第二話『新たな希望』
えっと…どうしたもんか。取り敢えず俺は今、自分の部隊室の真ん中にあるテーブルで押しかけ少女である月黄泉子(これからは黄泉子と呼ぼう)と向き合っている。黄泉子は緊張した面持ちで不安そうに俺の顔を見ている。…その捨てられた子犬のような目はやめて欲しいんだけど。
それで、黄泉子は俺の部隊に入りたいと言っている訳なんだが…何で俺の部隊なんだろうか?ほかにもいい部隊は圧倒的にあるはずだし、そもそも俺の部隊は志望者が少なすぎて、今、現時点で俺を含めて五人しかいない。す、少ない…
ウェスト王国では一部隊四十人とか普通らしいから、悲しいを超えて諦めなんだよなぁ。
っと、とにかく俺は黄泉子の生徒データ(ステータスなどが記載されている書類)に目を通すことにした。どれだけここが人数が少なくて、人が欲しいと言っても入れられない場合だってある。良くも悪くも。
「あの、どうでしょうか…?」
…目を通した感想だが、並っていうのが正直なところだ。入学試験の成績も筆記こそそこそこ高いものの、このWWSではそんなもの意味をなさないのと同等だ。実技試験は…
攻撃力並(むしろ低い)、スピード並(こっちはちょっと速いかも)、防御力…低いな。
他のステータスも微妙なラインだ。感想には【その場その場の適応力が低い】と書かれていた。失礼かもしれないがなんでこれで受かれたんだ?その思いが脳裏によぎりまくっている。
それにしてもこの名前どこかで…
しかし、それらは俺にとっては誤差に過ぎない。言ってしまえば目の前の少女が弱い事なんて大体予想がつく。なんだかんだ言ってこの部隊に来るように仕向けられたんだろう。
「まあ、入るには努力が必要だな。俺としても入った以上は隊員には消えて欲しくはないからな」
建前だ、もし俺の部隊に入ったとしたら、この少女は苦労をするだろう、というかする。それを隊長としてただ見ていることしかできないのは俺にとっても苦痛だ。つまり何が言いたいかというと
・・・入るメリットがない・・・
だから、この一言で終わらせる
「黄泉子」
「!?はっはい!」
突然の呼名に黄泉子は驚いて返事をする。そして俺は人間として最悪でも、彼女にとっては最良の選択を告げる。
「これから模擬戦を行なう。もしお前が勝ったら、この部隊に入れてやる。だが、もし負けたら・・・」
「あきらめろ。」
あえて威圧するように放った俺の一言で、黄泉子の白い肌がさらに白くなったように感じる。少し、というかかなり可哀想だが、ここで負かしてもっと安全な部隊に行かせよう。
俺はそう誓うと、模擬戦場へ向かう。
・・・
模擬戦場にて俺と黄泉子はお互いに訓練用の剣を構え、向かい合い立っていた。
もうこの時点で悟った。この少女じゃ相手にならない、と。構え方も知らないようで、
何段の構えだそれ?みたいな恰好をしている。超一流になったりすると自分流の構え方を編み出す達人もいるが、どんなに強い、例えば{ソルジャー}本部に務めているような人間でも基礎を大事にする。しかし、それが無い。おまけに緊張の為か小刻みに震えている。これは早めに片を付けた方が良さそうだ。
「じゃあ、行くぞ!」
「はいっ!」
黄泉子がそう言った時には俺は動いていた。相手は初心者。作戦なんて建てる前に頭に軽く一撃当てて終わりで良いだろう。俺は黄泉子の背後に一瞬で回ると、剣を大きく振り下ろす。
終わりだ
そう思っていた。
「!?」
しかし、その攻撃は綺麗にガードされていた。それを行なった少女はその剣を円を描くように動かし、俺の剣を受け流すとそのまま自身の剣を切り上げてきた。成程な。そんな簡単な手じゃ、流石に合格者は無理か。しょうがない、それじゃあ。
天は切り上げられた黄泉子の剣を、それ以上の力で思い切り叩き落とす。叩き落とした剣を更に足で踏みつけ地面に突き刺すと、自分の剣を速攻で構えなおし今度は突きにシフトする。黄泉子は慌てて剣を引き抜くが、天の方が速かった。天の剣が黄泉子の肩に当たると、黄泉子は後方へ大きく吹き飛ばされる。訓練用の剣の為殺傷能力は無いが、威力は使い手の力に依存する。
(これで敗北判定でもいいが、もうちょっと諦めを断ち切ってやるか)
そうして天はとどめを入れようと構える。しかし、それより先に天に向かって一筋の閃光が飛んで来ていた。
「はああああああああああああああ!!」
黄泉子だ。突きの体勢でものすごい勢いで突っ込んできた。
「くっ!」
あまりの速さに避けきれないと悟り、咄嗟に剣で受ける、が
メキッ!!
嫌な音がして、そちらの方に目を向ける。折れていた。訓練用の剣が。刀身の真ん中から砕け、剣先が明後日の方向に飛んでいく。それを確認する間もなく次の斬撃が繰り出される。
「情報と、違うぞっ。だが」
ここで負けるわけにはいかない。今の天は当初の目的を忘れ、謎のプライドに操られ動いていた。飛んでくる斬撃を大きく跳躍して回避し、黄泉子の頭に向かって空手チョップを放っていた。
「ふみゅっ!?」
剣の戦いに突然格闘技をされて驚きと痛みでその場に倒れ伏す黄泉子。…しばらくして起き上がると、天の方を非難混じりの目で見つめた。止めろ、こっち見んな。
だが勝負は勝負。そう言うつもりだった。だが部隊室に二人で戻ってきた後も、
超悩む
入れるべきか、入れぬべきか。そうして視線をさまよわせていると、さっきの黄泉子の生徒データが目に入る。そこで初めて見つける。感想スペース、続いてる…急いで手に取り読む。
最初はさっき言った通り【適応力が無い】で始まっている。しかし、その続きに驚く。
【しかし、属性適性が非常に高く、訓練すれば圧倒的な戦力になるだろう】と
「じゃあ私そろそろ行きますね」
俺の葛藤は知らず、さっきのルールにより黄泉子は帰ろうとした。が
「っ!」
その手を反射的に掴んでいた。黄泉子が振り返る。
「天さん…?」
「ちょっと…待て…」
俺は焦る気持ちを押さえつけ、黄泉子に向き直ると、その場で日本人の謝罪スタイルDOGEZAを実行した。黄泉子は黙って見ているのだろうか?俺、今見えないから、見えてんの床だけだから分かんないけど。後はすることは一つ
「すまなかった、さっきは」
「え?」
疑問符を浮かべる黄泉子。俺は続ける。
「さっき俺は負けたら立ち去れと言ったな?…気が変わった」
「それは、どういう…?」
「俺の部隊に、入ってくれないか?」
「ええ!?でも…」
「ああ、だがお前の志望は断ったが、今度は俺からスカウトさせてほしい」
滅茶苦茶だって分かってる。言ってることおかしいのだって承知だ。しかし
「お前と共闘してみたくなった」
純粋な気持ちだ、それが。俺の、今できる最高の方法だろうか。まあ最低だけどな。
「も、ももももちろんです!よろしくお願いします!」
そんな声が聞こえてくる。俺は顔を上げる。そこには天使の笑みを浮かべる、というか天使な黄泉子が立っていた。ああ女神様。
「あら?何か音が聞こえると思ったら、面白そうなことになってるじゃない?」
え?
俺は恐る恐る部隊室入り口を見る。そこにはサイズの違う四つの影が立って俺たち二人を見ていた
戦闘描写もっと勉強します_(._.)_






