08.姉になりました
対面式から早くももう三年。十歳になった私はこの頃よく時間による変化を実感する。
例えば私の体。どうやらエルフは発育が早いようで、出るとこも出てきたし、大人っぽさが増して可愛い女の子から綺麗な女性にレベルアップした感じだ。
魔法と武術の修練の方も順調で、ユリエールさんとの料理教室も今では参加者が増えてメイドさんたち全員と料理を楽しむようになった。そのお陰で日々の料理の味が格段に上がり、グランとミシェルにも認められたことでユリエールさんは正式に料理長になった。
挙げようと思ったらこの三年で変わったことは数え切れないほどあるけど、一番変わったことと言えば私に弟ができたことだろう。
弟の名前はシオン。二年ちょっと前に生まれたから今は二歳で、前世を合わせても初めての弟だ。そもそも前世では一人っ子だったから自分が姉になること自体が初体験で、弟という存在が可愛くて仕方がなかった。シオンは私と違って変わった力を持って産まれなかったので外出制限が掛けられることもなく、私は暇さえあればシオンを散歩へと連れ出した。他には作ったお菓子を食べさせたり、本を読んであげたりして可愛がった。
今思えば甘やかし過ぎたと反省している。ミシェルや他のメイドさんたちより一緒に遊んだと言っても過言ではないだろう。そんなシオンが姉好きになるのは至極当然のことだった。
「姉様、姉様~!!」
「ん?どうしたのシオン?」
「一緒に遊ぼ、姉様!!」
シオンは私が魔法の修練をしている時に、決まってやってくる。と言ってもまだ一人で歩けないのでいつも世話係のリリアーナさんに抱かれてやってくるんだけど、リリアーナさんは決まって疲れ切った顔でやってくる。
「すみませんリオン様…。シオン様がどうしてもと聞かなくて…」
「姉様、遊ぼ!!」
こうやってシオンは毎日のように私を遊びに誘いに来る。私としては誘いに来てくれるのは大変嬉しいことなんだけど、流石にこうしてリリアーナさんに迷惑を掛けていることを良しとすることは出来ない。
「はぁ……。シオン、私と前に約束したよね?リリアーナさんには迷惑かけないって」
「うん……」
私が怒っていることを察してか、シオンは途端に大人しくなる。シオンは本当に私の事が好きなので、私のこととなると途端に聞き分けがよくなる。
「約束を破る子は私嫌いだよ」
「っ!?ごめんなさい、姉様!!僕ちゃんと約束守るから…!!」
「謝る相手が違うでしょ?」
そう言って私はシオンにリリアーナさんの方を向かせる。
「リリアーナさん、ごめんなさい」
「いつもすみません、リリアーナさん。シオンが度々迷惑をかけて…」
「いえ、これが私の仕事ですから」
「もし聞き分けが悪かったら私の名前を使ってください」
「あら、それは効果的ですね」
そう言うと私とリリアーナさんは互いに笑みを漏らした。
「それじゃあ私は修練に戻ります。シオンのことお願いします」
「はい。承知しました」
「姉様バイバイ!!」
シオンは抱かれながら手を振ってリリアーナさんと屋敷の方へ去っていった。去っていく二人を見送り、姿が見えなくなったところで「よしっ!」と気合を入れ直し、私は修練を再開するのだった。