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グランド・ウォーリアーズ  作者: 滅びの人
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第七話『遠征訓練へ行こう』

我ら零番隊が{カメロ市街地}での作戦の責任を取り、謹慎処分になった一日目。俺は千代と圭が座っている部隊室のソファーの前でこう言っていた。


「そうだ遠征訓練に行こう」


俺の旅行のCMみたいな言葉に二人は一様にして目に疑問符を浮かべて俺を見ていた。もしくは「こいつ馬鹿じゃねえの?」と思っているのかもしれない。まあそれはどっちでもいい。俺は二人に自分の計画を話すことにした。


「前から常々思っていたんだ。この隊には実力が足りないってな。だから黄泉子が入ったことでパワーバランスの再調整が必要だと思う」


実際、謹慎になって良かったとも思っている面もある。今回上手くいったからといって、実力不足に気付かないまま戦い続けることで大事な時にコケてしまう可能性が大いにある。ここで自分たちの欠点に気付き直す。何に関しても言えることだが、すごく大事なことだと個人的に思う。


「そうは言っても場所とかその他諸々、私たちに用意されてるわけないじゃない?」


「そうよ、馬鹿にされて終わりに決まってるわ」


まあ何という事でしょう。隊員の士気が上がりません。完全にひねくれておいでだ。


「そ、そんなこと言うなよ。大丈夫だって」


「「信じられるわけないでしょ」」


死んだ四つの瞳が俺を睨む。感情どころか俺に対する信頼さえ失っている様だ。まあ、逆にこいつらが俺を信頼してたことがあったかと言われれば無いから。いつも通りだよな。


「仕方が無いだろ?先生に向上心が無いチームは復帰させられないって言われたんだから」


「結局自分の意志じゃないっていうことじゃない」


おっしゃる通りですね、はい。でもあの鬼教官はそうでもしないと後が怖いとかそういうレベルじゃないから。殺されちゃうから。


「協力してくれよ。なっ?隊長からのお願いだって」


手を合わせて二人にお願いする俺。超カッコいい。マジ、会社員の鑑。


「何か弱いわねーこれが隊長?」


「威厳のいの字も無いわね。隊長失格でしょ」


そこまで!?駄目だ、我慢しろ俺。こいつらをやる気にさせないと一向に話が進まない!

イライラを抑えつつ説得を続けることに全力を尽くす。


「ほら、貴重な休暇だと思ってさ。復帰したら他の奴らを驚かせてやろうぜ」


「「ええー」」


ええーってお前。やる気が無さすぎる二人。もうこのままでいいんじゃないか。そう思い始めた時。


「ハローエブリワン!!」


そんな挨拶と共に部隊室の扉が勢いよく開き、男性が部屋に入ってくる。白スーツに赤ネクタイ、そしてスーツと同じ白色をした長髪。ツカツカと革靴特有の靴音を鳴らしながら歩いてくる様は、何かこの世界とは別の世界にでもいるような不思議な空気を纏っている。

だが、驚くことはない。何故ならこの人物は、このWWSにいて当然の存在なのだから。


「理事長…また来たんですか?」


「その通り!!」


――白帝石榴シロミカドザクロ、一人の力でこのWWSを作り出し、現理事長であるこの人物はどういうわけだか知らないがこの零番隊の部隊室によく訪れる。俺は一向に構わないが(もちろん疑問は感じる)他の隊員、主に俺の目の前の二人が「何で来るの」勢だ。なので露骨に嫌そうな顔をしているが、俺は話を進める。


「どうしたんですか?まさか、謹慎中の俺たちの観察でもしに来たんですか?」


「それもあるんだけどねぇ、その答えは不正解だ」


いや、それもあるんかい。と、心の中で突っ込む。


「じゃあ何で?」


「君が謹慎中に訓練でもしたがるんじゃないかと思ってね。勝手ながら場所を用意させてもらった」


え、マジで?


「それ、本当ですか?」


俺の質問に理事長は愚問だなとばかりにフッと笑う


「私はそういう利益も生まないつまらない嘘や冗談は言わないんだ。是非信じてもらって構わない」


その言葉で俺はさっきまで失っていた遠征訓練への希望が再燃した。俺はできるだけ声を低くして、二人の隊員へ命令する。


「千代、圭、他の皆を連れてこい」


「え?何で?」


「自分で連れて来ればいいじゃん」


いつもならこの舐めた態度で心が折れていただろう。だが今は、違う!


「何って決まっているだろ?作戦会議だ。遠征訓練に向けての。何をやってるんだ?早くしろ」


「どうしたの?急にカッコつけて」


「隊長命令だ」


「…」


俺がここまで強く言ったことが無かったからか、嫌そうな顔しながらも二人は渋々部隊室から出て行った。理事長はそれを、まるで子供同士のやり取りを見ているかのようなニコニコした顔で見ていた。何だその顔?


「じゃあ君の隊の皆が集まるまで、詳細について話そうか」


「分かりました」


という流れで俺たちは無事、遠征訓練へとこぎ着けた訳だ。ちなみに二人が他の皆を呼んで戻ってきたのはそれから約五時間後だった。遅い…


・・・


「わあーっ」


俺の隣に座っている黄泉子が年相応(まあ俺と大して変わんないけど)の可愛い声を上げて窓の外を眺める。


「天さんっ景色がすごく良いですねっ!」


「そうだなー!」


何でこんなことを言っているのか。そう、俺たちは今遠征訓練をする場所へ向かう為に理事長の粋な計らいによって貸し出してもらったバスで移動をしているのだ。俺たちに貸されるような場所だから酷い場所かと思いきや、近くに海まであるようだ。俺と黄泉子が今見ている方も海が見渡せる限り一面に広がっている。休日以外でWWS外に出て数日間を過ごすのは俺も今回が初めてだ。なので正直滅茶苦茶楽しみで、今日の朝は早く起きた。


「あんた達騒がしいわね、小学生の遠足じゃないんだからもうちょっと静かにしてくれない?」


俺の前に座っている千代が自分の背もたれの所から俺側に乗り出して俺を睨む。


「何か怖い顔してるし、顔色悪いけど大丈夫か?酔った?」


「心配してくれた所でちょっと好感度上がったけど、「酔った?」のセリフでまた下がったわ」


だそうだ。


「そうかいそうかい。はい、酔い止め」


俺が酔い止めを渡すと千代は「ありがと」と言って自分の席に戻った。すると今度は俺の席の背もたれがガンガン動く。


「ねー目的地まだー?」


俺の後ろに座る圭が思いっ切り蹴っているらしい。それ、俺だから良いけど他ではやるなよ。お前が嫁に行けなくなるからな、そんなことしてると。


「耀、目的地までどれくらいだ?」


「結構近くまで来てるはずだから。天ちゃんは皆が暴れないように見張ってて」


運転席からそんな声が返ってくる。そう言われてもねえ。


「それは心配ないさ」


それに対して黄泉子とは逆側の反対に座る風華先輩がそう言う。まあ、先輩がそう言うなら心配ないっしょ。知らんけど。


「もし誰かが暴れたら私が気絶させる」


風華先輩は自分の持っている小説の文庫本を閉じてそう言った。あ、物理的な奴でした。てか、今気づいたけど俺皆に席囲まれてるね。何で?包囲網?


「天さん天さんっ!あそこに鳥が飛んでますよ!」


黄泉子が俺の裾をくいくい引っ張る。


「少し静かにして…」


千代がだるそうな声でそう言う。


「ねえーーまだーーーーーーーー?」


圭が俺の背もたれを再び蹴り出す。


「天ちゃん、そろそろ着くよ。準備しておいて」


耀の声が運転席からする。


「神童君、私が今読んでいる小説で主人公の心情がいまいち読み取れないんだが…」


風華先輩が文庫本を開いて「ここの所が…」と見せてくる。すまん、それは俺も分かんない。

そんなこんなで結局うるさくなったバス内で俺は思う。


…遠征訓練、これ大丈夫か?


そんな俺の意思とは関係なくバスは目的地を目指して走り続けるのだった。


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