プロローグ
ガキンッ!!
早朝には普通響かない金属音が鳴り響く。
その音の原因となっているのは、訓練用に作られた剣を打ち合わせる青年と少女だ。
ただし、互角の訓練というわけではなく、必死に剣を振る少女を青年が軽く受け流しているといった状況だ。
「はあっ!」
少女が剣で体当たりしそのまま鍔迫り合いに持ち込む。
しばらく膠着し、青年が一旦離れようかと思った瞬間少女が唐突に動く。
鍔を一気に押し上げると、青年の体にさらに体当たりをする。
青年は後ろに下がろうとした瞬間への不意打ちで体を大きくのけぞらせる。
「これでっ!」
少女は最後の一撃を入れようと狙いを定める。
不意打ちによるのけぞりへの即座攻撃、これを避けることはまずできないだろう。
しかしそれは
青年がただの一般市民だった場合の話である。
青年はのけぞった自身の体を有り得ない速度で立て直すと、その速度のまま剣を構え、そして振る。
よって少女がとどめを刺す前に青年の剣が少女の頭にクリーンヒットした。
「ひぐっ!?」
可愛らしい声を出して剣を取り落としてその場にうずくまる少女。
青年は剣をその場に置くと、少女に近づく。
少女はその瞬間に落とした剣を拾うと、青年に斬りかかる…が、落ちていた石につまずき、ギャグの様にこける。
「マシにはなってきたが、まだまだだ。多分、まだまだ×10ぐらいだ」
地面に顔をうずめる少女に、青年は自分の感想を言う。
すると少女は顔を上げて、真っ赤になって頬を膨らませ抗議する。
「違いますっ!天さんが強すぎるんですっ!」
天さんと呼ばれた青年、ちなみにこの“天さん”はもちろん某有名バトルマンガのおでこにも目がある例の人ではない。青年、神童 天は表情を崩さず淡々と告げる
「前のお前が“何もせず戦場から逃げ出す雑魚兵士”だったとするのならば、今のお前は“戦が始まってすぐに敵の攻撃が受けきれず戦死する一兵卒”だ」
「褒められてるのかどうか分からないです~」
複雑な表情をする少女、天はニヤリと笑う。
「褒めてるさ。何せ俺はお前にアイスという特別報酬を用意しているぐらいだからな」
そう言うと、天は近くに置いていたクーラーボックスを手に取ると、中から取り出した棒アイスを少女に放る。
「わあっありがとうございます。天さん大好きです!」
そう言うと少女は天に抱き着く。
「暑苦しい…離れろ黄泉子…」
「えへへ“愛す”ですー」
などと言っている。誰が上手いこと言えと…。
天は少し離れた場所を指さす
「あそこで食え。これは隊長命令だ」
そう言われた少女、月 黄泉子は天から離れると敬礼する。
「了解です、隊長」
そう言ってアイスを食べ始める黄泉子を見て、天は自分もアイスを手に取ると袋を開ける。ふと、周りを見渡す、満開だった桜はすっかり散り新しい葉が生え始めている。
そして目の前の少女を見る、とても可愛らしい子だ。いい目をしてるし、度胸もある。
「もう食べたか?早く次を始めないと、登校時間になっちまうぞー」
せかすようにそう告げる天に黄泉子は「休憩終わるの早過ぎぃ!!」というような表情をする。
「さあっ!始めようか!」
「何で急にハイテンションなんですか!?」
そんなとき天はふと思い出す。
黄泉子と出会ったあの日を。この日常から始まる全ての物語の原点となったあの時を。
初投稿でございます。
よろしくお願いいたします。