってしまった


のらりくらりと躱しながら

真剣味の足りない現実感覚で

甘やかせるだけ甘やかして

怠け者の私は逃げ回っていたのだけれど

この今の状況は何だ


呪われたように過去が襲ってくる

誰にも罪はない

ただ、私の過去が忘れられることを拒否するのだ

逃げ回る先々に手をまわし

触れる先に棘がある


品行方正がモットーな私に

謹厳、克己、自制、禁欲がモットーな私に

この棘は痛い

痛すぎるから止めて!


こうして、今日も日常から逃げ回る



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